友美と唯の日常
その翌日のことである。私は頬杖をつきながら、英語の授業を聞いていた。予習してきた内容と大差ない。あくびをかみ殺すのに必死だった。授業中に不真面目な態度をとって、内申に響いたら元も子もないからだ。
ふと、横目で窓際の席を観察する。そこでは、風見友美が教科書を盾にして寝息を立てていた。特段、珍しい光景ではない。浅はかな防御壁で先生の目をごまかせると思っている輩が、このクラスにも少なからず存在するのだ。
もちろん、先生が見逃すはずはない。
「よし、この問題を、風見、寝てるんじゃない」
「ほ、ほえ」
間抜けな声とともに、教科書を机から落とす。周囲の生徒から失笑が漏れる。呆れ顔になった先生は友美に立つように促し、黒板の一点を指示棒で示した。
「この英文を訳してみろ」
「え、えっと、吾輩は猫である?」
「馬鹿者! 国語の授業は一時間前だろ」
先生に叱責されたことで、こらえきれずに爆笑の渦に包まれる。そんな中、愛嬌をふりまくように舌を出す友美。へらへらしちゃって、何がおかしいのかしら。私はより強く片腕に体重を預ける。
「まったく。きちんと授業を聞くように。では、代わりに小鳥遊、答えてみろ」
まさか、飛び火するのは予想外だった。危うく、頬杖から顔をずり落とすという間抜けを晒すところであった。気を取り直して、背筋を伸ばして起立し、すらすらと正答を読み上げる。
「うむ、正解だ」
先生は満足顔だったが、他の生徒からは特段、反応はなかった。唯一、友美だけがこっそり「グッジョブ」と親指を立てていたぐらいか。私は、意に介さず、静かに席に着いた。
「おい、友美、お前堂々と寝てんじゃねえぞ」
「だって、柱稽古編のアニメ、リアルタイムで見たかったんだもん」
「あー、分かる。昨日出てきた無惨、強かったよな」
休み時間に入った途端、友美はクラスの男子と深夜アニメの話題で談笑している。私は読みかけの文庫本に視線を落としながらも、気がそぞろであった。無意識的に声を拾っているというか、文字を追おうとしても、なかなか内容が頭に入ってこないのだ。こんな調子では、ろくに芥川龍之介なんか読めたものではない。
「それよか、バトルしようよ、バトル」
「おお、いいぜ。この前の日曜に、ギャラクティカ・ドラゴンを引き当てたんだ。やっと俺のギャラクティカランプが完成したぜ」
「いいなー、ギャラクティカ。あたしもパック引いてるけど、なかなか当たらないんだよ」
「当然だろ。あれ、ボックスに1枚入ってるかどうかって噂だぜ」
どうやら、デュエバの話をしているらしい。そして、さも当然のようにカードを取り出している。休み時間は20分しかないのに、まともにバトルできるのだろうか。私がバトルした時も、けっこう時間がかかっていた気がする。
それ以前に、あからさまに不要物を見せびらかせていて、彼女が黙っているわけはなかった。
「ちょっと、風見さん。学校にそんなもの持ってきちゃダメでしょ」
「委員長は固いなー。ちょっとぐらい、いいじゃん」
「そうだ、そうだ!」
クラス委員の仙道亜子がふくれ面で注意するが、男子の応援を受けて抗議する。丸縁眼鏡にカチューシャと、いかにも委員長を務めていそうな彼女は負けじと反論する。
「前にも言ったわよね。カードを持ってきたら、先生に言いつけるって」
「小学生じゃあるまいし、そんな脅しは通用しねえぞ」
「そうだ、そうだ。迷惑かけてるわけじゃないから、いいじゃんよ」
「迷惑はかけてないけど、校則は破ってるでしょ。ほら、そのカードをよこしなさい」
「友美、こいつ、ロケット団か。俺のギャラクティカを奪おうとしてるぞ」
「なーにー。委員長、それは良くないな」
「どうして私が悪いみたいになってるのよ」
売り言葉に買い言葉の問答はいつものことだった。避雷針になってくれるはずの芥川龍之介が全く仕事してくれないのがつらい。
「友美、あんまり委員長いじめちゃダメだぞ」
「いじめてないよ、逆にいじめられてるんだよ」
「別に私、悪くないし」
「委員長。友美に何を言っても無駄だから、諦めな」
クラスメイトの女子に肩を叩かれ、「グヌヌ」と歯ぎしりしながらも、亜子は引き下がる。
このクラスで台風が発生すると、その目にいるのが大抵彼女だ。正直、煩わしい存在でしかなかったのだが、そんな彼女が何故、私にわざわざゲームで勝負を仕掛けてきたのか。まるで理解できなかったのだが、一つだけ理解できることはある。
それは、このまま負けたままではいられないということだ。例え、くだらないゲームといえど、彼女を天狗のままにはしておけない。
カード紹介
死刑宣告
魔法カード コスト4
相手のサーバントを1体選び、それを破壊する。