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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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唯VS友美 デッキには無限の可能性が眠っているんだよ

「あたしのターン。コボルトを召喚してターンエンド」

「ならば、私は見習い戦士キットを召喚してエンド」

 互いに1ターン目は1コストのサーバントを繰り出して終了した。将棋で飛車先の歩を突くようなものだ。


「あたしのターン。隠密ネズミを召喚。そして、コボルトでプレイヤーを攻撃」

 先制を仕掛けたのは友美だった。それでも、たったの100ダメージ。まだ誤算の範囲よ。

 私にターンが回り、手札を一瞥する。出せるカードに「砲撃手カノン」がある。これを使ってもいいけど、ここは。


「私は盾持ち傭兵を召喚」

「へえ、2コストのデコイ。うーん、厄介なの出てきちゃったね」

 芽衣から押し売りされたカードだ。そして、キットが攻撃可能になっている。手っ取り早くプレイヤーを攻撃したいところだけど。

「そして、キットでコボルトを攻撃」

「相討ち、ね。サーバントのトレードを仕掛けてくるなんて、確かに前よりパワーアップしてるじゃん」

 素直に称賛され、私は頬が緩む。あなたのデッキは小型のサーバントを大量展開するのが勝ちパターンというのは予習済み。ならば、徹底的にサーバントを潰せば勝ち筋は無くなる。急がば回れというやつよ。


 けれども、そうすんなりと計画を進めてはくれそうになかった。

「私のターン。狼の群れ長を召喚」

「また、それ」

「狼ちゃんは私の相棒だかんね。ここぞという場面で駆けつけてくれるのさ」

 なんか、口ぶりからして、ターンの最初にデッキから引いたような気がするのだけれど。実際、ドローした時にあからさまに喜んでいたし。この子、ポーカーとか弱そうね。


「群れ長の能力発動。デッキよりアーチャー・キャットを呼び出す。キャットの能力により、体力100のキットを破壊。そして、バトル! 隠密ネズミで盾持ちを攻撃」

 キットを破壊されたのは計算違いだったが、ネズミを相討ちさせたのは想定の範囲内だ。ただ、相手の場には2体のサーバント。試合は友美のペースだけど、好きにはやらせないわよ。


