相手の土俵で戦ってあげる
これで万事解決。するような相手だったら、私たちが手を焼くことはなかっただろう。山田先輩は反省するどころか、憤懣やる形無しと鼻を鳴らしてきた。
「でも、見ず知らずのあんたらに、ここまでコケにされて黙っているわけにはいかないのよね」
そう。こういう輩が素直にカードを返してくれるとは思えない。拳を握っていることからも察せられる通り、最も野蛮な手段に訴えるのが常套だ。
もちろん、こんなところで流血騒動なんて起こそうというつもりはない。そもそも、そんなことになったら、あいつらだけではなく、私たちもまとめてお陀仏だ。だから、私は最後のカードを切ることにする。
「確認したいのだけれど、あなたたちがカードを奪ったのって、敦美が真面目に練習しない戒め。そうだったわよね」
「ええ、まあ、そうね」
山田先輩が素っ頓狂な声をあげる。これは自分自身の発言だ。
「そうそう、あたしも聞いたからね」
ダメ押しで、友美と言う第三者の証言も加える。直接的に聞いたのは敦美だが、その辺りの事情は根回ししておいたのだ。
「なら、敦美があなたたち以上の実力を持っていたのなら、カードを没収する動機は無い。そうじゃない?」
「そうなるわね。で、何が言いたいのよ。まさか、カードで勝負しろとか言うんじゃないでしょうね。やったこともないゲームなんて勝てるわけねえし、卑怯すぎっしょ」
「そうよ、そうよ」と取り巻きも加勢する。流石に、それは反則だというのは言うまでもない。
「心配しないで。きちんと、あなたたちの土俵で戦ってあげる。私たちとバスケで勝負しない? そして、私たちが勝ったならカードを返す。先に言っておくけど、私はバスケ部員ではない。現役バスケ部員のあなたたち三人の方が圧倒的に有利。これなら文句無いでしょ」
これこそが、私の最大の切り札。自分のフィールドでの勝負に負けたのなら、流石に諦めざるを得ない。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた先輩だったけど、すぐに、この勝負の優位性に気づいたのだろう。嗜虐的に口角をあげる。
「その勝負、乗ってあげるわ。その代わり、あたしらが勝ったら。そうね、一円にもならないカードなんかもらっても意味無いし。あんたら二人、この店の前で土下座してもらおうかしら」
「な、そんな!」
声を上げたのは敦美だった。自分に被弾すると思っていたのだろう。私もまた、ろくでもないことを言われる覚悟をしていた。でも、こんな提案をしてくるなんて。
「嫌とは言わせないわよ。そこのチビには昨日スカートをめくられたんだし、あんたはたった今、散々生意気な口を利いたんだから。きっちり仕返しをさせてもらわないと気が済まないっての」
取り巻きはケラケラと笑っている。私たちの屈辱的な姿を想像しているのだろう。
最悪、私だけで恥辱を受ける覚悟で挑むか。唇をかみしめる。すると、
「その勝負、受けた!」
友美が勢いよく宣言した。私は慌てて、友美に耳打ちする。
「ちょっと、いいの。負けたら、あなたまで恥ずかしい思いをするのよ」
「負けなければいいじゃん。あたしを誰だと思ってるの? 知島中最強の助っ人よ」
胸を叩くが、すごいのか、そうでないのかよく分からない称号だ。ともかく、これで趨勢は決まった。
「待ってほしい!」
と、思ったが、異議を唱えたのは敦美だった。俯きながらも、まっすぐに手を伸ばしている。
「唯や友美に、そんな迷惑をかけるわけにはいかない。だから」
「構わないよ」
間髪入れずに宣告したのは友美だった。瞠目する敦美に、更に続ける。
「要は、負けなければいいんだよ。それとも、あっちゃんは、あたしが負けるって思ってるの? そっちの方が失礼だよ」
「でも」
「信頼。あたしを信じなさい」
その姿は、いつか見た二次元の中の勇姿。いかな強敵にも毅然と立ち向かう少女。それが三次元に降臨した。そんな彼女の言葉に、有無を言うことなどできなかった。
こうして、カードを賭けたスリーオンスリーの一発勝負が開幕するのだった。
カード紹介
屈強なるリザードマン
クラス:レジェンダリー ランク1 コスト3
攻撃力200 体力300
突撃
マナフォース7(自分の最大PPが7以上の時にこのサーバントを召喚した際、次の能力を得る)このサーバントはデコイを得る。