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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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強敵、楯並豪

 咳払いして、勝は続ける。

「今度の大会だけどな。豪が出場してくる可能性が高いんだ。お前も知ってるだろ、楯並たてなみ豪」

「あ、あの、豪、だって」

「驚愕。まさか、奴が」

「え、誰よ」

 一人だけ空気読めない発言してしまったけど、許してほしい。本当に誰なのよ、楯並豪って。


「豪君か。それは厄介ね」

 芽衣もまた難しい顔をして腕を組んでいる。とてつもない難敵のようだ。全く知らない相手だけど、不安が伝播してくる。


「芽衣さん。その、豪という子は、どんな相手なんですか」

「一言でいえば、とにかく強い、かしら」

「そうそう、ここらじゃ最強の相手だよ」

 友美が口を挟む。最強。陳腐な評価ではあるが、深刻に語られると、その言葉に重みが増してくる。


「俺も何度か戦ったことあるけどよ。あいつの強さは別格だったぜ。正直、俺に苦戦するようだったら、逆立ちしたって勝てないかもな」

 いちいち、癪に障る言い方しかできないのかしら。でも、勝ほどの実力者にそう言わしめるなんて。裏付けるように、芽衣も口添えする。

「確か、全国大会の常連だったはずよ。優勝とまではいかなくとも、そこそこの結果は出していたはず。うちらのようなカードショップで相手するなら、間違いなく最強クラスね」


 思わぬ強敵が示唆され、私たちの間に沈黙が流れる。それを破ったのは、安定の友美だった。

「でも、強いからって、勝てないわけじゃないじゃん。うん、そうだよ。むしろ、相手は強いほど燃えるんだよ。ワックワクすっぞ」

「酷評、似ていない」

 さすがの友美でも、サイヤの戦闘民族の真似は無理だったようね。だからといって、勝手に練習を始めないでほしい。


 アホなことしている友美はさておき、一つ気になることがある。

「どうして、豪という子が出場してくるって分かるわけ?」

「そんなん決まってるだろ。今度の日曜、ここらで大会を開催する店がここしかないからだよ」

 憤然とした態度で言うものだから、青筋が浮かぶ。でも、勝の理論は至極当然ではある。芽衣に確認してもらったところ、

「確かに、うちしか開催してないわね」

 と、裏付けが取れた。


 さすがに物まねの練習に飽きた友美だったが、唐突に思いついたことでもあったのか、「あ、そうだ」と声を上げる。

「ねえねえ、豪が今どこにいるか分かる」

「そんなもん、知るわけないだろ」

 一蹴された。当たり前だ。金魚の糞に「知ってるか」と尋ねても首を振るばかりだ。


「でもよ、あいつが居そうなところというと、おもちゃのマーチじゃないか」

「ああ、あそこか」

 納得したように、友美は柏手を打つ。いや、どこよ。頭の中に疑問符を浮かべていると、友美はあさっての方向を指差す。

「右織にあるおもちゃ屋だよ」

 そんな、東京の墨田区にある日本一の電波塔を知らないのというノリで言われても知るわけないでしょ。普段、おもちゃ屋に赴くことなんてないから。ちなみに、電波塔はスカイツリーのことよ。


 芽衣に助けを求めると、白い眼をしていた。

「知ってるけど、同業他社のことは話したくないわ」

 そうよね。商売仇だったわ。


「でもさ、どうしてそこだって分かるの?」

「あいつが右織中に通ってるからだ。何度か話したことあるから間違いないぜ」

 地元民なら、確かに家から最も近いおもちゃ屋に通うのは当然か。スマホで調べてみると、ここから自転車で数十分の距離にある。大通り沿いだから、迷う心配も無いだろう。


「ようし、そうと決まれば出発だ!」

 腕を振り上げ、友美は扉を開けようとする。

「ちょっと待ちなさいよ。まさか、本当に会いに行こうというの」

「敵情視察は重要だよ。チキンタツタが吉祥寺じゃん」

「思い立ったが吉日とでも言いたいわけ。面影すら無いわよ」

 私は呆れるが、友美を制止させるに至らない。こうなった彼女はブレーキの壊れた特急だ。


 止められるとしたら、終着駅に設置されている止まり木だけ。そんな役割を果たしたのは意外な人物だった。

「制止。豪に会いに行くというなら、許さない」

 決して恵まれた体格ではないものの、友美の前で通せん坊している。それ以前に、友美のダッシュを先回りして出入り口に駆け付けた。あの俊敏性。ゴロゴロしていた猫が突然走り出す、ハプニング映像を想起させるわね。何より、あんな動きができるということは、もしかして。


 いや、悠長に考察している場合ではない。よもや、こんな局面で一触即発の窮地に陥るなんて。

「あっちゃん、ふざけてる場合じゃないよ。大会で優勝するなら、豪について知るのは必要じゃん」

「承知。でも、右織に行くことは許さない」

 そのまま吠え掛かりそうな勢いだ。さしもの友美も面食らっている。


 ただ、冷静に考えてみると、敦美の行動はおかしい。大会に出場する第一の目的は右京の特製カードを手に入れるため。それは、敦美が欲していたカードだ。

 そのために障壁となる豪について探ろうとしている。敦美にとってはむしろ有益な行動のはずなのに。


 思い切り買い物客の邪魔になる格好でにらみ合いを続けている。流石に見過ごせなくなったのか、芽衣が腰をあげる。

 すると、敦美はおもむろにカードを取り出した。

「挑戦。どうしてもというなら、わたしを倒してからにしろ」

「へえ、面白いじゃん。ちょうど、アジャコンジャの力を試したかったんだよ」

 売り喧嘩に買い喧嘩。こうなってしまったら、好きに勝負させるしかない。

カード紹介

猛毒蟲キルキルムシ

クラス:ヴェノム ランク1 コスト4

攻撃力300 体力300

突撃

蟲毒(このカードが場に出た時、相手プレイヤーにポイズンカウンターが乗っていた場合、以下の能力を得る)

攻撃力と体力を+200して、キラーを得る。

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