表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
27/118

ファーストキスがフライドチキン

 そして、休日となる土曜日。直前になって、友美から連絡があった。

「駅前に集合って、どういうことよ。しかも、十一時だとご飯を食べる余裕もないじゃない」

 むしろ、文面的に昼ご飯を抜いてこいということかしら。


 基本的に、本屋や図書館以外に外出する予定はない。なので、シャツにジーンズというラフの極みみたいなファッションが、私の基本装備だ。

「唯、こんな時間にどこか行くの。もうすぐお昼よ」

「ちょっと、友達に呼ばれて。昼ご飯ならいらないわ」

「そう。余り物で済まそうと思ってたからいいけど」

 母親は珍獣でも眺めるかの調子で私を送り出した。部屋の奥で「羽目を外さんようにな」と新聞と睨めっこしている父親よりはマシかと思うけど。


 約束の時間五分前に知島駅に到着した。改札前でウロウロしていると、

「おーい、唯ちゃん、こっちこっち」

 と、軽快な声と共に手を振る少女がいた。


 誰かと言うのは、学校で見慣れた犬のしっぽみたいなサイドポニーで明らかだ。ただ、その装いに私は不覚にもドキリとする。

 まさに、ザ・女の子とでもいうべきか。フリルのワンピース。それを見事なまでに着こなしている。と、いうよりも、ワンピースが彼女に着られるために生まれてきたのではと思うほどである。


「いやあ、悪いね。急に呼び出したりして」

「本当よ。こういうのは事前に連絡しておくものよ」

「まあ、いいじゃん。へえ、唯ちゃんって、私服そういう感じなんだ。なんていうか、その、オフって感じだね」

「ダサいならダサいといいなさいよ。あなたこそ、その」

「うん? なあに?」

 ああ、もう、この性悪女!

「その、可愛い、じゃない」

「あ、うん、そっか」

 なに面食らってんのよ、この性悪女!!


 まったく、本当にどういう用件なんだか。いや、どうということはなかった。連れてこられたのは大手ハンバーガーチェーンだった。

「らんらんるー」

「何やってるのよ」

「この店に入るための儀式だよ」

 店先に飾ってあるピエロに謎のポーズを披露していたが、この店に入るのにそんな儀式など必要なかったはずだ。

「唯ちゃんもやれば?」

「絶対に嫌」

 こんなアホなことされても、動じず微笑んでいるピエロを見習いたくなった。


「それで、どうしていきなり、ハンバーガーなんて食べようなんて言い出したのよ」

「ハッピーセットのおもちゃが欲しいから」

「そう」

「冗談に決まってるじゃん!」

「あなたが言うと冗談に聞こえないのよ」

 ポ〇モンのおもちゃという、欲しがっても違和感ないラインナップだったのが拍車をかけていた。


「別に深い理由はないよ。ただ、唯ちゃんと一緒にご飯食べたかっただけ。給食だと、他の子との付き合いもあるし、唯ちゃんと食べようと思っても、委員長に先を越されたりするからさ」

「亜子のこと? あれは、彼女が勝手に寄ってくるのよ。別に、食べたきゃ来ればいいじゃない」

「行きたいのもヤマヤマだけど、キムっちとかの付き合いもあるからさ」

 不服そうに反論する。キムっちは、友美がクラスでよく話している女子生徒だったか。本名は木村と言ったはず。女子バスケ部に所属しているとか、そのぐらいの情報しか有していない。


 飲食店にとって最大の稼ぎ時ということもあり、続々と来客してくる。人の流れに押されるように、私たちは注文を済ませる。

「ハンバーガーにコーヒー。唯ちゃん、案外小食だね」

「ビッグマックセットにフライドチキン足してるあなたがおかしいのよ」

 しかも、ポテトは最大サイズだった。それで、どうやって、その華奢な体型を維持しているのかしら。


 私が静かにハンバーガーを咀嚼している隣で、友美は豪快にパンズを頬張っている。なんとも、美味しそうに食べる。と、私の目の前にフライドチキンが差し出された。

「食うかい?」

「別にいいわよ。あなたが食べなさい」

「ええ。すっごい、物欲しそうに見てたじゃんよ」

 そうかしら。知らぬ間に横を向いていたのは事実だけど。ハンバーガーを食べ終えてしまったというのも追い打ちをかけていた。


「まあ、遠慮しないで。食う子は育つ、だよ」

「寝る子じゃなかったかしら。食えば育つに決まってるじゃない。しかも、それ食べかけだし」

「これぞ間接キッスというやつだよ」

 思い切りむせた。


「ちょ、唯ちゃん、大丈夫!?」

「あんたが変なこと言うからじゃない」

 ファーストキスがフライドチキンとか嫌すぎるわ。

「どうせ分けるつもりなら、そっちをよこしなさい」

「もう、欲張りだな」

 半ば強引に、口を付けていないチキンを強奪する。唾液とか不純物は付着していないわよね。そんな手回しをするほど狡猾ではないと信じたい。


 腹ごしらえも終わらせたところで、ようやく本来の目的地に赴く。とはいえ、駅から十分もかからない。もっと歩いてもよかったのだが、目的を見失ってはならない。あくまで、明日の大会で勝つため。浮かれてなんかいないんだから。

カード紹介

仮面の狂戦士

クラス:ウォーリア ランク1 コスト4

攻撃力500 体力300

突撃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