「機械仕掛けの守衛を召喚」

「クラス:ディーラーだって!? 唯ちゃん、いつの間にそんなカードを」

 驚くのも無理はない。別に、デッキ内のクラスを統一しなければならないというルールは無いのだ。敦美も使っていたカードで、なおかつ、これも押し売りされたものである。


 守衛の体力は500。友美の場に居るサーバントだけでは突破できない。実質、1ターン休みとなるわけだから、ここで反撃させてもらうわ。と、思っていたのだが。

「唯ちゃんがそのつもりなら、私もこのカードを使わせてもらうよ。クルミブレイクドールを召喚」

「クラス:ワンダラー。ビーストのカードじゃないの」

 まさか、友美もビースト以外のカードをデッキに入れていたなんて。大木槌を持った滑稽な顔立ちの操り人形。戯曲の「くるみ割り人形」がモチーフとなっているのだろう。


「クルミブレイクドールの効果。体力200以下のサーバントを破壊できる。あたしは守衛を対象に選ぶ」

「ちょっと待ちなさい。守衛の体力は500。それでは破壊できないわ」

「チッチッチッ。この子の真価はここからだよ。ドールのもう一つの能力。選択対象が能力デコイを持っていた場合、体力500以下まで破壊できる」

「なんですって」

 まさに、守衛を狙い撃ちしたかのような能力だ。安牌かと思われた守衛が、たった一撃で除去されてしまう。それに、友美の猛攻はまだ終わりではなかった。

「群れ長とキャットでプレイヤーを直接攻撃。これでターン終了」

 残り体力は1600。けれども、次のターンで攻撃力300のドールも加えて一斉攻撃されたら、一気に半分まで体力を減らされる。


 ならば、ここが使い時だ。

「私のターン!」

「おお、遂に言ったね」

「うるさい。エマージェンシーカード、クイックボマー。これによりクルミブレイクドールを破壊。そして、盾持ちとカノンを召喚してターンエンド」

「サーバントを並べてきて、あたしの真似かな」

「どうとでも言いなさい」

 ふふんと、友美はまだ余裕そうだ。口ぶりからして、強力なカードを温存しているのだろう。


 その予想はすぐに肯定されることとなる。

「じゃ、私のターン。魔法カードビースト・パレード。群れ長、伝令兵、コボルトを出す。群れ長の効果。伝令兵2体目を出し、2体の伝令兵の効果でカードを2枚ドロー」

 一気に4体のサーバントが追加された。この展開はまずい。焦燥冷めやらぬ中、友美は追撃を加える。

「群れ長で盾持ちを攻撃。キャットはリーダーに攻撃だ」

 体力1500でとどまったが、盤面は圧倒的に不利だ。カノンだけで、これだけの軍勢を相手にしないといけないのか。おまけに、友美があのカードを手札に引き込んでいたら、次で勝負を決められる。


 今の私の手札に逆転の手はない。あのカードはコストが足りないし、他のカードは焼け石に水だ。ならば、このドローにかけるしかない。今日の教室での一幕が頭をよぎり、手が震える。


 孤立無援なんて、いつものことだ。今までそうだったし、そうして解決してきたではないか。最悪、現状の手札だけでも、どうにか戦ってみせる。

「苦戦してるみたいだね」

 私の信条を示唆してか、友美が声をかけてくる。

「うるさい」

「一つ、アドバイスしてあげよっか。デッキには無限の可能性が詰まってるんだ。だから、今の手札でどうにかできなくても、諦めることはないよ」

 まるで、私の手札を見透かしたような。この子、エスパーではないわよね。まったく、完全なる運任せとは、私らしくもない。でも、ここが正念場なのだ。私は目をつぶってカードを引く。


 片目で引き込んだカードを確認。そして、にやりと口角をあげた。

「敵に塩を送ったことを後悔することね。私のターン! 砲撃手カノンを薙刀の覇者アヤメにランクアップ!」

 芽衣から勧められたレアカードだ。薙刀を振るう大和撫子が戦線に顕現する。

「アヤメ。まさか、そんなレアカードを」

 友美の表情が曇った。ならば、このカードの効果を知っているのだろう。同時に、それによってもたらされる結末も。


「アヤメの効果を発動。体力200以下のサーバントをすべて破壊する。私の場にサーバントはアヤメのみだから効果は無い。けれど」

 友美の場のサーバントはすべて体力200以下。よって、すべてのサーバントが除去される。それに、まだ私のターンは終わっていない。

「アヤメはランク2だから、場に出たターンに攻撃できる。プレイヤーに直接攻撃」

 初ダメージにより、体力は1500まで削られた。さすがに、この窮地に意気消沈しているんじゃないかしら。


 すると、友美は肩を揺らす。落胆しすぎておかしくなったか。いや、逆だった。

「すごい。すごいよ、唯ちゃん。あたしの予想以上に強くなるなんて」

「誉め言葉なら素直に受け取っておくわ。さあ、あなたのターンよ。サーバントが全滅した以上、ジューオは出せないでしょう。それに、こっちにはアヤメがいる。そう簡単にはやらせないわ」

「合点承知の助だよ。バトルはこっからが本番じゃん」

 劣勢に立たされたのに、闘志は失われていない。むしろ、輝かしくさえ思えた。彼女の一挙手一投足に、こちらまで高揚してくる。

カード紹介

薙刀の覇者アヤメ

クラス:ウォーリア ランク2 コスト4

攻撃力500 体力400

このカードが場に出た時、体力200以下のサーバントをすべて破壊する。

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