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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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敦美の口癖と布教

 敦美のファイルをめくる手がピタリと止まる。半眼を作ったまま、石像のようになっていた。

「否定。人違い」

「ええー、でも、あっちゃんそっくりだったんだけどな。あっちゃんって、右織中学だったよね」

「肯定。そこは否定しない。でも、バスケの試合には出ていない」

「まさか、一卵性双生児かしら」

「あっちゃんはソーセージじゃないから、食べられないよ」

「双子じゃないかってこと。他人の空似でもないなら、残る可能性はコレでしょ」

「あっちゃんって、兄弟いないわよね」

 私の推測は芽衣によっていとも容易く崩壊させられた。では、まさか、本当にドッペルゲンガーだったのだろうか。


「今みたいなしゃべり方をしていなかったというのも気になるわ」

「否定。みたいなやつでしょ」

「あんた、中途半端に物まねが上手いわね」

「否定。似てない」

 本人は不満らしいが、私からすると、似てると思うわよ。


「あー、ここ、テストに出るぞ」

「ちょ、それは似すぎ」

 私が腹を抱えていると、芽衣が怪訝そうに目を細めた。

「友ちゃん、誰の真似してるの?」

「数学の石田先生」

「通告。それは、友美と唯しか通じない」

 でしょうね。でも、本当に似てるんだから。っていうか、何で還暦間近のおじさん先生の真似が上手いのよ。


 まあ、いつまでも物まねで遊んでいても仕方ない。それに、敦美に関しては前から気になっていたことがあったのだ。

「そういえば、そのしゃべり方はいつからやっているの? 多分、誰かの影響よね」

 まさか、親がそういうしゃべり方を教えたというわけではあるまい。ただ、これは際どい質問かもしれなかった。言ってしまったので、後の祭りではあるけれど。


 ただ、懸念に反して、敦美はあっけらかんと答える。

「肯定。デュエバの西園寺静香」

「あー、やっぱりそっちだったか。セレクターの御影はんなかと思った」

「え? 夕弦じゃないの」

「えっと、どれも知らないのだけど」

 困惑していると、敦美が指を伸ばして説明を入れる。


「解説。西園寺静香はデュエバのアニメ第1作に登場したヒロイン。主人公とは敵対しつつも協力する孤高の少女」

「そうそう。アークバトラーのエリザベスとのバトルとか熱かったよね」

「同意。あれは神バトル」

 友美と意気投合している。そういえば、小学生の頃にそんなアニメをやっていたような。


 私が呆けた顔をしていると、友美が怪訝そうに近寄って来た。

「もしかして。唯ちゃん、アニメのデュエバをご存じない?」

「知らない。と、いうか、男子向けのアニメなんて普通は見ないでしょ」

「偏見。アニメに男も女も関係ない」

「そうそう。アニメのデュエバを知らないなんて、人生の大部分を損してるよ」

 うんうんと首肯しているが、まだ十四年しか生きてないのに、その大部分を損しているってどういうことよ。


 まだ私が腑に落ちないでいると、

「これは、アレだね」

 友美が不穏に腕を組みだした。え? どうするつもりよ。私は無意識に後ずさる。が、前門の虎後門の狼というやつだ。芽衣にガチリと肩を掴まれる。

「こうなった二人には逆らわない方がいいわ。しっかり勉強してきなさい」

「いや、どういうこと」

「直行。芽衣姉さん、例の用意を」

「はいよー」

 言うが早いか、芽衣は店の奥に引っ込んでいく。一体、何が始まると言うのよ。不安で狼狽えるが、味方となるべき人物は不在だ。


「さあさ、唯ちゃん。レッツスタディーだよ」

「布教。骨の髄まで静香の素晴らしさを叩きこむ」

 ガシッと二人に脇を挟まれる。友美はともかく、敦美のこの膂力。少なくとも、運動系の部活動をやっているんじゃないの!?


