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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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敦美の過去とおばさん


「ここにも無いか」

 独り言ちて、わたしは自転車にまたがった。今日七件目のコンビニ。最新弾のパックが無いか巡っているのだが、あらかた刈り尽くされた跡のようだ。


 目当てのカードはもちろん、右京と左京。とりあえず、1枚ずつは確保してある。でも、デッキの完成度を上げるためには上限の3枚は手に入れておきたい。それだけ、優勝賞品のイラスト違い左京は垂涎の品なのだ。


 ただ、デッキを完成させたところで自己満足にしか過ぎない。実戦で使うつもりはないからだ。大切な物だからこそ、傷つけたくない。これぞ、コレクター心理。分かってもらえないだろうか。

 わたしはデッキケースに入れているもう一つのデッキを取り出す。キングディーラー。これであの楯列君に勝たないといけない。


 楯列君はデュエバをやっている相手には誰彼構わず声をかける。例えるならそう、友美を男子にしたような男だ。おもちゃのマーチで出会ったなら、すぐに意気投合しているだろう。そんな姿が容易に想像できる。


 そんな彼だから、わたしが目を付けられるのも遅かれ早かれだった。あれは、まだ私が小学生の頃だったろうか。

同じ学校の子と会うのが嫌だから、わざわざ隣町の高野商店まで遠征してきているのだが、ある日、たまたま楯列君も遠出してきていて鉢合わせしてしまった。


「あれ? えっと、加藤さんだっけ? 偶然じゃん!」

「否定。わたしの苗字は各務」

「そうそう、各務さん! へえ、カードやるんだ! それに、そのしゃべり方、デュエバのアニメの静香だろ!」

 しまった。そう、思った時にはもう遅い。


 デュエバの静香は小学生の頃憧れていたキャラクターだ。他人につっけんどんな態度を示しながらも己を崩さず、信じた正義のために戦う。そんな彼女の活躍を毎週食い入るように見ていた。

「まったく、男の子の番組に夢中になって」

 母親は呆れていたが、カードをねだると、すんなりお小遣いをくれた。


 おそらくだけど、わたしが友達と遊べる契機になればと思っていたのかもしれない。いつも、一人で遊べる遊び。読書とかゲームとか、そんなのばかりやっていたから。だって、その方が気楽だった。他人とぶつかり合うことなく済ませられるし。


 デュエバのカード自体に夢中になって、自分も静香みたいになれるかもしれないと思った。だから、バトルをする時に彼女の口調を真似してみた。


 でも、そうしたら対戦相手の男子に言われたのだ。

「アニメのキャラの真似してバッカみたい」


 そうして、次の日から散々学校でからかわれた。そうか、わたしでは静香にはなれないのか。思い上がりも甚だしい。だから、中学進学を機にデュエバも卒業しよう。そう、思っていた。


 そんな矢先に出会ったのが楯並君だったのだ。違う小学校だったから、わたしの悪評は知らないはず。そんな彼に汚点を披露してしまった。

「ちが、これは」

 必死に取り繕うとする。でも、頭の中が混乱し、うまく言葉が紡ぎだせない。次第に瞳孔に涙が溜まっていく。


「かっこいいな! ってか、スゲー上手いじゃん!」

「ほへ」

 思わず、間抜けな声が出てしまった。


「俺もあのアニメ好きなんだよ! 特にショウマとかかっこよくね!」

「ああ、うん。そう思う」

「だろ! そうだろ!」

 グイグイと顔を迫らせてくる。そういえば、誰かに似ているとずっと思っていた。今にして振り返れば、その答えは自明だ。デュエバの主人公、ショウマ。まさに、彼が画面から出てきたみたいだった。


「おうおう、騒がしいね、少年少女たち」

 騒動を聞きつけてか、エプロン姿のショートカットのお姉さんがやってきた。自称看板娘の芽衣さんだ。

「おばさん! こいつ、すっごいんだぜ! デュエバの静香の真似が滅茶苦茶上手いんだ!」

「へえ、そりゃすごいわね。時に少年、私はギリ成人だ。次におばさん呼びしたら容赦しないよ」

「お、おう」

 楯列君が怯んでいた。この人は絶対に怒らせないでおこう。


「それよか、もっかいやってくれよ」

「私も気になるわね」

「笑ったり、しない」

 おずおずと尋ねると、二人は顔を見合わせ、同時にサムズアップしてきた。相貌を崩し、私は咳払いする。


「先導。私が道を切り開く。だから安心しなさい」

「おお! 第19話の名場面じゃん。ショウマのピンチを初めて救ったやつだよね」

「そうそう。そっから仲間になるんだよな」

 二人してデュエバのアニメの話に花を咲かせている。そんな両者におずおずと尋ねる。


「質問。わたしのこと、おかしいと思わない?」

「いや、別に」

 楯列君のあっけらかんとした口調に開いた口が塞がらなくなる。追随するように芽衣さんも微笑む。

「それって、好きでやってることじゃん。そういうのを笑う子はここにはいないよ。もし、いるなら、私に言いなよ。とっちめてあげるから」

「おお、強そうだぞ! おばさん!」

 ゴツリ。楯列君の脳天にメテオナックルが落ちた。


 その様子がおかしくて、わたしはクツクツと笑いをこぼす。すると、涙腺の歯止めも途切れたのだろうか。溢れ出る涙を止めることができなかった。

「お、おい、泣くなよ」

「少年、女の子を泣かせるのは罪だぞ」

 オロオロとしている楯列君を芽衣さんは生温かい目で見ている。泣きながら笑うなんて器用な真似を披露したのは人生でこれが初めてだ。

カード紹介

インビシブル・スーツ

エマージェンシーカード

自分の場のサーバントを1体選ぶ。そのカードはターン終了時まで場を離れない。

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