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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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真の決着

 勝敗が決し、私は背もたれに体重を預けた。本当に勝てたの。あまりに劇的すぎて、現実味がない。

「唯ちゃーん!」

「ちょ、押さないで。危ないでしょ」

 椅子を倒しそうな勢いで、友美が飛び掛かってくる。人目もはばからず抱きついてくるものだから、こっちが恥ずかしくなるわよ。


「ちくしょう! 俺が女子なんかに負けるなんて」

 恨み言を吐き、机を叩く勝。友美を引きはがすと、私は彼の前に仁王立ちした。

「約束よ。ヘクタリオンのカードは返してもらうわ」

「ったく。返せばいいんだろ。こんなのにマジになるなんて、バカみてぇだぜ」

 あまりにも投げやりな態度だった。ヘクタリオンのカードも半ば放り投げるように、机の上に着地する。


「そんな存外にして。そのカードは欲しかったんじゃないの」

「別にそんなでもねぇし。大体、ただの遊びだろ。そんなにマジになるなよ」

 嘲るような物言い。唖然としていた友美だったが、歩み寄ろうと足を一歩出す。が、それよりも、私は手のひらを机に打ち付けていた。


「ふざけないで! このカードは敦美が大切にしていたものよ。そんな乱暴に扱うのなら、そもそも、あんたにこのカードを持つ資格はないわ!」

 自分でもびっくりするぐらいの大声だった。私よりもはるかに図体が大きいはずの勝が矮小に見える。言い返そうとしているようだが、口元を震わせているだけだった。


 せめてもの抵抗が舌打ちであった。ヘクタリオンのカードを残し、デッキを片付けると、「行こうぜ」と足早に去ろうとする。

「停止。待ってほしい」

 それを呼び止めたのは敦美だった。眉をひそめる勝に、彼女は恐る恐るカードを差し出す。


 ボロボロになったデス・バイパー。ヘクタリオンと無理やり交換させられたカードだ。

「んだよ。そんなもん、要らねえよ」

「不可。トレードが決裂したなら、カードはきちんと返す。それがコレクターとしての矜持」

 震えてはいるが、カードを支える腕はまっすぐに伸ばされている。勝は髪の毛をかみむしると、無言のままデス・バイパーのカードを受け取った。

「あーあ、むしゃくしゃするな。帰りにコンビニ寄って、ジャンプでも立ち読みしようぜ」

 そんな捨てセリフを吐き、取り巻きの連中と共に店を後にした。


 とりあえず、これで一件落着かしら。定期試験をすべてこなした後よりも疲れたわ。

「いやあ、すごいバトルだったよ。さっすが、唯ちゃん」

「そりゃどうも」

 称賛を送る友美に、私は手を挙げて応える。微笑みを絶やさない友美は、そのまま爆弾を投下する。

「これで、心置きなく戦えるね」

 ん?


 一瞬、何を言われているか分からなかった。が、トーナメント表を確認して、ようやく合点がいった。忘れかけていたが、勝とのバトルは準決勝。大会自体はまだ継続している。

 そして、もう一方の準決勝で勝ち上がったのは友美。よって、最終決戦の相手は。

「唯ちゃんVS友ちゃんか。これは熱いね」

「期待。二人の健闘を祈る」

 よもや、期せずして友美との決着をつける場が訪れようとは。友美は既にデッキを構え、やる気満々だ。


 練習試合でも遂に彼女に勝てた覚えがない。おまけに、勝のコントロールデッキを想定した構成のデッキが相方だ。友美の得意とする速攻デッキにどれだけ通用するか。

 それでも、最高のお膳立てをされたのだ。ならば、乗るしかないでしょう。

「決着をつけるわよ、友美」

「望むところだよ、唯ちゃん」

「この勝負、合意と見ていいわね」

 レフェリーのように両腕を伸ばす芽衣。かくして、真の最終決戦が開幕したのであった。



 正直、こんな舞台で唯ちゃんと戦うことができるなんて、嬉しすぎる予想外だよ。しかも、さっき、すごい熱戦を目撃したばかりだ。否応なしに気合は高まるというものだ。

 おっと、バトルに集中しなくちゃね。序盤は、もうお決まりの展開だった。順調に小型のサーバントを並べていく。もちろん、お気に入りの狼の群れ長も健在だ。唯ちゃんもまたサーバントを出してきているけど、数としては私の方が上である。


「どうしたのかな、唯ちゃん。このまま勝っちゃうよ」

 なんて、煽りを入れる。唯ちゃんは顔を歪めるけど、実のところブラフなんだよね。なにせ、ジューオを引けていない。このまま、場のサーバントを維持したまま持ちこたえられるか。


 なんて、考えはお見通しだったようだ。

「砲撃手カノンをランクアップ! 薙刀の覇者アヤメ!」

「絶妙なタイミングでそれを使ってくるね」

「賛辞と受け取っておくわ」

 アヤメの攻撃で体力を削られる。まあ、こうなるのは想定の範囲内。まだまだこれからだよ。



 序盤から、大量にサーバントを繰り出された時は正直焦った。いつものことだけど、都合のいいくらいにカードを引き込んでくるわね。そういうデッキ構成にしていると芽衣から聞いたことがあるけど、それにしたって。

 いや、不正を疑ったところで仕方ない。それに、友美がそんな浅ましい真似をする子じゃないことは分かっている。


 序盤から一方的に攻められる展開だったけど、一発逆転の手は残っている。

「砲撃手カノンをランクアップ! 薙刀の覇者アヤメ!」

 アヤメの効果で友美のサーバントは全滅。更に、直接攻撃を通すことに成功する。この展開は様式美のようなもの。将棋の初手歩から始まる一連の流れみたいなものだ。


 問題はここから。ターンを長引かせると、あのカードを使われる可能性が高い。手札が乏しい時に展開されると、一気にジューオによる襲撃が脅威となる。

「あたしのターンだね。お、いいカードを引いた。ハーモニー・ブレーメンズ召喚」

 私もデッキに入れているカード。しかも、クラスはビーストなので、友美の方が本家ともいえよう。

 任意のサーバントを山札から引っ張ってくることができる。手札に加えられたのは、

「誉れの王者ジューオ」

 呟く私に、友美はどや顔を披露する。それに留まらず、ムササビの伝令兵で手札を増強してくる。


「無理にアヤメを倒そうとせず、ジューオの存在をにおわせた強気のプレイに出たわね。さて、唯ちゃんはどうするかしら」

 芽衣が解説を入れる。攻めに転じたいところだけど、彼女の言う通り、ジューオの存在が厄介ね。なら、

「大英雄タイタロスを召喚」

「大型のデコイ持ちか。そう来ると思ったよ」

「どうせ、対抗策があるのでしょ。アヤメでブレーメンズを攻撃」

 こちらには強力なサーバントが2体も並んでいる。でも、友美の闘志は消えることはなかった。

カード紹介

奮起のシンフォニー

魔法カード コスト6

自分の攻撃済みのサーバントを対象に使用することができる。そのサーバントは、このターン、もう一度攻撃できるようになる。

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