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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
31/119

無茶苦茶な条件

「唯ちゃん、勝ったんだね」

 友美がハイタッチを仕掛けてきた。私は素直に応じる。

「そっちも勝ち進んだようね」

「こんなところで負けてられないよ」

「不服。カードの引きが悪かった」

 唯一、落胆しているのは敦美だった。思うようにカードを引けずに、一回戦で涙を呑んだらしい。


「ドンマイだよ、あっちゃん。君の死は無駄にしない」

「生還。別に死んだわけではない。でも、頼んだ。二人なら、勝てる」

 両手で握りこぶしを作って応援してくれる。そんなことされたら、奮起するしかないじゃない。どうやら、勝もまた危なげなく初戦を勝ち進んだようである。敗北を喫した仲間を揶揄する姿に、私は胸がざわめくのであった。


 続く、2回戦の相手の使用デッキはアグロビーストだった。対戦の合間に他のプレイヤーの試合の様子を偵察していたが、やはりこのデッキの使用者は多い。

 ただ、コントロールデッキ以上に、このデッキとは戦いなれている。友美のコピーなどに私が負ける道理は無いのだ。


「薙刀の覇者アヤメにランクアップ」

「くっそ、もう少しだったのに」

 大量展開したサーバントを蹴散らし、そのままリーサルを決める。これで準決勝進出。先に勝ち進んでいた相手と対面することになる。その相手とは。


「お前か。あいつに勝った女子ってのは」

 スポーツ刈りの柄の悪そうな少年。遂に、大将と相対することができたのである。不敵に腕組みする恰幅のいい悪ガキに、私はにらみを利かせる。


「では、これより準決勝を始めます」

 それぞれのグループの最終決戦ということで、同時ではなく一戦ずつ個別に開催されることになった。他の参加者全員が観客となる中、私と勝はテーブルに向かい合う。


「唯ちゃん!」

 友美が声を張り上げる。私が振り返ると、彼女は拳を突き出してきた。

「勝て!」

「無論よ」

 微笑み返し、対戦相手へと向き直る。勝はつまらなそうにどっかと腰を下ろした。


「この調子なら、今日の大会は楽勝で優勝できそうだな。さっさと、景品のプロモはいただきだぜ」

 優勝すると、参加賞とは別に特製のプロモカードがもらえる。おそらく、あいつの目的はそれだろう。ならば、こちらも目的を果たさせてもらう。


「戦う前に一つ約束して」

「ああ、なんだ?」

「あなた、この前、無理やりカードをトレードしたでしょ」

「カードをトレード? もしかして、ヘクタリオンのことか」

 さすがに覚えていたか。まあ、覚えていなくても、強制的に思い出させてあげたけど。


「そうすると、お前はあの時の女の友達か」

「まあ、そんなところよ」

 友達と言う響きがむずがゆくもあったが、こんなことで躓いている場合ではない。鼻をこすって話を続ける。

「この戦いで私が勝ったら、あのカードを返してほしいの」

「ヘクタリオンを取り返そうってか。やなこった。もう、トレードは成立しちまったからな」

 取りつく島もなく突っぱねられる。予想通りの反応だ。すんなりと交渉に応じるタマではないことは容易に推察できる。


 でも、素直に引き下がるわけにもいかない。相手はどうやったら、こっちの土壌に乗ってくれる? 下手に出てお願いする。それだと、相手が図に乗るだけだ。それ以上に、私がそんなことしたくない。


 現代文の登場人物の心情を答えさせる以上の難問に、私はしばし無言になる。あまり考えすぎて、引き下がったと思われては元も子もない。ここは、このカードを切る。

「もしかして、勝つ自信がないの? あなたの友達と戦ったけど、随分と舐めた態度取ってくれたじゃない。まあ、負かしたけど」

 存分に煽ってやった。ぴくりと勝の眉根が動く。かかった。


 おろおろとしている敦美に対し、友美は興味深く動向を達観している。まあ、任せておきなさいな。

「言ってくれるじゃねえか。俺に勝つ自信でもあるのか」

「もちろんよ」

 間髪入れずに返す。相手は女子だからと、完全に下に見ている節がある。なのに、こんな生意気な口を利かれたら黙ってはいられないだろう。こちとら、伊達に小説読んでいるわけじゃないのよ。


「いいだろう。お前の提案に乗ってやるよ。でも、それだと俺だけが不利だな。よし」

 しばらく考える素振りをした後、ビシリと指を突き出してきた。

「俺が勝ったら、お前の持っているレアカードをもらう。それなら、条件を受けてもいいぜ」

 トレードではなく、一方的な強奪。しかも、私の持つレアカードと言ったら、狙われるのは十中八九アレだ。


 怯まされるものの、私は背筋を伸ばす。そして、はっきりと宣告した。

「いいわ。その条件、忘れるんじゃないわよ」

「決まりだな。今日はラッキーだぜ。プロモと一緒にレアカードまで手に入るんだからな」

 嗜虐的に歯をのぞかせる勝。互いに、デッキから最初の手札を加える。

「では、準決勝第二試合、開始!」

 先行は私。いよいよ、運命のバトルが幕を開けるのだった。

カード紹介

スカルバード

クラス:アンデット ランク1 コスト2

攻撃力100 体力100

このサーバントが破壊された時、相手の手札を1枚見ないで選び、それを捨てさせる。

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