静香VSエリザベス こまけぇこた、いいんだよ!
DVDが再生されるや、やたらと熱いOP映像が流れる。「ガンガン」という単語が永遠と頭の中でポリリズムしているわ。
そして、本編が始まる。友美の解説通り、「運命のカード」とやらを求めて伝説の山へ行こうとしているところに、いかにもな悪女が立ちふさがる。
「観念しなさい。運命のカードは、わたくしたちアークバトラーがいただくわ」
「エリザベス、お前の好きにはさせないぜ」
主人公であるショウマがデッキを片手に勝負を挑もうとする。しかし、片腕を伸ばして、それを制止する人物がいた。
青色の長髪をなびかせる、背が高い少女。彼女が登場するや、友美と敦美は「おぉ」と感嘆の声をあげる。
「助力。ここは私に任せてほしい」
「無茶だ、静。アークバトラーに君だけで挑むなんて」
眼鏡をかけた少年が呼び掛ける。ショウマの仲間で、チームのブレインといったところだろう。
「懇願。あなたたちには救われた恩がある。今度はこちらの番。それに、彼女なら、私でも足止めできる」
「あーら、小娘が。随分と生意気な口を利いてくれるじゃない。いいわ、苛めてあげる」
エリザベスがデッキを出すのに合わせ、静香もデッキを掲示する。
「ショウマ、ここは彼女に任せよう。僕たちはジャミラを追うんだ」
「くそう。死ぬんじゃないぞ、静香」
「無論。早く行って」
「あの、何で生死の心配してるの?」
さすがに口を挟まずにはいられなかった。
「バトルに負けると死ぬから」
「いや、おかしいでしょ。どうして、カードバトルで人間の生死が左右されるのよ」
「あー、真面目に考察すると難しいわね。体力0になった瞬間に、脳に強力な電流が流されて、とか。まあ、それはナーヴギアだけど」
「肯定。むしろ、そういう線かもしれない」
「だとしたら、どの瞬間に、そんな装置を仕掛けるのよ」
「こまけぇことはいいんだよ!」
考察合戦は友美の鶴の一声で終息した。このアニメのコミカライズの掲載誌には、宿題忘れただけで巨大ハンマーで撲殺されるギャグ漫画があるから、真面目に考えるだけ無駄ということね。
命がけなのを覚悟の上で、女同士の熾烈なバトルが始まる。
「手番。カーバンクルを召喚。能力託宣発動。デッキの一番上を公開」
「コストは4」
「確認。偶数なので、攻撃力を100上昇させ、突撃を得る」
「カーバンクルは今でも使われる、フォーチュラーのサーバントだよね」
「託宣ってのは、どんな能力なの?」
友美が口を挟んだのに合わせ、私は質問をぶつける。
「託宣はクラスフォーチュラーを象徴する能力よ。山札の一番上のカードを公開して、そのコストによって異なる効果が発動するの。カーバンクルのもう一方の能力は、体力をプラス100してデコイを得る。どちらを発動しても強力だから、昔のカードだけども現役ってわけ」
芽衣が代わって解説してくれる。つまり、運任せの能力ということね。
「追伸。デッキのコストを絞って、狙った効果を出すデッキもある」
「コストが奇数のサーバントをそのまま踏み倒して召喚できるやつね」
「あれ、楽しそうだから、一度使ってみたいんだよね。ガチ〇ンコガチロボみたいで」
どんなカードか見当がつかないけど、なかなかに奥深そうね。
「フォーチュラー。運任せのデッキでわたくしに勝とうなんて、百年早いですわ。わたくしのターン、タンカー・センチビートを召喚。このカードは突撃を持っておりますの。センチビートでカーバンクルを破壊」
「相打ち。カーバンクルの体力も200」
「残念でしたわね。体力を増加させる能力が発動できていれば、生き残れていましたのに。そう、残念。あなたもまた、生き残れませんの」
「戯言。あなたに生殺与奪は握らせない」
「強がりはここまででしてよ。センチビートの効果。あなたにポイズンカウンターを1個乗せますの」
「ああ、ヴェノムの得意技が来ちゃったよ」
友美が頭を抱える。ポイズンカウンター。字面からして平穏じゃないわね。
「手番。わざわざ体力を払う必要はない。花巫女カリンを召喚。カードをドローし、更に託宣効果発動」
「また偶数」
「追加。カードをもう1枚引く。ターン終了」
「ああ、ここ、プレミなんだよな」
「同意。カリンで回復できるから、カウンターを取るべきだった」
「まあ、販促のために、こういうこともあるわよ」
え? どういうこと? ポイズンカウンターは自分のターン開始時に体力を100支払うことで1個除去できるらしい。でも、静香の言う通り、わざわざ自ら体力を削る必要性は無いじゃない。
胸にもやもやを抱えながら視聴を続けるが、その答えは直後のターンで明らかになった。
「ありがたいわね。ポイズンカウンターを放置してくれるなんて。今こそ、あたくしのヴェノムデッキの神髄をお見せしますわ。猛毒蟲キルキルムシを召喚!」
「出た! キルキルムシ!」
二人が画面の前で興奮する。カミキリムシのような気色悪いサーバントが、それほどまでに強力なのだろうか。心なしか、画面の中の静香の表情も歪んでいる。
「キルキルムシの蟲毒能力発動。攻撃力と体力を200上昇させ、キラーを得る」
「蟲毒?」
私が疑問を挟むと、すかさず芽衣が咳払いをする。
「蟲毒はクラスヴェノムの特徴的な能力ね。相手にポイズンカウンターが乗っている時に、召喚するサーバントを強化できるの」
「補足。その中でもキルキルムシは強力な一体。4コストで攻撃力と体力500は破格」
おまけに、バトルで確実に相討ちできるキラーの能力も持っている。え? 強すぎないかしら。
「そして、キルキルムシは突撃能力を持っていますの。カリンを攻撃なさい」
直前のターンに静香が召喚したサーバントがあっけなく倒されてしまう。そこからはエリザベスのペースだった。
蟲毒能力発動を嫌った静香は、うってかわって積極的にカウンターを取り除こうとする。しかし、執拗にカウンターを乗せられ、知らぬ間に体力は危険水域へと追い詰められていく。
そして、ポインズンカウンターが3個という絶望的な状況でエリザベスのターンを迎える。
「ここまで追いすがったことは褒めて差し上げます。ですが、あなたの僅かな希望はここでついえる。そのことを、あたくしの切り札で教えて差し上げますわ。
淀みの渦から永久に這い出よ! 邪智暴虐の魔獣! ダークネス・クロウラー召喚」
ヘドロにまみれ、大口を広げた怪物。目覚めるのが早すぎた巨神兵みたいなのが出てきた。
カード紹介
カーバンクル
クラス:フォーチュラー ランク1 コスト3
攻撃力200 体力200
託宣(このカードが場に出た時、山札の一番上のカードを公開し、墓地に送る。そのカードのコストが偶数ならA、奇数ならBの効果が発動する)
A:攻撃力を+100し、突撃を得る。
B:体力を+100し、デコイを得る。