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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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無茶苦茶なトレード

「いやあ、負けた、負けた。割とガチのデッキ組んできたんだけどな。っていうか、少し見ない間に唯ちゃん急成長してない?」

「ヴァルキリアスの使い方を調べているうちに見つけたんですよ。突撃と言う能力を持つサーバントと組み合わせるといい、と」

「そういうのをコンボと言うの。確かに、ヴァルキリアスと突撃能力はベストマッチだからね」

 妙に、ベストマッチの発言が凝っていたが、何らかの真似事だろうか。


「デュエバに限らず、カードゲームはいかにしてコンボを成立させるかというのも、重要な要素よ。私のギャラクティカとフェニックスみたいにね。

 これは、カードゲームだけの話じゃないかもね。友ちゃんにとって、ベストなパートナー。唯ちゃんなら、もしかしたらなれるかも」

「パートナーって。そんな大層な間柄じゃありませんし」

「謙遜しなくてもいいのよ、もう」

 芽衣はケラケラと笑う。勝者は私のはずなのに、敗北した気分になっているのは何故だろうか。


 ひとしきり茶化した後、芽衣は咳払いする。顔つきも、先ほどとはうって変わって真面目そのものだ。指を組んで机の上に置く。

「約束だったわね。この前の休日に友ちゃんの身に何が起こったか。私にできるのは事実を伝えることだけ。これを聞いてどうするかは、唯ちゃんに任せるわ」

 そんな前置きを経て、芽衣は語り始めた。



 あれは、この前の日曜日のことだったかしらね。休日ということもあり、客の出入りは多い。私もそれなりに、あくせくと業務をこなしていた。誤解のないように言っておくけど、きちんと給与分はやるべきことをやっているんだからね。


 いきなり、話が逸れたわね。昼過ぎくらいのこと。

「やっほー。芽衣姉ちゃん!」

 私のことをそんな呼び方するのは一握りの人物。そして、その声には聞き覚えがある。

「友ちゃん、いらっしゃい。いいカード揃ってるよ」

「そりゃどうも。もっと、デッキを強化しないとね。さっそくケースを見させてもらうよ」

「おおう、気合入ってるね」

 言うが早いか、友ちゃんこと、風見友美はレアカードが陳列されているショーケースを眺める。その姿を見守りながら、私は査定作業を続けた。


「どう、いいカードあった?」

「うーん。メインで使ってるビーストだと、これというカードは無いんだよね」

「っていうか、友ちゃんのビーストデッキ、これ以上いじりようがないでしょ」

「いいや。もっと、改良の余地がある気がするんだよ」

「本当に気合い入ってるね。もしかして、負けられない相手ができたとか」

「まあ、そんなとこ」

「おお。本当だったか」

 これには素直に驚いた。同時に、友ちゃんの真剣な眼差しを初めて拝んだ気がした。


 彼女はどちらかというとカジュアル勢という趣が強かったはず。勝負の勝ち負けは二の次。とにかく、バトルを楽しみたいというスタンスだ。特に、デュエバを始めたばかりの頃はそんな感じだったはず。

 ははん、なんかあったな。私の直感がビビッと告げてきたね。こういう時に、ビーストのレアカードを仕入れられなかったのが悔やまれるわ。


 友ちゃんがカードと睨めっこを続け、今日も何事もなく過ぎる。そう思われた。けれども、事件はバトルスペースで発生した。

「不服。そのトレードは許容できない」

「うるせぇ! 文句あんのかよ」

 言い争う声が店内に響く。勝負において揉め事は往々にして発生する。私は重い腰を上げて、現地へと赴いた。


 そこでは、広げられたカードファイルを境に、三つ編みツインテールの少女とスポーツ刈の少年が対峙していた。少女の方はあっちゃんこと各務敦美だろう。彼女もまた常連さんだから、私が見間違えるはずがない。そういう意味では、少年の方もまた顔なじみだった。

「また、あいつか」

 こっそりと舌打ちしつつ。私は仁王立ちを決め込む。


「はいはい、喧嘩はそこまで。一体、どうしたと言うのよ」

「訴訟。そこの少年が無理にトレードを迫って来た」

「いいじゃねえか。その邪獄将軍ヘクタリオン。3枚も持ってるなら、1枚くらい譲ってくれてもよ」

「拒否。ヘクタリオンはお気に入りのカード。保存用、観賞用、愛玩用と取ってある」

「意味分かんねえし。別に、よこせって言ってるんじゃねぇぞ。デス・バイパーと交換でどうだって言ってんだ」

 敦美に難癖をつけている少年は本郷勝。目つきが悪く、どことなく国民的アニメのガキ大将を連想させる。後方に同じく不良っぽいお仲間を付き従えているのも、尚更そんな印象を与えた。


