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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第2章 各務敦美
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練習試合でのこと


 あれは、この前の日曜日の事。キムっちに頼まれて、あたしはバスケ部の助っ人として他校との練習試合に出ることになったんだ。なんでも、どうしても外せない用事で試合に出れなくなり、頭数を合わせるために参戦してほしいとのこと。キムっちからは、ちょくちょくそういう依頼を受けるから、お安い御用だよ。あ、キムっちはあたしの友達でクラスメイトの木村ちゃんのことね。


「わざわざごめんね、友美」

「いいって、いいって。キムっちの頼みなら、例え火の中、水の中、草の中、森の中、土の中、雲の中、あの子のスカートの中だよ」

「長くない?」

 試合前日。電話でやり取りする中、冗談をかますあたしに、キムっちは呆れたような声を出した。うーん、彼女の心はゲットだぜ、できなかったか。


 試合相手は右織うおり中学。あたしの通う知島とは隣町の中学だ。互いに精鋭同士ということで、見るからに強そう。あれ、あたしって、場違いかな。いや、そうでもないかな。先輩から「期待してるよ、友美ちゃん」って応援されてるし。


 両選手が並び立ち、先生の号令で一礼する。と、あたしはとある存在に気が付いた。

 相手チームの端っこ。長身の上級生の陰に、どうにも見知った顔があるのだ。三つ編みツインテールのジト目の少女。もしかしてだけど。


 自軍へと引き上げる直前。あたしは、その少女の肩を叩いた。ビクリと、過剰に体を震わせている。

「な、なに」

「もしかして、あっちゃん?」

 体操服にゼッケンだったけど、間近で視認したから間違いない。あっちゃんこと、各務敦美。デュエバ仲間と、よもやこんなところで出会うなんて。


 目を輝かせていると、あっちゃんは、逃げる様にそそくさとベンチに引っ込もうとする。

「待ってよ、あっちゃんだよね」

「人違い。あっちゃんなんて、知らない」

「あれ、違うかな。しゃべり方も違うし」

「そ、そう」

 コクコクと頷く。うーん、他人の空似にしては似過ぎているよな。


「なにしてんのさ、敦美。ボサッとしてんじゃないよ」

 強気そうな先輩に呼ばれ、あっちゃんらしき少女は、トテテと駆けていく。敦美だから、やっぱりあっちゃんじゃん。うーん、謎だ。

「友美。敵チームと遊んでないで、早く作戦会議やるよ」

「うん、分かった」

 しこりは残るものの、あたしも自分チームのベンチへ駆け足で赴く。


 そして、試合開始。ジャンプボールを制したのはあたしたちのチーム。

「友美、パス」

「合点だよ!」

 ボールを受け取ったあたしは、ドリブルしながら敵コートへ突貫していく。

「この、ちょこまかと」

 敵チームの悪態の声が聞こえる。ふふふ、すばしっこいのはあたしの専売特許だかんね。伊達にアグロビーストは使ってないよ。


 あわよくば、このままゴールまで行けそうだ。でも、その直前で思わぬ人物と対面することとなった。

「あっちゃん」

 例の三つ編みツインテールの少女だ。まさか、ディフェンスとして立ちふさがってくるなんて予想外だったよ。まあ、勝負は勝負だからね。


 けれど、どうにも様子が変だった。なんというか、所在無さげに棒立ちしているというか。あたしがドリブルしているのを前に右往左往しているのだ。あたしも一応初心者だから人の事言えないけどさ。それでも、あっちゃんらしき選手がずぶの素人っぽいというのは察せられる。


 ただ、ゴールを狙うには嫌な位置に居るんだよね。ならば、

「先輩、お願い」

「よし、来た!」

 あっちゃんらしき少女が「あ」と半口を開ける。時すでに遅し。あたしの手から放たれたボールはゴールポスト付近で待機していた先輩に渡った。あたしにヘイトが向いていたおかげで、先輩へのマークは薄い。悠々とシュートし、先制点を奪取することができた。


 あたしは先輩とハイタッチを交わす。いいな、あのくらい身長が欲しい。なんて、浮かれてる場合じゃなかった。

 得点を許してしまったことで俯く少女。

「しっかりしなよ、敦美」

「ごめん」

 敵チームの先輩に睨まれ、ごにょごにょと謝るばかりだ。その時に敵先輩の顔に冷たい笑みが張り付いていたのは気のせいだろうか。なーんか、胸騒ぎがするんだよな。


 そんな気持ちについて考える暇もなく試合は進行していく。このまま得点を伸ばしていく。と、思われたけど、一筋縄ではいかない。一進一退の攻防が続き、得点は拮抗状態のままだ。

「もっちー、パス」

「オッケー、友美」

 あたしはバスケ部員の同級生、望月さんこともっちーにパスを回しながらも、果敢に攻め立てる。残り時間は僅か。ここでシュートを決めれば、あたしたちの勝ちは盤石となる。


 そんな局面で壁となったのは、敵チームの中でも特に体格がいい先輩だった。正直に正面突破するのは無理。ここでボールを奪われては、勝ち逃げされるわ、追い打ちされるわのやりたい放題の憂き目に遭ってしまう。


 うーん、例えるなら、唯ちゃんのタイタロスと勝負している時かな。あのサーバントは体力が高いから、まともに攻撃すると、数体のサーバントを連携させて、一気に消費する羽目になる。

 だから、こういう時は絡め手を使うのが王道なんだよね。あたしは口角をあげると、そのまま先輩へと突撃する。


 先輩もまたしたり顔をして腕を広げる。無謀にも勝負をしかけてきたと思っているのだろう。ところがどっこい、残念でした。

「もっちー!」

 あたしの突進はフェイントでした。器用に身をひるがえし、天高くパスを交わす。呆気にとられる先輩を尻目に、ジャンプでボールを受け取った望月さんは、その勢いのままシュートを放つ。


 ポスっという小気味良い音とともに、ボールはゴールネットへと吸い込まれていく。得点を告げるホイッスルが鳴る。そして、その数十秒後に試合終了となる長めのホイッスルが響き渡った。

「やったね」

「さすがは友美だわ」

 あたしは部員たちとハイタッチを交わす。しばし、勝利の余韻に酔いしれる。


 それからしばらくして落ち着きを取り戻し、あたしは相手コートに目をやった。敗北したということもあってお通夜モード。悪いことはしてないのに、悪いことした気分になる。

 ただ、あたしの余韻を冷ましたのは、単に相手が負けたからというだけではなかった。ひときわどんよりとしている少女。例の三つ編みツインテールちゃんだ。

「あーあ、誰かさんのせいで負けちゃったじゃない」

「まったく、せっかくチームに入れたんだから、仕事してほしいし。ねえ、聞いてる?」

「は、はい」

 上擦った声で返事をする。あたしは大股を踏み出した。


 でも、ガシリと肩を掴まれる。振り向くと、もっちーが無言で首を横に振っていた。おそらく、なんて言わなくても、あたしがやろうとしたことを察したのだろう。同時に、関わるなという忠告か。

 そう言われると、余計に足を踏み込みたくなる。が、肩に込められた力は強い。突っぱねて部員たちに迷惑をかけるのも嫌だからな。


「お前ら、無駄話してないで、さっさと挨拶を済ませろ。片付けも残ってるからな」

 場を収めたのは、相手チームの男性コーチだった。相手の先輩は露骨に不服そうな顔をしていたけど、素直に言うことに従う。整列して礼をする頃には、祝祭の高揚はどこかへ消え去っていった。

カード紹介

ショック

魔法カード コスト2

相手の体力300以下のサーバント1体を破壊する。

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