ドッペルム〇マージ
勝負が決し、自然と拍手が巻き起こる。負けはしたものの、不思議と後悔はなかった。潔いまでにミラクル・フュージョンを発動するのに特化したデッキ構成。そして、それを達成するために、一寸の迷いが無いプレイイング。
これが一歩先を行くカードプレイヤー。私が背もたれに体重を預けていると、豪は破顔して手を差し出してきた。
「君、なかなかやるな! 女子でここまで強い奴と戦ったのは初めてだぜ!」
「お褒めに預かり恐縮だわ。と、いうよりも、敦美とは戦ったことないの? あの子もなかなか強いと思うけど」
「この店でカードのトレードで話したことはあるけど、戦ったことは無いな! それに、学校ではあまり話さないし」
堂々と言い張るけど、男子と女子ならば不思議では無いだろう。男女関係なく話しまくる友美がむしろ異常なのである。
なんか、敦美についての情報が得られるか前途多難になってきた。と、言うよりも、勝負を挑む前に確認しておくことだったわね。
「約束したからな! バトルしたら、敦美について知ってることを話すんだろ!」
「そうだよ。あっちゃん、学校だとどんな様子なの?」
「えっと。敦美は」
「ちょい、ちょい、ストップ」
さっそく語りだそうとする業を私は両腕を広げて制した。
「どうしたのさ。せっかく、話が聞けるのに」
友美がむくれる。気持ちは分かるわよ。
「そうだけど、ここで話すようなことではないでしょ。場所を変えない?」
「おお! ならばいいところがあるぜ!」
ニカッと豪が微笑んだ。一体、どこに連れていかれるのか。友美は疑いなく付き従っているし。不審者がうろついているという情報が出回ったら、人一倍警戒しないといけないわね。
そうして、三人でやってきた場所。どうということはない。右織市内にあるスーパーのフードコートだ。
これで、星のバックスにでも連れてこられたら違和感があったから、妥当と言うべきか。
「さすがは男子だね。躊躇なくラーメン頼んでるんだもん」
「腹が減ったら戦はできないぜ!」
そう言いつつ、豪はラーメンをすすっている。そう言う友美もちゃっかりアイスクリームを頼んでいる。これ、ただの食事会になってない?
「唯ちゃんはコーヒーゼリーか。本当にコーヒー好きだね」
「お前、コーヒー飲めるのか? 大人だな!」
フードコートに来たのに何も頼まないわけにはいかないでしょ。スガキヤで食事したのはいつ以来かしら。
ちゃっかりと注文しているわけだけど、ちゃっかりしているのはそれだけではなかった。
「あー、レアカードが出たと思ったけど、ウォーリアか!」
ここに来る途中、店内のおもちゃ屋でパックを購入していたのだ。新パックを狙っていたのだが、あいにく売り切れだった。なので、仕方なしに過去に発売されたパックを1パックずつ買うことにした。
「私もレアカードが入ってるわね。レジェンダリーだけど」
「お! じゃあ、交換しようぜ!」
提案されるがまま、私は豪にカードを手渡す。まさか、こんなところでレアカードが手に入るなんて。これぞ、棚から牡丹餅ね。
「ずるいぞ。あたしも唯ちゃんとトレードしたい」
「あなたとは前にやったじゃない」
「じゃあ、アイスあげるからゼリーちょうだい」
「どうしてそっちに被弾するのよ。いいけど」
友美の食べかけだと、よもや間接キス。それはお互い様か。彼女、そういうのは気にし無さそうだし。ああ、ああ、一口だけなのに、その一口が大きすぎるわよ。
さて、おやつタイムは大概にして、そろそろ本題に入ろう。
「それで、学校での敦美の様子だけど」
「おお、敦美についてだったな! 女子バスケ部に入ってる後輩なんだが、とにかく大人しい印象だな! チームメイトともあまり話しているところは見たことないぜ!」
「うーん、普段の唯ちゃんみたいな感じかな。唯ちゃんももっと話せばいいのに。キムっちとか田中とか」
「私のことは別にいいでしょ」
それに、亜子辺りが勝手に話しかけてくる。話題は数学の質問についてとかだけど。
「っていうか、やっぱりあっちゃん、バスケ部だったんだね。よかった、ドッペルム〇マージじゃなくて」
「ドッペルゲンガーね。その間違いは苦しいわよ」
「ムウ〇―ジがどうかしたのか? ゴーストなら俺はソ〇ブレイズが好きだぜ!」
「話がややこしくなるから、拾わないでちょうだい!」
声を張り上げてしまったから、おばさんが振り向いてきた。いらぬ恥をかいたじゃない。どうどうと慰めてるけど、あなたが悪いんだからね、友美。
「いやさ、この前バスケ部の練習試合があったんだけど、そこであっちゃんそっくりの子を見かけたんだよね」
「それで、他人の空似なんじゃないかって気になってたのよ」
「そういうことか! なら、安心していいぜ! 多分、君たちが知ってる敦美と同一人物だ!」
太鼓判を押されたことで胸をなでおろす。現実にドッペルゲンガーが存在している方が数倍問題ではあるけれど。
マニアックな小ネタ紹介
ム〇マージ、ソ〇ブレイズ
共にゴーストタイプのポケモン。なんということはない、ゲンガーがゴーストタイプということから派生したネタである。