 正直、無理やりなトレードだった。ヘクタリオンは最高レアリティのSR。一方で、デス・バイパーはそれより下のVR。カードの価値がまるで釣り合っていない。

 それ以前に、トレードは双方の合意があって初めて成立する。一方が拒否している以上、交渉は決裂しているも同然。無理やり話を進めるなど言語道断だ。


 まったく。こんなの、眼鏡をかけた、狸型ロボに頼りきりの少年の漫画を取り上げ、「お前の物は俺のもの」と宣っているのと同じじゃない。頭を抱えつつも、止めないわけにもいくまい。

 しかし、介入するのが一歩遅かった。勝少年はあっちゃんの前に堂々とデッキを突きつけたのだ。


「よし、それならデュエバで決着つけようぜ。俺に勝つことができたなら、トレードは諦めてやるよ」

「強引。そんなのは認められない」

「やる前に逃げるのかよ、弱虫だな」

「それも当たり前か。勝に勝てるわけないもんな」

 取り巻きの悪ガキがはやし立てる。あっちゃんは臍をかんでいる。こいつらの常套手段を持ち出されたか。私も知らずに奥歯を噛む。


 性質が悪いことに、勝は正直に言って強い。うちで幾度かデュエバの公式大会を開催しているのだが、そこでの優勝常連なのだ。おそらく、全国レベルの大会に出場しても、そこそこの成績を収めるだろう。

 一方で、あっちゃんはバトルは二の次で、あくまでカード収集を楽しむコレクター。勝レベルのプレイヤーが本気で挑んできたら、太刀打ちできるとは思えなかった。


 あっちゃんもそれを自覚しているのだろう。先ほどから、うつむいて黙り込むばかりだった。そんな彼女の態度が勝を助長させる。

「バトルに使うでもないカードを何枚も持ってるなんて、おかしいよな。カードはバトルで活躍させてこそだぜ」

 そうだ、そうだと取り巻きがはやし立てる。あっちゃんはズボンのすそをグッと握りしめている。瞳が潤んでおり、限界寸前なのは明らかだ。


 そして、遂に決定的な一言が飛び出してしまう。

「第一、生意気なんだよな。女のくせにカードゲームで俺に張り合おうなんて。女子なら女子らしく、別の遊びでもしてろよ」

「いい加減にしなよ!」

 さすがに文句の一つでも言ってやろう。そう思っていたが、先手を打ったのは友ちゃんだった。事の顛末を傍観し、路傍の石のように動かなかった彼女。それが、いきなり大声を張り上げたのだ。さしもの勝も怯む。


 とはいえ、これで大人しく退散する肝でもない。不機嫌を顕わに、友ちゃんへと詰め寄る。

「なんだ、お前。文句でもあるのかよ」

「大ありだよ。さっきから聞いてれば、卑怯だよ。大勢でよってたかって、あっちゃんに不利な条件つけてさ。そんなことばっかしてるから、クラスの女子にモテないんでしょ」

「んなもん、関係ねぇだろ。クラスの女子なんかブスばっかだし。つーかお前、前にも見たことあるな。大会で戦ったことあるような。こいつの友達か」

「そうだよ。あっちゃんはわたしの大事な友達だ。そして、友達をいじめる奴は許さない」

 大手を振って、友ちゃんはあっちゃんを庇う。その顔つきは真剣そのものだ。友ちゃんとの付き合いは長いけど、彼女のこんな表情は未だかつて拝見したことはない。


 反吐が出ると言わんばかりに、勝は唾棄する真似をする。そして、したり顔をして、友ちゃんの方へデッキを突き出した。

「そこまで言うのなら、お前が相手してくれるのかよ。さすがに、勝てると分かる勝負に勝ってヘクタリオンを手に入れてもつまらねぇからな。お前なら、少しは骨がありそうだぜ」

「いいよ。相手をしてあげる。あたしが勝ったら、きっぱりとヘクタリオンは諦めてもらうからね」

「決まりだな。じゃあ、さっそくやろうぜ」

 こうして、友ちゃんと勝による一騎打ちのバトルが開始されたのだった。

カード紹介

救援兵エルダ

エマージェンシーカード

このカードは以下の能力を持つサーバントカードとして扱う

クラス:ウォーリア ランク1 コスト3

攻撃力100 体力100

このカードはコスト3以下のランク2以上のサーバントにランクアップすることはできない。

このカードが場に出た時、体力を100回復する。

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