デッキをコーディネイトしてあげる
「それにしても、本当にたくさんカードがあるわね。逆に、どんなカードを選んだらいいか分からないわ」
素直に感想を漏らすと、友美と敦美の両者がグイと迫って来た。
「大丈夫。唯ちゃんのデッキはあたしがコーディネイトしてあげるよ」
「担保。わたしに任せておけば問題ない」
「おお、じゃあ、初めての共同作業だね」
「異論。意味が違う」
敦美は友美の胸にチョップを喰らわせる。なんだかんだ、この二人はいいコンビだ。
改造の方向性を定めるため、私はデッキの中身を二人に公開することにした。恥ずかしいことは無いはずだけど、なんだかむずがゆいわね。下着を凝視されているよりは余程マシのはずだけど。
「提案。アンデットを相手にするなら、ヴァルキリアスは切り札になる」
「だよね。模擬戦やってる時も、ヴァルキリアス出されたら本当に苦しかった」
試合を思い出しているのか、友美は舌を出す。そうなると、このカードを軸にデッキを組む方向性ね。私はヴァルキリアスのカードを手に取る。
デュエバを初めて日は浅いけど、ここぞの場面で活躍してくれたカードだ。この子で勝てるのなら、私としても本望である。
「そうなると、確実にヴァルキリアスを引き込みたいよね。もう一枚増やす?」
「肯定。相手はハンデスも使ってくる。序盤の事故が怖いけど、一考の余地あり」
「そうか。ランク2で8コストだから、序盤から持っていても使えないものね」
サンプルデッキレシピでヴァルキリアスが1枚か2枚しか採用されていないのには、そういう理由があるのね。そして、敦美はファイルから一枚のカードを取り出した。
「追伸。更に、これで確実に引き込む」
「ああ、あたしも欲しかったやつじゃん。チャンピオンズ・リベンジャーズ引いてるけど、なかなか出ないんだよね」
「誇示。わたしは二枚持っている。なんなら、友美にも渡す」
「いいの! ありがとう」
「それ、クラスビーストのカードじゃない。私じゃなくて、友美に2枚渡せば」
「解説。このカードはいかなるデッキにも入るチートカード。まして、特定カードを軸にしたいデッキなら3積みするのも常識」
「確か、殿堂入りの最有力候補よね」
芽衣も口を出す。同名カードは3枚までしかデッキに入らないというルールがあったはずだ。コスト4とそこまで軽いカードではないはずだが、よほどのポテンシャルがあるのだろう。
「増援。ヴァルキリアスを出しても安心はできない。おそらく、勝はその対策も用意している。だから、こっちも、更にその対策を用意する」
そう言って友美が提示したのはウォーリアクラスのカードだった。レアリティはアンコモン。一見だと強そうには思えない。
「博打。うまく刺さるかは運次第ではある。でも、ヴァルキリアスやアヤメの種としても活用できる。入れておいて損はない」
「そう。なら、ありがたく使わせてもらうわ」
「ねえねえ、そろそろあたしのデッキも診断してよ。唯ちゃんばっか、ズルい」
友美が勝手に自身のデッキを広げている。今度は、私と敦美であれこれ言い合いながら、カードを入れ替えしていく。その様子を芽衣は微笑ましく眺めているのだった。
その後も代わる代わるデッキを添削していくうちに、「夕焼け小焼け」のアナウンスが流れてきた。店の扉からの射光にも陰りが生じている。
「夢中になるのも結構だけど、良い子はそろそろ帰る時間じゃない」
芽衣がカウンターから腰を浮かし、手を叩く。
「えー。もっと改造やりたいよ」
「明日に備えてじっくり休むのも重要よ。いくらデッキが最強でも、寝不足でプレミなんかしたら元の木阿弥だから」
「それもそうね。そろそろお暇しましょうか」
「むぅ。唯ちゃんがそう言うなら仕方ないな」
未練がましいが、友美はゆったりとデッキを片付ける。
私も新しく構築したデッキを眺める。これが、明日の戦いの武器。いや、相棒か。デッキトップに据えてあるヴァルキリアスに私はそっと健闘を誓うのだった。
「要請。手伝ってくれ」
「ああ、あっちゃんはきちんと家まで送ってあげた方がいいね」
私たちにカードを譲っても、なお大荷物は健在のようだ。仕方なしに、三人がかりで敦美を自宅まで送り届けるのだった。
カード紹介
隠密ネズミ
クラス:ビースト ランク1 コスト2
攻撃力200 体力100
相手は能力により対象を選ぶ際、このサーバントを選ぶことはできない(攻撃対象にはできる)。