ミラクル・フュージョン発動!
成り行きで始まってしまった、友美と敦美との決戦。そして、流れのまま、私は勝と一緒に観戦する羽目になる。
「いいよな、友美のやつ。ミラクル・フュージョンのカードを手に入れたんだろ。アンデットはフュージョンのカードすら実装されなかったんだぜ」
愚痴をこぼす勝に、私は親指を立てておいた。
「なんだよ、文句あるのかよ」
「別に。似た者同士として、同情してあげるわ」
「ふん、そうか」
つまらなそうに、勝は腕組みをする。
さて、肝心の両者のバトルだ。敦美は先行を得たものの、一向にサーバントを出す気配はない。それどころか、初めて動きを見せたのは3ターン目の魔法カード「魔導書の解読」だった。
一方で、友美はコボルト、隠密ネズミと順調にサーバントを繰り出していく。先制攻撃も決め、敦美の体力は1900。圧倒的に有利を保ちつつ、返しのターンを迎える。
「フフフ。さっそくだけど、行かせてもらうよ」
「おお、ここで使うのか。本当に強気ね」
芽衣は友美がやろうとしていることを予想できているのだろう。ほくほく顔で見守っている。まあ、私にもなんとなく察しが付く。
「森林を潜り抜け、侵略せよ、新緑の覇者! 密林の王者コンジャ召喚!」
友美の新しいカード。凶暴そうな目つきの白蛇だ。堂々たる名乗りのわりに、攻撃力200、体力300と特筆すべきところが無いように思える。
「セオリー通り、コンジャから出してきたわね。コンジャは攻撃力500以下のサーバントから攻撃されない能力を持っている」
「攻撃力500って、ランク2でも出さないと倒せないじゃないですか」
あるいは、魔法カードでも使うか。敦美は口を真一文字に結んでいる。どうやら、除去する手法を見いだせないようだ。
友美は容赦なく、先に出した2体のサーバントで計300ダメージを与える。そして、敦美のターン。
「防御。機械仕掛けの守衛召喚。ターンエンド」
体力は高いが、攻撃できないデコイ持ちだ。随分、消極的なプレイ。加えて、
「クラス、ディーラー」
私は思わずつぶやく。そのクラスは、私と初めて戦った時に使っていたもの。そして、右京とはクラスが違う。
「ふーん、そのデッキを使うんだ」
冷淡な声音。友美が発したとは思えなかった。敦美は肩を震わせる。現状の盤面だと、友美の3体のサーバントでちょうど攻撃力500。守衛を突破すること自体はできる。
でも、友美の苛烈さは私の想像を超えていた。
「密林の王者コンジャのミラクル・フュージョンを発動! コスト3を支払い、山札から密林の王者アンジャを召喚」
アンジャは攻撃力300の突撃持ちのサーバント。だが、それで終わるわけはなかった。
「そして、2体を融合! 出でよ、密林の帝王アジャコンジャ!」
黒と白。二色の大蛇が混じり合い、双頭の大蛇が顕現する。その姿は神話上の怪物ヒュドラを連想させた。
ミラクル・フュージョン後のサーバントはランク2と同じく速攻攻撃できる。おまけに、アジャコンジャの攻撃力は500。単体でも守衛を突破できる。けれども、友美の猛攻は留まることを知らない。
「エマージェンシーカード、ゲリラ・トルネード発動! 機械仕掛けの守衛を手札に戻す」
「こんな序盤に実質確定除去のエマージェンシーだと!?」
勝が驚くのも無理はない。エマージェンシーカードは3ターン目から解禁されるから、使うこと自体はできる。でも、問答無用でサーバントを場から退散させられる、エマージェンシーの中でも強力無比な一枚をこんなタイミングで使うなんて。いくらなんでも、時期尚早じゃないかしら。
「友ちゃん、大きく勝負に出たわね。まあ、アジャコンジャは、こんなプレイをする価値があるだけの能力を持っているけど」
芽衣が誇張しているのではないことは、直後に発覚した。場ががら空きになった敦美に、容赦ない波状攻撃が襲う。
「まずはアジャコンジャでプレイヤーに攻撃! そして能力発動。プレイヤーに直接攻撃した時、山札、もしくは墓地からビーストクラスのサーバントをサーチできる」
「そうか。友美はこれを狙っていたのね」
無理やりにでもプレイヤーを攻撃したのは、アジャコンジャの能力のためだったのだ。任意のカードを手札に加える。ならば当然、加えるべきは。
「あたしは、誉れの王者ジューオを山札から手札に加える」
確認のために提示しただけでも、敦美に対する死刑宣告と等しかった。それに、まだ攻撃は終わっていない。
「コボルトと隠密ネズミでプレイヤーを攻撃」
アジャコンジャと合わせると800ダメージ。敦美の体力は一気に800まで削られてしまう。
もはや、趨勢は決したも同然だった。
「アジャコンジャは、コンジャの時の攻撃力500以下に攻撃されない能力も引き継いでいる。倒すのに苦労するけど、もたついたりしたら」
「発動。魔法カード死刑宣告」
芽衣の言葉を遮るように、敦美は相手サーバントを確定で破壊できる魔法を使用する。対象はもちろん、アジャコンジャ。友美の場には弱小サーバントが二体と、首の皮一枚繋がった。
しかし、そんな甘いプレイで勢いを止められるわけはなかった。
「魔法カード、ビースト・パレード」
お得意の狼の群れ長を絡めた4体展開。おまけに、手札にジューオがあるのは明確。追撃されて残り体力は500。敦美に対抗手段があるとは思えない。
「抵抗。トランプクルセイダー・スペード、ハートを召喚」
苦し紛れのプレイ。もはや、サレンダーも同然だった。
結局、ジューオによる直接攻撃を許し、勝負は友美の圧勝で終わった。
カード紹介
密林の王者アンジャ
クラス:ビースト ランク1 コスト3
攻撃力300 体力200
相手プレイヤーにダメージを与えた時、カードを1枚引く。
ミラクル・フュージョン3(このカードが場にある時、PPを3支払い、手札、山札、墓地のいずれかから密林の王者コンジャを出す。密林の王者コンジャが場にある時、これらのカードは密林の帝王アジャコンジャとして扱う)
関連カード
密林の王者コンジャ
クラス:ビースト ランク1 コスト3
攻撃力200 体力300
このカードは攻撃力500以下のサーバントからの攻撃を受けない。
密林の帝王アジャコンジャ
クラス:ビースト ランク2 コスト6
攻撃力500 体力500
このカードが相手プレイヤーにダメージを与えた時、山札または墓地からクラス:ビーストのサーバントを1枚選び、相手プレイヤーに見せてから手札に加える。
このカードは攻撃力500以下のサーバントから攻撃されない。