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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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プリクラと不審な敦美

 連れてこられたのはプリクラコーナー。これもまたやったことないわね。クラスの女子が話題にしているのは聞いたことあるけど。

「プリ手帳に唯ちゃんのシール、まだ貼ってないんだよね」

 手帳には他のクラスメイトと一緒に写っているシールが所狭しと貼られていた。そもそも私はその類の手帳すら持っていないのだが。


 当惑しているうちに、流れに任されるまま筐体の内部に連行された。これ、証明写真を撮るのと同じ感じでいいのよね。加工がどうのこうの言ってるけど。

「ほら、表情硬いぞ、笑って、笑って」

「いきなり笑えたって、そうもいかないわよ」

 っていうか、近いし。友美の頬が密着しそうな距離にある。そんな状況で笑えるか!


 シャッター音が鳴り、能面な私が映し出された。

「あー、これはこれで味があるけど、やっぱ物足りないな」

 自分でもそう思う。私、ここまで写真写り悪かったかしら。卒業アルバムの集合写真の時の顔になっているし。


 間髪入れずに二回目の撮影が始まる。笑えと言われても、どうすりゃいいのよ。面白いことを思い浮かべる。夏目漱石とかは面白いのベクトルが違うだろうし。

「ひゃぁん!」

 ごちゃごちゃ考えていると、いきなり脇を突かれるものだから、変な声が出てしまった。


「何すんのよ、友美!」

「表情、やっぱ硬いからほぐそうと思って」

 悪気無さそうに微笑んでいる。そして、なおも「ほれほれ」と突いてくる。まったく、この子は!


「お返しよ!」

「あー、ちょっと、マジで弱いからやめてよ」

「やめるか!」

 撮影が開始しようとしているにも関わらず、私たちは脇を攻撃し合った。その内、パシャリとシャッターが切られる。え、まさか。瞬間、私は我に返る。


 一体、どんな写真が撮られたのか。シュレディンガーの猫が入っている箱を開ける心地で、恐る恐る撮影結果を確認する。

「おー、さっきより格段にいいじゃん」

 写されていたのは、無邪気に笑い合う二人。素人目でも、青春の一ページを切り取ったような微笑ましさが伝わってくる。

「ま、まあ、悪くないんじゃない」

「もう、素直じゃないんだから。ほら、加工するよ。こっからが楽しいんだから」

「額に肉とか書くんじゃないでしょうね」

 照明とかを弄って、更に可愛くするらしい。よく分からないけど。本当に額に肉の落書きをやりだしたので、チョップで阻止しておいた。


 そうこうしているうちに、私の初めてのプリクラ写真ができあがった。友美とのツーショット。

「これ、墓まで持って行っていいかしら」

 あるいは、遺影にするとか。

「唯ちゃんも冗談言うことあるんだね」

 割と真面目に思ったのだけれど。道中、文具屋に寄って筆記用具と一緒に手帳を買っておいた。純白のページの初めてを飾る二人の写真。私はそれを大事そうに抱えるのだった。


 空腹を訴える友美とフードコートを訪れる。友美は迷うことなく、長崎ちゃんぽんのチェーン店の大盛を注文していた。

「友美は意外と大食いなわりに太らないのよね。その理由が分かった気がするわ」

 一日分の野菜が取れると謳うメニューを頼んだものの、案外量が多くてギブアップ寸前だった。なーんか、友美が物欲しそうに視線を送ってくるものだから、野菜をおすそ分けしておく。


 そして、ここでようやく、本来の目的に取り掛かる。とはいえ、そう都合よくレアカードが入っているわけはなく、空振りに等しかった。まあ、デッキは強化できなかったものの、それとは別の収穫があったから良しとしよう。

「このカードとか、あっちゃん喜びそうだな」

「でも、あの子が使うのってディーラーのデッキなんじゃない。それだとクラスが違うわよ。ウィザードのカードなんて使うのかしら」

「いいや、そうとも限らないよ」

 含みのある言い方ね。そういえば、敦美はどうしているのかしら。友美とバトルして以降、めっきりと姿を見ない。大会まで時間が無いというのに。私は紙コップの水をゆっくり嚥下する。


 目的も果たしたし、そろそろ帰ろうか。そう思いつつ、フードコートを後にする。

「あれ? やっぱりあっちゃんじゃない。こんなとこで会うなんて偶然じゃん」

 唐突に、友美がそんなことを言い出す。まさか、こんなところで知人に会うなんて、偶然にしては出来すぎじゃない。


 半信半疑のまま、友美が指差した先を確認する。と、本当に敦美だった。ツインテールを揺らし、店内を疾走している。

 小学生じゃあるまいし、何をやってるのやら。呆れるも、どうにも様子が変だ。そうよ。訳もないのに商業施設でランニングするかしら。それに、どうにも切羽詰まっているような。


「救援! 助けてほしい」

 私たちとすれ違いざま、敦美がそんな声を漏らす。呼びかけようとする暇も与えず、彼女はそのまま通り過ぎていく。これは明らかにタダ事ではない。


「行くよ、唯ちゃん」

 こういう状況での友美は即断即決だった。どうやら、疲れたって嘆いている場合じゃ無さそうね。友美が駆けだすのに負けじと、私もギアを上げるのだった。


 敦美は店外に出るや、近くにある公園へと向かっていく。一体、公園にいかな用事があるのか。

 いや、誰かを追いかけているようにも思える。彼女よりも更に先導しているのは、派手な格好をした女子三人組だ。


 どうやら、その少女たちを追っているようである。鬼ごっこの更に鬼ごっこをしているという滑稽な様相だが、私たちはいたって真剣である。

「友美、敦美が追っている人たちに見覚えある?」

「うーん、どっかで見たことある顔なんだよね。またドッペルヨノ〇ールかもしれないし」

 冗談を言えるだけの体力があるのが羨ましい。


 果てのないマラソンをされたらひとたまりも無かったが、敦美と少女たちは公園の中央広場で立ち止まった。

「敦美!」

「あっちゃん!」

 私たちが呼び掛けると、敦美は驚愕を露わに振り返る。すると、派手な格好の少女が舌打ちをした。

「あー、面倒なことになった」

 どうにも友好的では無さそうなのは明白だ。息切れとは別の理由で胸が苦しくなる。

カード紹介

フュージョニック・サイン

エマージェンシーカード

コスト6以上のミラクルフュージョン能力を使う際に発動できる。

その能力で支払うPPを3少なくする。

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