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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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唯VS友美 運命のドロー、そして決着


 いやあ、まさかのカードを使われるなんて。ここらがもう限界かなと思ってきたけど。やっぱ、面白いよ、唯ちゃん。

 ハルマゲドンはデッキ構築の際に冗談半分で提案したカードだった。「ヴァルキリアスは破壊されないから、相性いいんじゃない」って。尤も、自分のサーバントも犠牲になるから、使いどころが難しいんだけど。


 それを本当に入れてくるなんて。しかも、こんな絶妙なタイミングで使われるなんて思わなかったよ。窮地のはずだけど、自然と頬が緩んでくる。

 まあ、にやけてばかりもいられないよね。ジューオが手札に戻されたことで健在だけど、肝心のサーバントが全滅しては、その真価は発揮できない。それに、返しのターンで唯ちゃんは間違いなく切り札を出して来る。


 ビースト・パレードを引けていれば、唯ちゃんの体力700を十分に削れる盤面を作ることができる。だから、時間稼ぎでもサーバントを並べるしかない。

「隠密ネズミとコボルトを召喚。ターン終了だよ」

「手札が悪いみたいね。なら、遠慮なく行かせてもらうわ」

 唯ちゃんが手札から一枚のカードを取り出す。さあ、来なよ!



 8コスト溜まっているはずなのに、2コストと1コストのサーバントしか出してこない。彼女の手札の内、1枚はジューオ。やはり、そのカードで一撃必殺を狙っているようね。

 そうなると、警戒するのは狼の群れ長。次のターンに、2体のサーバントを出しながらジューオにランクアップしてくる。今の手札で処理できる友美のサーバントは1体のみ。そうなると、ジューオは3体分の恩恵を受け、攻撃力は600にまで上昇する。

エマージェンシーカードのエルダで体力800に回復しても、攻撃可能のコボルトも攻撃力200に強化される。予想通りの展開をされたら、まさにチェックメイトだ。


だからといって、私もやれる手は少ない。ここは勝負をかけるわよ。

「エマージェンシーカード救援兵エルダ。そして、それを戦場の女神ヴァルキリアスにランクアップ」

「出たね、ヴァルキリアス」

 その声音からは浮足立っている様さえ想起させる。壁となるサーバントは心もとないものばかりだ。容赦するつもりはないし、むしろ全力でぶつかるのが礼儀でもあるだろう。


「ヴァルキリアスで隠密ネズミを攻撃。効果発動! 相手プレイヤーに700ダメージ」

 隠密ネズミは体力が100しかない。よって、直接攻撃にほぼ等しいダメージが与えられる。友美の体力は残り500。おまけに、彼女のデッキにデコイ持ちのサーバントはろくに入っていなかったはず。いかにサーバントを並べられようと、次のターンに有無も言わさず直接攻撃すれば勝てる。


 まさに、王手といった状況だ、ついに、ついに念願の瞬間が訪れるのか。ふと、友美に視線を送る。

 落胆していてもおかしくないのに、手札を眺める様は真剣そのものだ。正直、ここから逆転できるとしたら、ジューオによる一撃必殺しかない。よもや、それを信じているのか。


 優勢のはずなのに焦燥に囚われる。そうか、これが友美なんだ。なるほど、面白いじゃない。正直、もっとバトルが続いてほしい。でも、叶わぬ願いというのは明白だ。そして、運命のラストターンが始まる。



 さすがだよ、唯ちゃん。正直、ヴァルキリアスを倒す手段はない。ジューオで無理やり相討ちしても、唯ちゃんのデッキには他にも大型のサーバントが潜んでいる。どのみち太刀打ちできなくなって、負けるというのは承知の上だ。


 だから、このターンで勝負を決めるしかない。コスト3以下で一気に2体以上サーバントを展開できるカード。そう、狼の群れ長。あれさえ引ければ、一斉攻撃で唯ちゃんの体力を削り切ることができる。


 最後は運任せになるなんてね。でも、それもまたカードゲームの醍醐味だよ。唯ちゃんは知らぬ間に手札を支える右手に左手を添わせている。あたしがトップ解決を狙っていると見通すなんて、本当にすごいよ。


 これが、漫画の主人公なら、さっそうと切り札を引くんだろうな。なんて、憧れてばかりじゃダメだ。悪いけど、簡単には負けてあげないんだからね。

 あたしは呼吸を整え、勢いよくカードを引く。


 ちらりと一瞥。そして、息を吐く。

「楽しかったよ、唯ちゃん」

 あたしは、そのカードを、そのまま場に出す。



 運命のドロー。友美が引き当てたカードは。ノータイムで場に繰り出してきたからには、お目当ての代物だったのかもしれない。体から力が抜けそうになる。

 だが、その正体に私は瞠目する。

「コボルトを召喚」

 1コストの最低ランクの能力値しか持たないカード。と、いうことは。


「コボルトをジューオにランクアップ。そして、既に場に出ているコボルトと一緒に攻撃」

 ジューオは攻撃力500、コボルトは200。まともに受けたとしても、私の体力は100残る。まさに、捨て鉢のような特攻だった。


 友美の事だから、これで終わるはずはない。そんな期待すらあった。でも、彼女から告げられたのは、

「ターン終了」

 諦観としか思えない宣告だった。


「いやあ、楽しかった。まさか、ここまで追い詰められるなんてね」

「まだ勝負はついてないわよ」

「勝ち確だって分かっているくせに」

 そっちこそ、自らの末路を悟っているくせに。手心を加えて、猶予を与えようか。


 いや、そんなのは、友美が望んでいない。第一、私がそんなことは許さない。もはや、ターンの初めにカードを引く必要性もなかった。私の相棒が最後の一撃を放とうと、今か今かと待っている。

 名残惜しいけど、引導を渡してもらうわよ、友美。


「私のターン! ヴァルキリアスで相手プレイヤーを直接攻撃!」

 カードを引くと同時、攻撃を宣告する。戦場を駆ける戦乙女の槍が彼女の胸を貫く。この日、一番の歓声があがった。

カード紹介

チアリーダー・エルナ

クラス:ウォーリア ランク1 コスト3

攻撃力200 体力200

このカードが場に出た時、他のサーバントを1体選び、その攻撃力と体力を+100する。

このカードにランク2以上のサーバントをランクアップさせた場合、そのサーバントの攻撃力と体力を+100する。

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