無茶苦茶な条件
「唯ちゃん、勝ったんだね」
友美がハイタッチを仕掛けてきた。私は素直に応じる。
「そっちも勝ち進んだようね」
「こんなところで負けてられないよ」
「不服。カードの引きが悪かった」
唯一、落胆しているのは敦美だった。思うようにカードを引けずに、一回戦で涙を呑んだらしい。
「ドンマイだよ、あっちゃん。君の死は無駄にしない」
「生還。別に死んだわけではない。でも、頼んだ。二人なら、勝てる」
両手で握りこぶしを作って応援してくれる。そんなことされたら、奮起するしかないじゃない。どうやら、勝もまた危なげなく初戦を勝ち進んだようである。敗北を喫した仲間を揶揄する姿に、私は胸がざわめくのであった。
続く、2回戦の相手の使用デッキはアグロビーストだった。対戦の合間に他のプレイヤーの試合の様子を偵察していたが、やはりこのデッキの使用者は多い。
ただ、コントロールデッキ以上に、このデッキとは戦いなれている。友美のコピーなどに私が負ける道理は無いのだ。
「薙刀の覇者アヤメにランクアップ」
「くっそ、もう少しだったのに」
大量展開したサーバントを蹴散らし、そのままリーサルを決める。これで準決勝進出。先に勝ち進んでいた相手と対面することになる。その相手とは。
「お前か。あいつに勝った女子ってのは」
スポーツ刈りの柄の悪そうな少年。遂に、大将と相対することができたのである。不敵に腕組みする恰幅のいい悪ガキに、私はにらみを利かせる。
「では、これより準決勝を始めます」
それぞれのグループの最終決戦ということで、同時ではなく一戦ずつ個別に開催されることになった。他の参加者全員が観客となる中、私と勝はテーブルに向かい合う。
「唯ちゃん!」
友美が声を張り上げる。私が振り返ると、彼女は拳を突き出してきた。
「勝て!」
「無論よ」
微笑み返し、対戦相手へと向き直る。勝はつまらなそうにどっかと腰を下ろした。
「この調子なら、今日の大会は楽勝で優勝できそうだな。さっさと、景品のプロモはいただきだぜ」
優勝すると、参加賞とは別に特製のプロモカードがもらえる。おそらく、あいつの目的はそれだろう。ならば、こちらも目的を果たさせてもらう。
「戦う前に一つ約束して」
「ああ、なんだ?」
「あなた、この前、無理やりカードをトレードしたでしょ」
「カードをトレード? もしかして、ヘクタリオンのことか」
さすがに覚えていたか。まあ、覚えていなくても、強制的に思い出させてあげたけど。
「そうすると、お前はあの時の女の友達か」
「まあ、そんなところよ」
友達と言う響きがむずがゆくもあったが、こんなことで躓いている場合ではない。鼻をこすって話を続ける。
「この戦いで私が勝ったら、あのカードを返してほしいの」
「ヘクタリオンを取り返そうってか。やなこった。もう、トレードは成立しちまったからな」
取りつく島もなく突っぱねられる。予想通りの反応だ。すんなりと交渉に応じるタマではないことは容易に推察できる。
でも、素直に引き下がるわけにもいかない。相手はどうやったら、こっちの土壌に乗ってくれる? 下手に出てお願いする。それだと、相手が図に乗るだけだ。それ以上に、私がそんなことしたくない。
現代文の登場人物の心情を答えさせる以上の難問に、私はしばし無言になる。あまり考えすぎて、引き下がったと思われては元も子もない。ここは、このカードを切る。
「もしかして、勝つ自信がないの? あなたの友達と戦ったけど、随分と舐めた態度取ってくれたじゃない。まあ、負かしたけど」
存分に煽ってやった。ぴくりと勝の眉根が動く。かかった。
おろおろとしている敦美に対し、友美は興味深く動向を達観している。まあ、任せておきなさいな。
「言ってくれるじゃねえか。俺に勝つ自信でもあるのか」
「もちろんよ」
間髪入れずに返す。相手は女子だからと、完全に下に見ている節がある。なのに、こんな生意気な口を利かれたら黙ってはいられないだろう。こちとら、伊達に小説読んでいるわけじゃないのよ。
「いいだろう。お前の提案に乗ってやるよ。でも、それだと俺だけが不利だな。よし」
しばらく考える素振りをした後、ビシリと指を突き出してきた。
「俺が勝ったら、お前の持っているレアカードをもらう。それなら、条件を受けてもいいぜ」
トレードではなく、一方的な強奪。しかも、私の持つレアカードと言ったら、狙われるのは十中八九アレだ。
怯まされるものの、私は背筋を伸ばす。そして、はっきりと宣告した。
「いいわ。その条件、忘れるんじゃないわよ」
「決まりだな。今日はラッキーだぜ。プロモと一緒にレアカードまで手に入るんだからな」
嗜虐的に歯をのぞかせる勝。互いに、デッキから最初の手札を加える。
「では、準決勝第二試合、開始!」
先行は私。いよいよ、運命のバトルが幕を開けるのだった。
カード紹介
スカルバード
クラス:アンデット ランク1 コスト2
攻撃力100 体力100
このサーバントが破壊された時、相手の手札を1枚見ないで選び、それを捨てさせる。