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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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あなたの本気を証明してよ

 掃除の時間も終わり、結局めぼしい情報は掴めなかった。追求しなくとも支障はないのだが、心にしこりを残されたままではたまったものではない。

 とりあえず、図書室に向かおうか。私は鞄に勉強用具をしまう。すると、とあるものが紛れているのに気が付いた。


 惰性でずっと入れっぱなしにしていたのだろうか。鞄の底にデュエバのデッキが鎮座していたのだ。こんなものを亜子に発見されたら面倒だ。そそくさと教科書を詰め込む。

 だが、はたと思い至った。もしかして、これではないか。友美が休日に起きた出来事で意気消沈するとするなら、デュエバが関係していると考える方がむしろ自然だ。


 私の足は自然と校外へと赴いていた。デュエバのカード自体はコンビニやスーパーのおもちゃコーナーで買うこともできる。けれども、遊ぶスペースがある場所といえば、おそらくあの店ぐらいだろう。


 着替える暇も惜しみ、制服姿のまま自転車を走らせる。学校からだと二十分ぐらいの距離だが、電車で始発から終点まで乗り続けてるぐらいの体感時間はあった。

 ようやく到着したのは高野商店。言わずと知れた、ヴァルキリアスを手に入れた店だ。


「いらっしゃい。おや、珍しいお客さんが来たね」

 来店するや、お目当ての人物と遭遇する。芽衣はパソコンと睨めっこしながら、カードを仕分けていた。自転車を飛ばしたせいで息があがり、しばし口を利くことができなかった。それを「こいつ、何をやっているのだろう」と気になっていると解釈したのだろうか。


「ああ、これ? お客さんから売ってもらったカードを仕分けてるの。ノーマルでも意外と価値があるやつがあるからね。そんで、唯ちゃんはまたカードを買いに来たのかな?」

 尋ねられ、私は深呼吸する。

「この前の休みに、風見友美という中学生の女の子が店に来ていませんか?」

「友美? もしかして、あの子かな」

「知ってるんですか」

「髪を犬のしっぽみたいに横にくくった、ちっこい子だよね。友ちゃんなら、昔からよく、この店に来てるよ。確か、前の日曜日も来てたな」

 ビンゴだ。私は拳を握りしめる。芽衣は仕分け途中のカードを整理すると、机の上に組んだ手を乗せた。


「それで、友ちゃんがどうかしたのかな」

「学校で様子が変だったから、何かあったんじゃないかって、気になっているんです」

「ゲンドウの真似したんだけど、スルーかい」

「茶化さないでください」

「おおう、まさか、エ〇ァ自体通じないのか。いや、冗談、冗談だから、睨まないでおくれ」

 ふざけた態度をとる芽衣に眼力を送ると、背もたれに寄りかかってタジタジになっていた。


 芽衣は咳払いを一つ施すと、姿勢を正した。

「ああ、まあ、教えてもいいけどさ。こういうのは当事者の問題じゃん。そもそも、友ちゃんから直接事情は聞いたの?」

「聞こうとしました。でも、はぐらかされてしまって」

「うーん、案外堪えてるのかな、アレ」

「やっぱり、何かあったんですね」

 勢い余って、整然と並べられたカードを崩しそうだった。「どうどう」と宥められ、私は数歩後退する。


「さっきも言ったけど、これは当事者同士の問題だと思うからさ。おいそれと話していいものではないんだよね。ただ、友達としてどうしても気になるというなら、協力してあげなくもないけど」

 友達。その単語に胸がざわめいた。もしかして、傍目からはそういう関係に映るのだろうか。


 芽衣の言い分も尤もかもしれない。あまり他言しない方がいい話題というのも確かに存在する。

 一方で、最後まで明かされなかった解法が、目の前で開示されようとしているのだ。問題を解いている途中で答えを見るのはご法度だ。だが、その回答が今にも燃やされそうとしているのなら話は別だろう。


 葛藤に悩まされ、私は返答を口にすることができなかった。芽衣は「ふーん」と呟きつつ、目を細める。もしかすると、この提案は一種の助け船だったのかもしれない。

「あのさ。本気で知りたいと思ってる? もし、そうであれば、私に証明してほしいな」

「証明って、どうするの?」

「難しいことじゃない。私とデュエバで勝負してくれない?」

 言いつつ、芽衣はデッキを取り出した。何故、そこでデュエバ? 正直、訳が分からなかった。


「ふざけてるんですか?」

「大真面目。デュエバの問題はデュエバで解決する。それが、ここのルールよ。それとも」

 ぐいっと顔を近づけられる。黙っていれば美人とは、彼女のことを言うのだろうか。同級生の女子からは嗅いだことのない色香が漂い、私は胸をざわめかせる。


「私に勝つ自信が無い、とか」

「そうは言ってないわよ」

「本当かな。別に、難しい条件を出しているわけじゃないわよ。ただ、バトルさえすれば教えてあげるって言ってるの。それさえ拒否するなら、それまでってことでしょ」

 こうも露骨に挑発されては黙ってはいられなかった。私は鞄の底からデッキを取り出し、負けじと提示する。


「いいわ。やってあげる。あなたに勝って、友美のことを教えてもらうわ」

「おお。自ら条件をきつくするなんて、ひょっとしてマゾ? でも、そういうの嫌いじゃないわ」

 こうして、友美の情報を賭けた芽衣とのバトルが幕を開けるのだった。

カード紹介

クルミブレイクドール

クラス:ワンダラー コスト3 ランク1

攻撃力300 体力100

このカードが場に出た時、体力200以下の相手サーバント1体を選択し、破壊する。

相手の場に「デコイ」能力を持つ体力500以下のサーバントが存在した場合、代わりにそのサーバントを破壊してもよい。

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