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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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人のものを盗ったら泥棒


 いよいよ、大会の本番を迎えた。本来なら、午後に備えて、ゆっくりと構えたいところ。なんて、悠長なことは言っていられないわね。

 友美とカードを買いに遠出した先で遭遇した事件。それを解決しないことには、大会どころではない。


 私が昨日話した作戦。理想論でしかなく、徒労に終わる可能性の方が高い。でも、全くカードゲームを知らない者が、偶然レアカードを手に入れた。そして、悪意がある。そう考えるなら、取り得る選択肢はコレなのだ。限られた手札でどうリーサルを狙うか。ゲームの極地点みたいね。


 友美と敦美に声をかけて集まった先。それは、右織町にある「おもちゃのマーチ」である。

「本当に、ここに先輩が来るの?」

「私の推理が間違ってなければね」

 開店直後から店内のデュエルスペースで待機する。最終調整も兼ねて友美とデュエバでバトルするが、気がそぞろになってつまらないミスを連発する始末だ。


 それに、心配といえば、友美だった。彼女はマスクをして現れたのだ。昨日、水没していたし、余計に心配になる。

「これ? 親がしていけってうるさくってさ。でも、大丈夫だよ。ほら、お馬鹿は風邪引かないって言うし」

「自分で言う?」

 当人は自嘲していたが、正直、気が気でなかった。と、いうのも、今回の作戦では友美の力に頼る部分も大きいのだ。こんな状態の彼女を矢面に出すのは心苦しいけど、彼女の事だから、「ゆっくり休んで」と言う方が反発するだろう。


 それに、バトルの誘いにも応じない敦美の方が深刻ではあった。じっと、デュエルスペースへと繋がる店内の階段を注視している。


 開店から一時間ほど経った頃だろうか。ひときわ騒がしい足音とともに、階段を上ってくる集団が現れた。

 まさかと、作戦を提案した私自身が驚いた。そして、その姿を認めるや、友美もガタリと立ち上がった。


 そいつらはデュエルスペースに到着するや、愕然としていた。そりゃそうだろう。その理由は、山田先輩が発した一言が物語っていた。

「あんたら、どうして、こんなところに」

 おもちゃ屋を訪問するにはやや不釣り合いな格好をした少女の集団。嫌でも衆目を集めることとなる。


 こういう時に矢面を切るのは友美だろうけど、作戦の立案者である私が行くしかないわね。膝が笑っていたけど、幸いにしてそれに感づくものはいない。息を吸って胸を張る。

「読みが当たったようね。素人が価値の分からないレアカードを手に入れた。なら、その価値が如何ほどか調べようとするはず。そして、あわよくば、売り飛ばしてお小遣いにしようってね」

「な、何の話よ」

 言葉が上ずっている。やはり、想定通りだったか。


 カードショップで類似カードを見つければ、幾何かの価値は判明する。そんな面倒くさいことしなくても、店員に査定を頼めば、一発で市場値段が判明する。昨今のカード転売のニュースで、たった一枚で数百万円の価値を持つカードが存在するというのは、割と一般的に知られている。ならば、ひょっとして、と思うのが人間心理だろう。


 それに則るなら、彼女たちの居住区である右織町で最も近いカードショップ。ここ、「おもちゃのマーチ」を訪れる可能性が高い。


 あちらにとっては予想外の人物と遭遇したことで、完全に動きが止まっている。が、そう簡単には論破させてくれないらしい。おどけるように、両手を広げる。

「カードがどうのこうのなんて、知らないし。偶然、おもちゃ屋見つけたから、入っただけ。変な言いがかり止めてくんない」

 白を切るつもりね。でも、そうはさせないわ。予め、この論戦のためにデッキに仕込んだカード。それを発動させてもらう。


「刑法第235条。他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」

「突然、訳の分からないことを言ってんじゃないわよ!」

「いわゆる窃盗罪よ。悪ふざけだろうが、本人の同意も無しに勝手にデッキからカードを抜き取った。これは立派な窃盗。いや、あなたにも分かるように言った方がいいわね。立派な泥棒よ!」

「だ、黙れ!」

 言い直した時に明らかに動揺していた。煽りの効果はあったみたいだ。それに、私のターンはまだ終わっていない。


「それに、こういうお店で中古品を買い取る時って、住所とかの記載を求められるの。どうしてか知ってる?」

「知るわけないでしょ」

「盗品だと判明した際に、捜査の手篝とするためよ。もし、カードを取られたと警察に訴えたら、すぐに捜査が及ぶでしょうね」

 尤も、未成年は保護者の同意が無いとカードを買い取ってもらえない。それに、警察もゲームのカード一枚で動くことは無いだろう。


 相応の知識を持っていれば、即座に反論を受けるような主張だった。それは織り込み済み。私の狙いは別にある。

 相手は、本当に軽い気持ちで犯行に及んだはず。それが想像以上にまずい結果に直結する。その事実さえ突きつけてしまえばどうなるか。


 大きくため息をついて、肩を落とす山田先輩。そして、あっけらかんと言い放った。

「ああ、分かった、分かった。確かに、カードは持ってるわよ」

 取り巻きに目配せすると、一枚のカードを提示してきた。「輪廻を司りし巫女右京」。間違いなく、敦美のデッキから消失したカードだ。

カード紹介

人食いシールド

クラス:アンデット ランク1 コスト2

攻撃力400 体力400

デコイ

このサーバントは相手プレイヤーを攻撃できない。

このサーバントがバトルした後、勝敗に関わらずこのサーバントを破壊する。

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