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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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プリーズ、プリーズ、交換しましょ

「そういえば、敦美は来ていないんですか」

「あっちゃん? 今日はまだ見てないわね。でも、そのうち来るんじゃない。多分、新弾のパックを巡って、自転車で駆けまわっていると思うわよ」

 その姿を想像し、同時に曲芸を思い浮かべてしまった。本人にとっては失礼極まりないだろう。


「おー、やった」

 突如、友美が大声をあげる。早くもパックを開封したようだ。口ぶりからして、レアカードを引き当てたのだろうか。

「ほら、炎槍兵マルガリータだよ」

「それ、私が欲しかったカードじゃない」

 クラス:ウォーリアのレアカード。垂涎ものの一枚が友美の手に握られている。


 友美にばかり良い顔させてられないわ。私も負けずとパックを開く。が、出てくるのはコモンのカードばかり。

「ああ、運が悪かったね」

「まだよ。まだ、一パック残ってる」

「人はそうやってギャンブルにハマっていくのね」

「芽衣さん、不吉なこと言わないでください」

 むしろ、実体験がありそうで怖い。目が笑ってないし。


 ともあれ、最後のパックだ。コモンカードの連続。そして、レアカードが眠る最後の一枚。

「密林の王者アンジャ。レアだけど、これって」

「ああ! アジャコンジャの片割れじゃん。いいなー、それ欲しかったのに」

 友美が悔しがる。どうやら、ビーストのミラクル・フュージョン持ちのカードらしい。この蛇が、ねえ。


 意趣返しとばかりに、友美の前でひらひらと見せびらかす。なんか、猫じゃらしで野良猫と遊んでいる気分になる。実際に「フキャー」と猫っぽい鳴き声立ててるし。


「あんたら、いじわるしてないで交換したら」

 頬杖をついていた芽衣が提案してきた。互いに顔を見合わせる私と友美。言われてみれば、それが最も妥当な解決案ね。


「じゃ、じゃあ」

「うん、よろしく」

 会社の名刺交換。いや、もっと別のイベントみたいになっているのは何故かしら。そのまま左手薬指に嵌めそうな。必要以上に丁寧にカードを渡し合う。そうして、目当てのカードが手中に入った時だった。


「急募! パックは売ってないか!」

 友美顔負けの勢いで店の扉が開かれた。別にいけないものでもないのに、私はマルガリータのカードを手の内に隠す。勢い余って曲がってないかしら。


 息を切らしながら現れたのは敦美だった。店の前には自転車が乱雑に止められている。

「やっぱ来たね、あっちゃん。とりあえず、落ち着こうか。バヤリースでも飲む?」

「渇望。もらう」

 小銭を手渡すや、オレンジジュースの入った瓶を受け取り、一気に飲み干す。友美が「一気、一気」と囃し立てる暇もなかった。


 自転車でカードを買いあさっていると聞いたけど、それは本当だったらしい。おそらくカードが詰まっているであろうリュックサックをどっかと椅子に下す。

「それで、カードは買えたの」

「無論。コンビニをはしごして10パックは集めた」

 友美が尋ねると、ブイサインを作って応える。購入制限がある中、よくやるわね。もちろんのこと、芽衣が確保していたパックも追加で購入する。


「あっちゃん、いつになく気合入ってるね」

「当然。このパックには右京と左京が含まれている。是非とも手に入れたい」

「ああ、左京はともかく、右京はあっちゃんのお気に入りのカードだもんね」

 合点がいったように、芽衣は頷く。右京。聞いたことないカードね。多分、京都府の地名ではないと思うけど。


「その右京は強いカードなの?」

「当然。神カード」

「正確にはミラクル・フュージョンに合わせてリメイクされた右京だけどね。あっちゃんが一番好きなの、初期の頃に出た荒魂の巫女右京でしょ。で、今狙ってるのは輪廻を司りし巫女右京」

「何が違うのよ」

「バ〇ムがバ〇ストになったようなものだよ。人気カードは何度もリメイクされるんだ」

 友美が横槍をはさむが、余計に分からない。


「えっと、ピカ〇ュウがラ〇チュウになるようなものかしら」

「否定。クサイ〇ナをラ〇レシアではなくキレ〇ハナに進化されるようなもの」

「右京の場合はそっちが近いかもね。初期版も初期版で独特の強さ持ってるし、上位互換というわけではないし」

「そうそう、ドルバ〇ムかと言われると違うんだよね」

 いや、だから何の話よ。とりあえず、敦美は右京というカードが欲しいとだけ覚えておけばいいのよね。


 釈然としないままに、敦美のパック開封を見守る。手慣れた手つきで次々にカードを出していく。やはり、コモンばかりだ。

「不満。今回のパックはレアの封入率が低い」

「ミラクル・フュージョンは全体的にカードパワーが高めだから、そういうこともあるかもね」

 ムムムと唸る敦美を芽衣が慰める。それなら、二人してレアカードを引いたのは相当運が良かったのだろうか。


 やがて、すべてのパックを剥き、引き当てたレアカードは一枚。それもクラスアンデットと見当違いのものだった。

「残念。邪鬼・荒我丸。持ってないカードだけど、これじゃない」

 言いつつ、カードをファイルに収納する。まあ、都合よく目当てのカードは手に入らないわよね。


 そう一段落したところで、私は当初の目的を思い出す。

「友美。あのことを訊くべきじゃ」

「おお、そうだ。ねえ、あっちゃん、訊きたいことあるんだけど」

「応答。どうした?」

 レアカードが並ぶファイルを広げながら敦美が答える。一呼吸置いて、友美は切り出した。

「この前、バスケの練習試合に出てなかった?」

マニアックな小ネタ紹介

バ〇ム:場に出た時に闇以外のクリーチャーを破壊する

バ〇スト:破壊された時にすべてのクリーチャーを破壊する

ドルバ〇ム:場に出た時に闇以外のクリーチャーとマナを破壊する

それぞれデュ〇マのクリーチャー。察しがいい人なら友美が何を言いたいか気づいたはず。

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