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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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芸は身を助く

 背の高い少女だった。友美に負けずとも劣らないおしゃれな服装をしている。それは、一緒にいる二人の少女も同じである。あのまま都心を歩いていても違和感がないというか、地方都市である知島では浮いてさえいる。


 年齢を確かめる術はないが、雰囲気で年上ということは察せられる。足を止めてしまったのはそのせいではあるまいが。

「あっちゃん、知り合い?」

 友美が問いかけるが、敦美は反応を示さない。すると、中心に陣取る派手に髪を染めた少女がニヤニヤと近寄って来た。

「ひどいじゃん、敦美。あーしら、同じ部活の仲間っしょ。そうだよね」

「は、はい」

 びくつきながら、敦美は答える。同調するように、他の二人も取り囲む。


 なんだか、胸の内にもやがかかった。友好的のようでそうじゃない。心ではそう分かっている。

 でも、実際にどんな行動を取ればいいか。私に、その答えは持ち合わせていなかった。口を開こうとするも、喉の奥から漏れ出るのは空虚な吐息だけだ。


「あー、どっかで見たことあるなー」

 呑気な声が響く。その主は友美だ。頭の後ろで手を組み、足をブラブラさせている。


 少女が目を細める。毒牙の対象が移った。そう思い、私は右腕を伸ばす。

「この前、あたしに負けた人じゃない?」

「ああ?」

 露骨に不機嫌な声を出される。友美、何考えてるの。


「あたし、覚えてるもん。バスケの練習試合に居た人でしょ」

「誰かと思えば、あの時のちっこいの。あんた、知島中でしょ。うちの敦美と、どういう関係なわけ」

「友達」

 簡潔すぎる即答だった。あまりの勢いに、少女が面食らったほどだ。


 それも一瞬のことで、再度腕組みして友美の方に詰め寄る。

「あんたさ、あーしに勝ったつもりでいるみたいだけど、あれは本気出してなかっただけだし。たかが練習試合にマジになるわけないっての」

「わーてる、わーてる、ワーテルローだよ」

 ナポレオンの最後の戦争がどうしたのだろうか。多分、意味も分からずに言ってると思うけど。


「だけどさ。結果としてあたしが勝ったわけじゃん。だからさ、ここはあたしに免じて許してあげない。あっちゃん、困ってるみたいだし」

「はあ? なーんか、あーしが敦美をイジメてるみたいじゃん。普通にあいさつしただけなのにさ。そうっしょ、敦美」

「は、はい」

 コクコクと頷く敦美。私も口を出すべきか。すると、友美がウィンクを交わした。「ここは任せろ」とでも言いたいのか。


「そっかー。それなら悪いことしたね。うん、邪魔しちゃ悪いもんね」

「友美!?」

 私は思わず声をあげた。敦美も愕然としている。その口ぶりでは試合放棄当然ではないか。


 もちろん、相手側もそんな友美の態度を見逃すはずはなかった。調子づいたように、敦美の首に手を回す。

「そういうことだからさ。敦美、ちょっと付き合わない」

「え、えっと」

 うろたえる敦美。なのに、友美は朗らかに、頭の後ろで手を組んでいる。本当にどういうつもりなの。「ちょっと、困ってるじゃない」とでも言って割り込もうか。


 そう口出ししようとした時だった。

「でも、いいのかな。そこで先生見かけたよ」

 通りの先を指差した瞬間、一同が固まる。


 まさに切り札。午後五時という、良い子なら帰路につくべき時間において、最大の脅威となりうる存在。それこそ、学校の先生。

「べ、別にせんせーなんて怖くねーし」

 威勢を張るも、動揺は隠しきれていない。冷静に考えれば、休日に、しかも学区外に都合よく先生が現れるとは考えにくいのだが。


 そう、この作戦には穴がある。相手がハッタリだと気づいてしまえば元の木阿弥なのだ。幸いにも、取り巻きは「どうするよ」と真に受けている。ここで追撃。言うなら、ヴァルキリアスを出している状態で突撃持ちのサーバントみたいなのを繰り出したいところ。

 私が一歩を踏み出そうとすると、それより先に歩み出た影があった。


「こらー! こんな時間に何やっとるか!」

 いきなり、中年男性の怒声が響く。すると、

「やべ」

「仕方ない。今日のところはずらかるよ」

 少女たちはそろって踵を返していく。まさか、本当に先生が居たの?


 困惑していると、友美がピースサインを披露していた。そこで、ふと思い当たった。あの声。どこかで聞いた覚えがあるのだ。えっと、どこだったかしら。と、悩むまでもないわね。

「友美。あなた、石田先生の声真似したでしょ」

「右織にもおじさん先生いると思ってさ。うまいこと勘違いしてくれたみたいだよ」

 まさか、友美の特技がこんな形で役に立つとは。物まねも侮れないわね。私も習おうかしら。


 ㇹッと胸をなでおろすが、いつまでも安堵してばかりはいられない。

「大丈夫、敦美」

「平気。問題ない」

 そう言いながらも、ふらついて自転車を倒しそうになる。顔面蒼白で、学校なら保健委員が召集されてもおかしくない状態だ。


「あっちゃん、本当に大丈夫?」

「平気」

 友美も心配するが、手を広げて同じ単語を繰り返すだけだ。こういう時に質問をするのも野暮だろう。でも、どうしても確かめずにはいられなかった。


「敦美。今の子たちって、知り合いなの?」

「無視。詳しくは聞かないでほしい。これはわたしの問題」

「でも、明らかに困ってたじゃん」

「感謝。さっきのは助かった。でも、これ以上の関与は無用」

「えー、そういうわけにはいかないよ。なんか、感じ悪そうじゃん、あの先輩たち」

 不満タラタラな友美。それでも、当人が口を出すなと懇願しているのだ。結局、敦美は二言を許さず、自転車でそそくさと走り去ってしまった。


 残された私たちは互いに顔を見合わす。

「なーんか、チーム入りうんぬん以前の問題になっちゃったね」

「どう考えても、あの先輩たちとただならぬ関係よね」

 やはり、友美がバスケの練習試合で出会ったという女生徒は敦美だったのではないだろうか。あの先輩は同じ部活と考えれば、色々と辻褄が合う。


 結局、この日は進展どころかしこりを残したまま一日を過ごすことになってしまった。友美からマルガリータのカードをもらったという収穫があったとポジティブに考えることにしよう。

カード紹介

花巫女カリン

クラス:フォーチュラー ランク1 コスト4

攻撃力200 体力200

このカードが場に出た時、カードを1枚引き、プレイヤーの体力を100回復する。

託宣(山札の1枚目を墓地に送り、そのコストが偶数ならA、奇数ならBの効果を発動する)

A:カードを更にもう1枚引く

B:体力を更に200回復する。

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