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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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二つの選択肢


「これが、休日に起きた出来事の顛末よ」

 芽衣から話を聞いた私は、しばし絶句していた。あの友美が敗北したというのも、もちろん衝撃ではあった。だが、それ以上に彼女が大泣きして飛び出したなんて。


 一つ、収穫があったとするなら、学校で妙に落ち込んでいた理由がはっきりしたことだろう。十中八九、芽衣が話した出来事が原因だ。でも、ゲームに負けたぐらいで、あそこまで意気消沈するなんて。

「友ちゃんにとって、あの敗北は相当堪えただろうね」

 独り言ちるように、芽衣は言葉を漏らす。私は、ハッと彼女の顔を見つめる。


「友ちゃんは誰よりも友達を大事にする子だからさ。あの子が大会で負けた場面は何度か目にしたことはあるよ。でも、あそこまで落胆したのは初めてじゃないかな」

「そこまで、ですか」

 にわかには信じられなかった。とはいえ、同じ状況に置かれたとして、私もまた愕然とするのだろうか。自然と拳を握る。


「それで。唯ちゃんはどうする?」

 神妙な顔つきから一転。手を後ろで組みながら問いかけてくる。うろたえているのもおかまいなしに、人を食ったような笑みをぶつける。

「この店で起きたトラブルだから、店員である私が解決すべき問題ではある。でも、大人が口出しするべき問題でもないとも思うんだ。だから、私にできることは事実を教えることぐらい。それを聞いて、どう行動するか。考えてみなよ。唯ちゃんにはどんな手札が残されている?」

 そこでカードゲームを例えに持ち出しますかね。呆れつつも、正鵠を得ていると認めざるを得なかった。


 私が取るべき行動。考えられる手札は二つだ。


 まずは、無視すること。今回の事件、当事者となっているのはカードの交換を行った勝と敦美。そして、敦美の代理としてバトルした友美の3人だ。私は完全に部外者であり、本来口出しすべきではない。以前の私なら、迷うことなく、この選択をしていただろう。わざわざ面倒ごとに首を突っ込むなど愚行の極み。まして、学校での揉め事ならまだしも、遊びに過ぎないカードゲームだ。あまりにも時間の無駄すぎる。


 しかし、どうしても、もう一つの選択肢が脳裏にちらついて仕方なかった。一歩間違えれば、とんでもない悪手となる。一方で、最善手と化けるかもしれない。とどのつまりは博打に過ぎない。それに、冷静に考えれば、わざわざこんな手段を取る必要性が皆無なのだ。


 理性では無駄だと警鐘を鳴らす。だが、それを上回る情熱が後押しする。私は、握りしめた手に更に力を入れる。ゆっくりと開いた時には、掌に爪の跡が刻まれていた。

「芽衣さん。その勝という奴は、よくこの店に来るんですか」

「来るね。特に、大会が開かれるのなら、大抵参加しているかな。そういや、今度の休みにデュエバの公認大会が開かれるはず。参加するだけで限定プロモがもらえるし、これだったら、間違いなく出場するんじゃない」

 カレンダーを確認しながら、芽衣は情報提供してくれる。まだ週の前半。やれることは十分にある。私もカレンダーを一瞥し、芽衣に向き直る。

「私も、その大会に参加できませんか」

「なるほど。それが、唯ちゃんの選択ね」

 不敵に腰に手を添える。まるで、私がこの回答をするのを見越していたようだ。


 第二の選択。それは、私が勝にバトルで勝利し、カードを取り返すことだ。そもそも、不本意にカードをトレードされたことが大元の原因。ならば、カードを取り返せば万事解決だ。もちろん、平和的に話し合いで解決できれば一番である。でも、芽衣の話を聞く限り、勝は対話に応じるようなタマではない。ならば、意趣返ししてやるのが、一番効率的だろう。


 そして、大会が開催されるというのは追い風だった。公式戦の最中であれば、違和感なくバトルできる。加えて、副次的な効果も期待できる。

(友美に勝ったということは、勝は友美よりも強い。そんな奴に勝てれば、自然と私が上だと証明できるじゃない)

 そう考えれば、一石二鳥の作戦ではないか。自然と顔がにやけていたか、芽衣は顎を手でさすっていた。


 その日のうちに大会へとエントリーを済ませると、私は自宅へととんぼ返りしていった。もちろん、倒すべき相手の研究をするためだ。テストだって、出題範囲が分かっていれば、事前にいくらでも対策ができる。今回もまた然りだ。


 自室にこもり、パソコンを立ち上げる。芽衣の話では、勝の使うデッキは「コントロールアンデット」というものだった。以前にも目にしたTier表によると、アグロビーストと共に最上位に挙がっていた。


「相手の動きを妨害してリソースを奪いコンシードするデッキ。相変わらず言っていることは分からないけど、とにかく長期戦を狙うデッキみたいね」

 芽衣も言っていたけど、友美のデッキとはまるで正反対だ。デッキ解説によると、

「長期戦に持ち込まれる前にアグロ系で削り切るのが得策」

 と、書かれていた。それに倣うなら友美の方が有利だったはずだが、「ただし、低コストの除去呪文を多数搭載した型が増えているため注意が必要」とも記載されていた。


「第一、友美みたいな速攻デッキを作るにはカードが足りないのよね」

 私の切り札であるヴァルキリアスはコストが重い。速攻向きという点ではランク2のアヤメがいるが、彼女だけでは体力を削り切るには心もとない。


 もう一つの対抗策としては、長期戦に持ち込むのを利用し、コンボで特殊勝利を狙うことだ。

「そっちだと、なおさらカードが足りないわ」

 敦美の使っていたディーラーデッキを使おうとするなら、幾ら投資する羽目になるのか。正直、今月分の予算は底を尽きかけている。


 ならば、このデッキで真っ向勝負をするしかない。幸いにしてミッドレンジウォーリアはどんなタイプのデッキとも渡り合えるオールレンジ型だそうだ。明確に優位とはならぬとも、互角に戦えるのなら勝機はあるはず。


 そうしてまた、夕飯に呼ばれる声で、あやうく宿題を忘れるところだったと思い出すのである。

カード紹介

死霧の猛襲

魔法カード コスト5

墓地から任意の枚数のカードをゲームから除外する。その枚数×100以下の体力を持つ相手サーバントをすべて破壊する。

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