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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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風見さん家の友美ちゃん、この頃少し変よ

 そこからしばらくは、なんら変哲のない日が続いていた。あれから、友美にデュエバに誘われることはなく、放課後はいつものように図書室で心穏やかに過ごすことができている。むしろ、私の心をざわつかせている存在は亜子だろうか。テストが近いせいもあり、

「今度のテストは負けないから」

 と、敵意を剥き出しにしてくる。そんなつっけんどんにされると、本気で迷惑だ。


 そんな折、事件は唐突に発生した。それは、変哲のない朝のことだった。私が人気の少ないうちに登校し、次々にやってくる生徒を横目に読書に勤しむ。そこまではいつも通りである。

 やがて、始業時間ギリギリになり、友美がやってきた。また、「おっはー」と子供向け番組みたいな挨拶をかますのだろうか。


 しかし、彼女は夢遊病を患っているように、フラフラと入室してきたのだ。一瞬、ゾンビが迷い込んできたのかと思った。

「友美、どうしたの。顔色悪いじゃん」

「ああ、だいじょぶ、だいじょぶ。きちんと平熱だから」

 女生徒に心配されたが、親指を立てて応対する。

「まあ、友美のことだから風邪は引いてないと思うけど。ほら、なんとかは風邪引かないって言うじゃん」

「こら、本当に体調が悪かったらどうするのよ」

 冗談をかます男子に、委員長が叱責を入れる。外見だけでは、体調不良かどうかは判別できない。ただ、本当に熱でも出ていたのなら、素直に学校を休んでいるだろう。実際、過去に友美が病欠して「静かすぎる」と逆に大騒ぎになったことがあった。


「おーい、授業を始めるぞ。風見、調子悪そうだが大丈夫か」

「へーき、へーき、へーき物語だよ」

「そうか。無理はするなよ」

 担任の先生にすら心配される始末だ。日本の軍記を用いて冗談をかませるぐらいなら、心配はいらなそうだが。


 寝不足で調子が悪いだけという線も考えられた。だが、給食の時間を経ても友美の調子は戻らなかった。一体、どうしたというのかしら。

 考えられる線はいくつかある。テストの成績が良くなかった。いや、定期試験はこれからだし、そもそも彼女がそれで悩むようなタマではないのは明らかだ。


 ならば、部活動で揉め事があったか。彼女は特定の部活動に入っておらず、ゲリラ的に運動部の助太刀をしているらしい。昨日は休日。そこで何らかのトラブルに巻き込まれたのだろう。


「本当に大丈夫、友美」

「だからへーき物語だって」

「あんた、それ気に入ってない?」

 給食中、女子と会話している友美に聞き耳を立てる。献立があんパンなら完璧だが、奇しくも揚げパンだった。


「部活で問題でもあった?」

 なんという神のいたずらか。ちょうど、私が聞きたかったことを尋ねてくれた。心の中で木村だか北村だか、どっちか分からない女子生徒に喝采を送っておいた。

 友美は牛乳を一気飲みする。いっちょ前に食欲はあるようだ。

「別にないかなー。そもそも、休みは学校に来てないし」

 大前提が崩れた、ですって。登校していないのなら、部活で問題を起こしようがない。ならば、対外試合。と、悪あがきしてみるが、そもそも助太刀である友美を公式戦に出したりするだろうか。

 練習試合ならありえなくもない。ただ、彼女は「学校に来ていない」と発言している。学外の体育館。それが一番可能性が高いか。


 あれこれ推理を巡らせているうちに、揚げパンを食べ終えてしまった。手に残る粉が執拗で気持ちが悪い。ふと、とある考えがよぎる。

 別に悩む必要はない。友美に直接聞けばいいのだ。しかし、既知の仲の級友に対し、「何でもない」と吹聴し回っている。今更、私なんかが尋ねたところで、返答が変わるだろうか。


 神のいたずらというべきか、私の思い付きを実行しろと言わんばかりに、掃除当番で友美と一緒になった。私が吐き掃除をしている傍ら、男子と雑巾がけで競争している辺りはいつも通りに見える。下着が見えそうで気が気でなかった。


「くっそー、負けた」

「へへん。どう、あたしのマグナムトルネード」

「お前、それいつの時代の漫画だよ。昭和か」

「残念、平成でした」

 ベロベロバーと挑発する。幸いなのは、委員長がいないことか。亜子と一緒の班だったら、とっくの昔に雷が落とされていたところだ。


 性懲りもせず、友美は「いっけー、マグナム」とレースを再開する。埃が舞い、掃除をしているのだか、汚しているのだか分からなくなる。

 ため息ひとつ、私は箒を動かす。ゴツ。衝突したような音がして、穂先が止められる。


 視線を下げると、友美が足元でお座りをしていた。そんな、大型犬と鉢合わせしてしまったチワワみたいな反応されても困るのだけど。この交通事故の加害者はどちらになるのかしら。

 そんな益体ない考えを巡らせていると、

「あ、えっと、ごめん」

「ああ、うん、気を付けて」

 友美の方からすんなり謝ってきた。元より毒をはらんだ覚えはないのだが、毒気を抜かれたようになってしまう。


 そのまま、友美は通過しようとする。そこで、ハッとした私は、

「待って」

 つい、彼女を呼び止めてしまう。友美は立ち上がり、スカートについた埃を払う。背を向けたまま、視線をよこそうとしない。


「えっと、何か、あった?」

 私は、口からそう絞り出すので必死だった。そこから、しばらく沈黙が訪れる。男子が「友美、何やってんだ」と茶化すが、反応を返さない。「変なの」と男子の方から勝手に離れて行ってしまう始末だ。


 気の利いた一言でもかければいいのだろうか。だが、それは古文の作中の空欄に適切な言葉を埋める問題より難しかった。

「別に」

 ふいに、友美が口を開いた。私は耳に力を入れる。

「別に、何もないよ」

「そう」

 それで会話は打ち切られた。ただ、先ほどまで男子とバカ騒ぎしていたのと同一人物だとはどうしても思えなかった。憂いすら感じさせる背中を掴もうと手を伸ばす。その指先は空を切るばかりだった。

カード紹介

ビーストパレード

魔法カード コスト5

自分の山札を見る。その中から、コスト1,2,3のクラス:ビーストのサーバントを1枚ずつ選び出し、場に出す。その後、山札をシャッフルする。

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