唯VS友美 召喚!ヴァルキリアス!!
友美の余裕を裏付けていたのは、「キラー」という能力だった。戦闘を行うと確定で相手サーバントを破壊できる。その能力を所有しているサーバントを駆使して、アヤメを始めとしたこちらの大型サーバントを的確に処理してくる。
互いにサーバントを消費しながら拮抗が続く。勝負も終盤戦になり、手札も枯渇してきた。そうなると、有利なのは私の方だ。友美のデッキの大半はコスト3以下のサーバントが占める。対して、私のデッキにはタイタロスといった高コストのカードが存分に仕込まれている。雑魚たちで総当たりを繰り返していては、消耗し尽きるのは明らかだ。
現に、友美の場のカードは0。こちらには攻撃力、体力共に500のジャスミンの他、小型サーバントが2体。一斉攻撃すれば、ライフを瀕死圏内まで持っていける。
「さすがに、逆転の目はないでしょう。サレンダーしたらどう?」
「さーて、どうかな。あたしはアマゾネス・クイーンを召喚する」
コスト8のビーストの最高レアカード。攻撃力、体力共に400の、褐色肌のやけに露出が多い女王だった。8コストも払って、そのパワー。やはり、万策尽きたのではないの?
「アマゾネス・クイーンの効果発動。デッキから3枚を公開し、その中にあるコスト3以下のビーストサーバントを好きなだけ場に出す」
「一気に3体も!?」
いや、落ち着け。効果からするに、サーバントを出せるかはギャンブル。不発に終わるかもしれない。
そう願ったのだが、淡い期待だった。そもそも、友美のデッキはコスト3以下のカードが多く採用されている。そうなると、あのカードで狙いのカードを出せる確率がどうなるかは明白だ。
「カードを公開。あたしは3体のサーバントを場に出す。それに、いいカードを引いた。コスト3、強襲する荒熊の効果。体力400以下のサーバントを破壊する。対象は盾持ち傭兵」
場にいるサーバントの数に応じて、破壊できる体力の数値が変動するカードだ。友美の場のカードは4枚だから体力400以下が対象になったわけね。
「まだ終わらないよ。俊敏なる隼は場に出たターンでも攻撃できる速攻能力を持っている。プレイヤーに直接攻撃」
攻撃力200とはいえ、終盤戦では痛い一撃だ。私の残り体力は500。友美は800。おそらく、あのカードをずっと温存しているのだろう。おまけに、エマージェンシーカードも2枚残している。おそらくと言うまでもなく、このターンで決めなければやられる。
幸いにして、場には2枚のサーバントが残っている。ならば、こちらも切り札を出すしかない。
「いいところまでいったけど、これまでかな。ジャスミンとハンナの攻撃力を合わせても700。盤面を無視して攻撃してきても届かないよ」
「確かにそうね。でも、このカードならどうかしら。私はハンナをランクアップ! 召喚、戦場の女神ヴァルキリアス!」
「ええ!! そんなカードまで持ってたの!?」
友美に勝つために手に入れた切り札。大剣を振るう、金髪の女神がバトルフィールドに顕現する。
コスト8、攻撃力と体力共に800。そして、ランク2だから、プレイヤーに直接攻撃できる。この攻撃が通れば勝てる。
しかし、友美もただでやられるわけはなかった。
「なーんか隠し持ってるとは思ってたんだよね。だから、こっちもこのエマージェンシーを温存していたんだよ。クイックシールド。アマゾネスにデコイ能力を与える」
体力400のアマゾネスが壁として立ちふさがる。これで直接攻撃は不可となった。でも、ヴァルキリアスなら、まだ突破口はある。
「ヴァルキリアスでアマゾネス・クイーンを攻撃」
「破壊されちゃったか。でも、せっかくの800の攻撃力が不発に終わったね」
「それはどうかしら。ヴァルキリアスの効果を発動。このカードは戦闘によって相手サーバントを破壊した時、自身の攻撃力から相手の体力を引いた値のダメージをプレイヤーに与える」
「えっと、ヴァルキリアスが800でアマゾネスが400だから」
「そのぐらいの引き算、すぐにしなさい。400ダメージよ」
友美の体力が半分の400まで削られる。それに、私のターンはまだ終わっていない。
「ジャスミンで荒熊を攻撃。ここでヴァルキリアスの能力を発動。このカードが場に居る限り、私の他のサーバントにも同様の能力を与える。ジャスミンの攻撃力は500、そして荒熊は200。よって300ダメージよ」
これで友美の体力は100だ。相手の場にいるのは隼とアーチャー・キャット。合計攻撃力は300。私の体力は削り切れないし、ヴァルキリアスはおろか、ジャスミンすら倒すことはできない。今度こそ、私の勝ちよ。
そう確信し、机の下で拳を握る。友美はさぞ落胆しているでしょう。高みの見物に入り浸ろうとしたが、彼女はなおも朗らかだった。愉悦すら感じさせる態度に、握った拳から力が抜ける。
「残念だけど、ここでリーサルだよ。本当なら、もっと遊びたかったけどね」
「やはり、あのカードを。でも、それだと体力を削り切れないはず」
私が最大限警戒しているのは、もちろんジューオ。現状況でキャットをランクアップさせれば、隼にバフをかけ、合計800ダメージを出すことができる。
それを見越し、エマージェンシーカードを復活できるジャスミンでクイックボマーを再度仕込んだのだ。隼を倒せば、ジューオ単体で与えられるダメージは400。ギリギリ耐えて、次のターンで終わりだ。
なのに、確実に私を倒す手段があるというの。友美の手札は、ターン開始時のドローを済ませて2枚。その他には1枚のエマージェンシーカード。
「まさか」
ずっと気になっていたのだ。ゲーム開始時から使用される気配のないエマージェンシー。一体、どんなカードが隠されているというのだ。
「エマージェンシーカードは何も魔法だけではない。こんなカードもあるのだよ。レスキューフォックスを召喚」
「サーバントですって」
コスト3、体力、攻撃力共に100。デコイを持っているとはいえ、普通に召喚したら弱すぎるカードだ。
本来は相手ターンに召喚し、デコイで敵の攻撃を一時的に防ぐというものだろう。だが、この局面で新たなサーバントが無償で召喚されたというのは、重大な意味合いをはらんでいた。
「仕上げだよ。仲間の絆を一身に受け、吼えよ、昂れ、獣の王者! 誉れの王者ジューオ召喚!」
レスキューフォックスがランクアップされ、獣の王者が降臨する。場のサーバントが3体ならば、ジューオの攻撃力は600まで上がる。
「させない。エマージェンシーカードクイックボマー。隼を破壊する」
「問題ないよ」
普段の彼女からは考えつかない冷淡な声。それで、私は末路を悟った。攻撃可能なのはジューオとキャットの2体。そして、これ以上攻撃を防ぐ術はない。
「楽しかったよ。ありがと、唯ちゃん」
連続攻撃をくらい、私の体力は0となった。
カード紹介
戦場の女神ヴァルキリアス
クラス:ウォーリア ランク2 コスト8
攻撃力800 体力800
このサーバントは能力によって破壊されない。
このサーバントが場にある限り、自分の場のサーバントすべては以下の能力を得る。
このサーバントがバトルに勝った時、相手プレイヤーにXダメージを与える。Xは自分のサーバントの攻撃力から相手サーバントの体力を引いた値である。