表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
54/118

デュエバリストの語り合い

 額に手を添えるが、いつまでも苦悩してはいられない。さて、どう切り出すか。彼の実力を探りたいし、敦美についても知りたい。私が言葉を選んでいると、

「道場破りに来たんだよ!」

 友美が爆弾を投下した。


 当人はどや顔をしているが、私は気が気でなかった。そりゃそうだ。いきなり敵地に乗り込んで喧嘩を売ってどうするのよ。

「えっと、今のは言葉のアヤというやつで、えっと」

「いいぜ!」

「そう、いいぜ。って、え!?」

「俺と勝負したいんだろ、受けて立つぜ!」

 この子、本当にノリが良すぎない!? この調子のよさ、本当にあの時見たことがある。アニメのデュエバの主人公がそのまま画面から出てきたようなのだ。


「ようし、さっそく」

「ちょっと、待ちなさい!」

 さっそくバトルに移行しようとしている友美を、私は強制的に制止させる。むくれ顔をされたけど、可愛いから私だけにしてほしい。じゃなくて、喧嘩をふっかけるのは時期尚早でしょう。


「豪君だっけ。あなたに聞きたいことがあるのよ」

「俺にか? おう、何でも聞いてくれ!」

 ビシリと親指を立てられる。この人、いちいち格好つけないと話せないのかしら。


「あなた、右織中学に通っているわよね。なら、各務敦美という子を知らない?」

「各務さん? もしかして、敦美か? 大人しそうな三つ編みの子。後輩にいるぜ」

 敦美の学校生活については知る由もないので肯定はできない。でも、口ぶりからすると、敦美当人で間違いないようだ。と、いうか、名前呼びしている時点で知り合いなのは間違いない。


「その子の学校での様子について知りたいのよ」

「いいぜ! でも、敦美に確認は取ったのか?」

 ハイテンションで至極真っ当な横槍を入れられる。まさかの不意打ちに「ング」と喉を詰まらせる。


「俺としては話してもいいんだぜ! でも、後で敦美から恨まれても嫌だからな! 他人がされて嫌なことはしないのが、俺の主義だぜ!」

 この子、アホそうに見えて、随分と常識的な思考を持っているじゃない。それに、そこを突かれると反論しようが無くなる。なにせ、図星だからだ。


「お? どうした?」

 私が押し黙っていると、豪は不思議そうに顔を覗き込んできた。友美といい、私の周辺人物のパーソナルスペース、バグってるんじゃないの? そういうことされるものだから、思考は更にグチャグチャになる。私は無意識のうちに友美に瞳で訴えかけていた。


「あっちゃんを助けたいんだ」

 唐突に友美が語りだした。彼女にしては深刻な佇まいに、豪だけなく私すらも息を呑む。


「あっちゃん、学校で大変な目に遭っているかもしれない。でも、なかなかそのことについて話してくれないんだ。だから、同じ中学の子なら知ってるかもって思って」

 あまりにもド直球な内情暴露だった。それは流石にマズイ。


 いや、むしろ効果的かも。下手に取り繕って、余計に話がこじれては元の木阿弥。そうなるぐらいなら、玉砕覚悟で正面突破した方が勝機はある。

 現に、豪は「ほう」と感心したように相槌を打っている。ここが攻め時かもしれない。私は一歩前に進み出る。


「私からもお願いするわ。右織中の知り合いはほとんどいない。あなたが頼りなの」

「そこまで言うなら仕方ないな!」

 豪は鼻をこする。私たちは思わずハイタッチを交わした。


「でも、簡単に話して、後で敦美に恨まれるのは嫌だぜ! だから、君たちが信用できるか試させてもらう!」

 すんなりと話が進むかと思ったら、予想外の方向に舵を切った。思わず顔を引きつらせる私に対し、

「試すって、どうするつもり」

 友美は堂々と腰に手を当てて仁王立ちした。すると、豪は口角を上げる。なんだか不穏な気配がするわね。立ち位置として、私たちは下手。無理難題を吹っ掛けられる可能性は十分にあるわ。


 身構えていると、豪はビシリと腕を伸ばした。

「簡単なことだぜ! 俺とデュエバで勝負だ!」

 本当に簡単なことだった。そ、それでいいわけ?


「君たちもデュエバリストなんだろ。なら、デュエバをやれば語り合えるはずだ!」

「何なの、デュエバリストって」

「デュエバのプレイヤーはみんなそう呼ぶんだ。遊〇王のデュエリストみたいなもんだよ」

 友美は得意げに解説するけど、余計にややこしくなったような。キリスト教徒をクリスチャンと呼ぶようなものかしら。


 ともあれ、大方の趨勢は決まったうえ、条件も至極単純だ。おまけに、それならば。

「ようし、じゃあ、さっそく」

 友美が腕まくりをして、その勢いのままブンブン腕を振り回す。けれども、私は彼女の前に立ちふさがった。

「その勝負、私が受けるわ」


 鳩が豆鉄砲を食ったようという慣用句があるけど、それとしか形容できない状況に対面するとは思わなかった。なにせ、友美の現状はまさにそれだったのだ。

 そして、豪もまた、意外そうに「ほう」と感嘆の息を漏らす。

「ちょっと、どうしたのさ、唯ちゃん。こういう時、ダチョウ倶楽部の漫才のオチみたいになるんじゃないの」

「悪いけど、どうぞ、どうぞと譲るつもりはないわ。ここまで話が進んだのは友美、あなたのお膳立てがあってのもの。なのに、バトルまでおんぶにだっこしてもらうわけにはいかない」

「別にいいんだけどさ。あたしが戦いたいから」

「それを言うなら、私も同じよ。この子、この地区で最強なんでしょ。なら、今の私の実力を試したいと思ってね」

「唯ちゃん。それが本心でしょ」

 むくれるけど、事実だから仕方ない。


 一方で、豪は面白そうに腕組みする。

「俺はどっちだっていいぜ! わざわざここまでやって来たんだから、腕に自信があるんだろ! 強い相手なら、誰だって歓迎だぜ!」

 大見得を切って自信満々だ。気合だけで圧倒されそうになる。


 ともかく、実力を試したいというのは本当だ。目指すべき全国大会は、彼と相応。いや、それ以上の難敵が揃っているはず。現状、彼を相手にしてどこまで立ち回れるか。それを知れるだけでも、この戦いには大きな価値がある。

カード紹介

力任せの大猿

クラス:ビースト ランク1 コスト3

攻撃力100 体力100

このカードが場に出た時、能力「デコイ」を持つ相手サーバントを1体破壊する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