唯VS勝 逆転のコンボ
「私のターン。ワイルド・カウボーイを召喚」
出したのはテンガロンハットを被ったカウボーイのカード。二丁拳銃をクルクルと回しているような仕草をしている。
「そいつは」
さすがに、このカードの効果を知っているのだろう。勝の表情に陰りが生じる。
「カウボーイの効果。ランダムにエマージェンシーカードを破壊する」
勝が伏せているエマージェンシーカードは2枚。どちらかが、ヴァルキリアスにとって大敵となるカードのはずだ。右か、左か。瞑目した後、すっと指を伸ばす。
「私は右のカードを指定する」
柑橘類を口に押し込まれたかのような反応をする勝。案外、ポーカーフェイスが苦手なのね。私は口角をあげる。撃ちぬいたカード。それは、危惧していたゲリラ・トルネードだった。
「ヴァルキリアスは能力によって破壊されない。でも、手札に戻す能力を防ぐことはできない。おそらく、それによるカウンターを狙っていたのでしょう。手札のヴァルキリアスを捨てさせたお返しよ」
「それがどうした。俺の場にはギルティー・デーモンがいる。ヴァルキリアスを出される前に決めてやるぜ」
「それはどうかしら?」
ヴァルキリアスのコストは8。普通にプレイしたのなら、このターンは出すことはできない。でも、私の手札にはもう一つの切り札が残っている。このコンボを使ったら手札はゼロ。一瞬、迷いが生じるが、私は場のカードに手を伸ばす。
「エマージェンシーカード、救援兵エルダ」
「体力を100回復しても、無駄なあがきだぜ」
現在の体力は1100。確かに無駄なあがきでしょうね。でも、これでもまだ、そんなことが言えるかしら。
「そして、魔法カード使命決闘を発動する」
絶句する勝。ひときわ大きな歓声が上がった。流石に、私の意図に気づいたのだろう。
使命決闘は互いに手札を公開し、相手の手札からサーバントを選び、それを召喚させるカード。普通なら、どのサーバントが選ばれるかは相手任せになる。
でも、私の残りの手札は1枚。よって、勝が選ぶのは。
「てめぇ、そんなコンボを。ヴァルキリアスを指定する」
場には先ほど召喚したエルダがいる。ランクアップ条件は満たしている。それに、まだ終わりじゃない。
「なら、私はアスタロトを指定するわ」
場に出た時にすべてのサーバントを破壊する能力を持つカード。悪手だって? いや、違う。使命決闘により指定されたカードは場に出た時に発動する能力を働かせることはできない。
「これは、あまりにも見事なプレイね。ヴァルキリアスを踏み倒したうえに、アスタロトの全体破壊をも封じた。勝にとっては相当苦しい状況よ」
芽衣が感心したように腕組みする。歯噛みしている勝に追い打ちをかけるように、私は攻撃を宣言する。
「ヴァルキリアスでギルティー・デーモンを攻撃。能力発動、プレイヤーに200ダメージ」
勝の体力は1300。けれども、こちらにはヴァルキリアスがいる。一気に決めるわよ。
「俺のターン。魔導書の解読でドロー。そして、死刑宣告を発動。カウボーイを破壊だ」
本来なら、ヴァルキリアスを破壊したかったのでしょう。でも、このカードは能力では破壊されない。死刑宣告を放ったところで無効化されてしまう。
「どうやら、手札が悪いようね」
意趣返しすると、勝は反吐を吐くような仕草をする。
「だが、てめぇの手札もゼロ。俺の体力を削り切るには至らない。それに、予告しておいてやる。俺はさっきのドローで魔法カード異界追放を引き込んだ」
「異界追放! そんなのまで入ってるの」
友美が声をあげる。そんなに強いカードなの?
「異界追放は場のカードをゲームから除外する魔法よ。破壊するわけじゃないから、ヴァルキリアスも対象にできる。おまけに、墓地に置かれないから、再生させることもできない」
「そういうことだ。直接攻撃を受けたら俺の体力は500になる。でも、ヴァルキリアスがいないお前のデッキなんざ、そのくらいの体力でも余裕で耐えられるぜ」
悔しいけど、指摘通りだ。ランク2のカードは、もう山札に残っていない。速攻能力を持つカードも入っていないし。
ならば、逆転の手は一つ。次のドローであのカードを引くしかない。当然、友美と敦美は分かっているはずだ。二人と相談してデッキを組んだ際に組み込んだものだから。
私は深呼吸して山札の1枚目をめくる。そして、一瞥するや、ゆっくりと公開した。
半口を開ける勝に対し、私は笑みを浮かべていた。本当に、こんな奇跡があるのね。感謝するわよ、敦美。そして、友美。
「魔法カード奮起のシンフォニー。攻撃済みのサーバントをもう一度攻撃できるようにする」
ヴァルキリアスの攻撃力は800。それが実質二回攻撃できるようになる。そのカードを前に唖然とする勝。どうやら、趨勢は決したようね。
対抗手段の無い勝に、ヴァルキリアスの操る二枚刃が炸裂した。
カード紹介
ギルティー・デーモン
クラス:アンデット ランク1 コスト8
攻撃力600 体力600
場のサーバントを1体破壊する。そのサーバントの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。
補足
自分の場のサーバントも効果の対象にできるため、自壊して相手に600ダメージを与えるというプレイイングも可能。