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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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静香VSエリザベス 右京、逆転の一手

 8コストも支払ったのに、攻撃力は0。反面、体力は1000もある。前に、友美から教わったことがある。こういう極端なスタッツ(能力値)を持つサーバントは、厄介な能力を持っているって。このクロウラーもまた例外ではなかった。


「ターン終了。ここで、クロウラーの能力を発動。相手プレイヤーに乗っているポイズンカウンターの数の二倍、山札からカードを墓地に送る。さあ、6枚を削らせてもらいますわよ」

「クロウラーの真骨頂、ライブラリアウト戦法ね。ターン開始時に山札を引けなければ負けになる。だから、こいつを放置しておいたら、勝手に自滅する羽目になるわ」

 芽衣の解説を静香は承知の上か、返しのターンで魔法カード死刑宣告を放つ。だが、

「クロウラーを倒しましたね」

 エリザベスは不気味に唇を持ち上げる。怖気で静香は数歩後ずさった。


「ダークネス・クロウラーが破壊された時の効果。相手プレイヤーにポイズンカウンターを1個乗せ、このカードは復活する。残念でしたわね、せっかく300ポイントもダメージを受けてカウンターを取り去ったというのに。あなたのやっていることは無駄に終わりましたの。そう、無駄ですのよ。

 あなたがいくら足掻こうとも、あたくしたちアークバトラーの野望を挫くことはできまんの。大人しく、ここで命を散らせなさい」

 哄笑を浴びせられ、静香は臍を噛む。破壊することで逆にデメリットを負ってしまう凶獣。そんなものを相手にしないといけないなんて、サレンダーすら視野に入る劣勢だ。


 なのに、画面前の二人は、むしろウキウキとしている。そんな姿に感化されたわけでもないだろう。静香もまた、まっすぐに背を伸ばす。

「これでもまだ、立ち上がりますの? 醜く足掻く虫けらほど、こざかしいものはありませんのに」

「嘲笑。そんな虫けらサーバントを使っているくせに、よく言う」

「皮肉を飛ばすぐらいの元気はありますのね。でも、どうするつもりですの? あたくしの体力は1000。これを削り切る前に、あなたの山札が尽きますわよ」

「同意。確かに、絶望的な状況。でも、あいつなら絶対に諦めない。そのことをバトルを通して学んだ。そして、私はまだその恩に報いていない」

 その背はひときわ輝いていた。ああ、どこまでもまっすぐな姿。それは私にも既視感があった。薄雲から光が差す。そんな演出と共に、静香は残り五枚以下となった山札をドローする。


「せいぜい、いいカードは引けたかしら。まあ、占術師タクマしかいないのでは、どうすることもできませんわね」

「否定。むしろ、場にサーバントを残したことが、あなたの最大のミス」

「まさか」

 静香の狙いをエリザベスは察したようだ。ここで動揺を顕わにするが、時既に遅し。


「召喚! 数奇なる運命に翻弄されし巫女よ! 道惑うことなく、希望を照らし出せ! タクマをランクアップ! 荒魂の巫女右京!」

 怪しげな火の玉が舞う演出とともに、巫女装束の妖艶な少女が顕現する。同時に、画面の外より「キター!」という歓声があがる。


「ランク2のサーバント。だが、何を出したところで、この状況は覆ませんことよ」

「決着。このターンで決める。右京の効果! 山札からカードを3枚公開する」

「残り少ない山札を公開? しかも、託宣効果で墓地に送られる。自暴自棄に陥りましたか。その山札はあなた自身の僅かな命の灯と等しいですのに」

「希望。この山札は前へ進みための道しるべ。それを掴むことに私は躊躇しない。この効果で公開したカードの内、コストが偶数のカードの枚数の二倍のダメージを与える」

「哀れですわね。そんな博打、当たるはずが」

 エリザベスが絶句したのも当然だった。静香が提示した三枚のカード。そのコストはすべて、

「偶数」


 公開したカードの背後に登場人物の面影が重なる。それは、静香がここまで一緒に戦ってきた仲間たちだった。

「共闘。私は一人じゃない。いつでも仲間が導いてくれる。そして、その想いに応える時! 右京の効果で偶数コストのカード×200、600ダメージを与える」

 悲鳴とともに、エリザベスの体力は400まで削られる。決着には至らない。そう思われたが、私とて幾度の戦いを積み重ねてきたのだ。この局面の結末は容易に見通せる。


「まだわたくしの体力は残っていますわ。今度こそ終わりに」

「終焉。右京はランク2のサーバント。よって、場に出た瞬間に攻撃ができる。右京でプレイヤーを攻撃」

 右京が手を広げるや、無数の火の玉が螺旋を描く。その奔流がエリザベスを包む。右京の攻撃力は400。その直撃により、エリザベスの体力は尽きる。


「って、ちょっと待ちなさい。このバトル、負けると死ぬのよね」

「ああ、そこら辺は大丈夫だから」

 人の生死がかかっているのにお気楽すぎる。けれども、友美が楽観している理由はすぐさま判明した。


 体力が0になった瞬間、エリザベスの全身に強烈な電撃が走った。子供向けアニメのはずなのに、随分と過激なシーンね。なんて、達観している場合ではない。いくら敵とはいえ、やりすぎではないかしら。

 と、いうか、どこから電撃が発生したの?


 ガクリと膝をつくエリザベス。むしろ、それで済んでいるのが奇跡だ。すると、胸元から黒焦げになったチップが転げ落ちた。静香はそれを拾い上げ、しげしげと見つめる。

「理解。セーフティパッチ。敗北の際の衝撃を弱める特殊装置。それを持っているから余裕だった」

「バレては仕方ないわね。そうよ。アークバトラーはみんな、それを持っている。バトルで死ぬのはあなたたちだけでしてよ」

「いや、インチキじゃない!」

 つい声を上げてしまった。どこに、そんな伏線を張っていたのよ。こんな後出しもいいところじゃ。


 すると、友美は私の肩に手を置いた。

「こまけぇことはいいんだよ!」

「そういうものなの!?」

「同意。子供向けアニメを真面目に考察してはいけない」

 とはいえ、完全に無傷とはいかなかったようだ。エリザベスがガクリと気絶すると、静香は彼女の懐を探る。


 そして、予備のセーフティパッチを探り当てると、ギュっと握りしめた。

「決意。これがあれば、ショウマたちは全力で戦える。待ってて、必ず届ける」

「そうそう。この次の回、死への恐れから全力を出せなかったケンジが、静香からパッチを受け取って逆転するんだよね」

「首肯。仲間へ思いを継ぐ名シーン」

 そうして走り出す静香の背後に仲間たちの幻影が映り、EDテーマが流された。

カード紹介

荒魂の巫女右京

クラス:フォーチュラー ランク2 コスト6

攻撃力400 体力600

このカードが場に出た時、山札の上から3枚を公開して墓地に送る。

そ公開したカードの内、コスト偶数の枚数×200のダメージを相手プレイヤーに与え、それと同数の体力以下の相手サーバントをすべて破壊する。その後、あなたはコスト奇数の枚数×200のダメージを受け、同数の体力以下の自分の場のサーバントをすべて破壊する。

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