 逆らうことなど許されず、私はとある部屋へと連行された。店の外へは移動していないから、高野商店の内部であることは間違いない。

 それでいて、個人の部屋であることも疑いようがない。机にベッド。本棚には難しそうな本が並んでいる。ただ、時折乱雑に陳列されており、極めつけは床に雑誌が無造作に放置してあった。それも少年漫画誌だ。

「あー、今週号だ。コ〇ン読んでいい」

「同意。わたしも読みたい」

「こーら、目的を見失ってるんじゃないの」

 芽衣が友美の頭を小突く。どうやらと前置きするまでもなく、芽衣の自室だ。それだけに、ごく普通に少年誌が転がっているのが違和感あるわね。


「ほら、飲み物持ってきたわよ。友ちゃんがコーラで、あっちゃんがバヤリースでいいのよね」

「そうそう」

「許容」

 芽衣からジュースの入ったコップを受け取る二人。残るは二つ。それぞれ緑と茶色の液体が入っている。


「唯ちゃんはこれでいい? なーんか、こうゆうの好きそうなイメージあったから」

「コーヒー牛乳ですか。ありがとうございます、いただくわ」

 匂いで判別できる。よく、私がコーヒーが好きだと分かったわね。フフンと鼻を鳴らしながら、芽衣は緑色のジュースを半分ほど飲み干す。おそらく、メロンソーダだろう。


「やっぱ、唯ちゃんは、あっちの方が気になる感じ」

「ええ、まあ」

 自然と、本棚に釘付けになっていた。経済学基礎理論。

「こう見えて、経済学の現役学生だからね。興味あるなら、読んでいいわよ」

「芽衣姉ちゃん、名谷戸なやごの大学行ってるんだよね」

「名谷戸って、確か相当偏差値高かったような」

「まあ、大したことないって」

 謙遜してるけど、この地域ではトップクラスの大学なのは間違いない。人は見かけによらないというのね。


 それだけに、専門書と一緒に漫画とかが並んでいるのが気になった。

「勇者パーティから追放された俺は片田舎で農作業しながら美少女たちとスローライフします。これは、ラノベかしら」

「おお、よく知ってるね。私の推し」

 侮らないでほしいけど、ラノベくらいは私も知っている。話題になっていたから、ヒロインが全員負けているやつとかは読破済みだ。


「ねえねえ。本もいいけど、本題に行こうよ」

「おっと、そうだったね」

 芽衣は腰を上げると、素人目でも最新っぽいと分かるブルーレイレコーダーを取り出してきた。もちろん、再生機能付きだ。

「ハードディスクに録画する勢もいるけど、私はブルーレイ派かな。気になった作品は円盤も買いたいし」

「発見。ガ〇クラとかフ〇ーレンとかがある」

「あっちゃん、漁らなくていいからね」

「懐かしいな。ちょっと前はプ〇キュアの上映会してたよね」

「友ちゃんが勝手に円盤持ち込んだんでしょ」

 完全に蚊帳の外に置いていかれているのが不満だった。私の家にあるの、過去の名作洋画とかばかりよ。


 話が脇にそれたが、芽衣は再生機器を運んだ勢いで、おもむろに年季の入ったブルーレイのケースを引っ張り出してきた。少年がドラゴンと一緒に咆哮しているイラストが描かれている。

「えっと、例の静香の回は十四巻かしら」

「合致。第54話、華麗なるバトル! 静VSエリザベス」

 ものすごく直球なサブタイトルね。しらけていると、友美がどや顔を披露する。


「アークバトラー四天王のジャミラが地球を破壊するカードを手に入れようとするんだけど、それをショウマたちが止めようとするんだ。で、その前に同じく四天王のエリザベスが立ちふさがる。って、話」

「地球を破壊するカードってどういうことよ!?」

「平常。カードバトルアニメではよくあること」

 紙切れ一枚で破壊されるほど、地球はヤワではないわよ。


「まあまあ、百聞は一見に如かずよ。とりあえず、見て見れば唯ちゃんも面白さに目覚めるかもしれないじゃない」

「むしろ、目覚めなさぁい」

「特定。バ〇ォメット」

「はいはい、ワンドリの時に昏きをサーチしてたフォロワーはいいから、とっとと再生するわよ」

 とりあえず、バフォ〇ットが例のスマホゲームのキャラということだけは分かったわ。

マニアックな小ネタ紹介

バフォメ〇ト

シャ〇バのヴァンパイアクラスのフォロワー。

当初は昏きを確定サーチしてコスト軽減するコンボで環境を荒らしたが、ナーフにより全く別の能力に変更される。

だが、単純にドローソースとして機能する能力だったため、相変わらずコントロールデッキで活躍することとなる。

ちなみに「目覚めなさい」はカードをプレイした時に流れるボイス。

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