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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第4章 仙道亜子
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まさかの敗北

 そんなこんなで時は流れ、ついに定期テストの本番を迎えた。

「あー、どうしよ。全然勉強してないよ」

 教室の中心で友美が嘆く。そんなことを言う奴に限って、本当はきっちりと勉強している。それがセオリーだ。だが、私は知っている。友美は本当に勉強していない。追従している和菜もまた然りだろう。


 友人たちと勉強していないアピール合戦で盛り上がっている彼女をよそに、私は教科書と睨めっこを続ける。大方、内容は頭に入っているはず。それでも、最後の最後まで念を入れておきたい。


「調子はどう?」

 歴史の用語をそらんじていると、机の角を叩きつつ尋ねてくる者がいた。この場合は訪ねてくるでも正解になるだろうか。と、次の国語の用意もしつつ、私は顔を上げる。


 教室内での来訪者など誰何するまでもない。

「ぼちぼちね」

「と、言いつつ万全なんでしょ」

 眼鏡の位置を直す、カチューシャを付けた生真面目そうな少女。委員長こと亜子だ。


「今回こそは、私が勝たせてもらうから」

「定期テストは実力を測るもの。勝ち負けは問題ない。そうじゃなかったっけ」

「それはそれ、これはこれよ」

 前のテストで私が勝った時に吐かれたセリフを再現してやったのだけど。頬を膨らませつつも、手元の参考書は手放さない。


 まだ言い足りなそうだったが、先生がやってきたことで強制的に会話は打ち切りになった。教科書を片付け、日直の号令に従う。この段階になると、もう天命に任せるのみだ。どんな問題が来ようと、真っ向勝負よ。


 結論から言うと、自信は半々だった。教科によって、露骨に難易度に差があり、平均点の高低差が激しそうだ。

 おそらくと言うまでもなく、亜子は平均点が高い科目はきっちりと押さえてくる。ならば、高難易度の科目。それで、どれだけ点を取れているかが勝負の分かれ目だ。


「手ごたえはどう?」

 答案が返却される直前の休み時間。亜子がわざわざ訪ねてくる。尋ねてくるの方が正しいのか不安になってきたわ。

「まあ、やるべきことはやったわ。後は結果を待つだけよ」

 あくまで、平生を保っているように言う。内心では、心臓の鼓動がうるさかったが、それを悟られては負けな気がした。


「そう。楽しみにしてるわ」

 捨てセリフと共に、亜子は席へと戻っていく。口角を上げた横顔は、どことなく浮足立っているように感じた。


 この授業で返却されるのは、体感、最も難易度が高いと思われた歴史。それは間違っていなかったようで、

「今回は少し難しい問題を入れていたとはいえ、皆点数が低かったな」

 と、いう前置きと共に「45点」という平均点が発表される。平均が50点を割るのは稀だ。おそらく、クラスの大半が50点付近に固まっているのだろう。さすがに、定期テストで点数が両極端に分かれるのは考えにくい。


「うーん、43点か。平均超えたかったな」

「ええ、キムっち、十分高いじゃん」

 先に答案を返された和菜の嘆きの声が聞こえる。勉強に自信が無いと自白していたものの、彼女はきっちり平均付近はマークしていたはず。やはり、私の予想は間違っていなかったようね。


 そして、先に亜子の答案が返される。

「仙道。みんなが苦戦している中、よく頑張ったな」

 先生から称賛が飛び出す。表情を綻ばせているのは遠目からでも分かった。推察するまでもなく、高得点を叩き出したに違いない。


「次、小鳥遊」

 いよいよ、私のターンだ。例えるなら、ヴァルキリアスで次のターンにリーサルをかけようとしていて、相手の手札に除去手段があるかどうかという局面かしらね。一部からの圧を感じつつも、私は背筋を伸ばして教卓へと向かう。


 そして、先生と向き合う。答案を一瞥すると、肩を落とした。

「さすがに、小鳥遊でも今回の問題は難しかったか」

 私にしか聞こえない声音だ。喉を詰まらせ、私は返事ができずにいる。


 答案を受け取り、そそくさと自席に戻る。恐る恐る、点数を確認する。

「67点」

 平均よりは上。だが、普段だったら取らないような点数だ。手ごたえが無いとはいえ、70点後半だと思っていたのに。


 その後、答案の解説が始まったのだが、打ちひしがれてろくに頭に入ってこなかった。こういうのは、復習が一番肝心。そう、頭では分かっているのに。


「ああ! 全然ダメだったよ」

「すげー、7点だぜ、7点」

「友美、どうやったら、そんな点取れるんだよ」

「うっさいな、田中だって12点じゃん」

 友美は、男友達とどんぐりの背比べ対決をしていた。対岸の火事というか、教室のど真ん中に川が流れているかのような錯覚を感じる。


 私はそそくさと教科書を鞄に入れる。だが、その挙動を見逃さない奴がいた。

「どうだったかしら」

 そんな、開封前の新弾のパックを前にした口調で問いかけられても困る。そして、案外こいつはしつこいというのは、腐れ縁で分かり切っていた。


「別に、どうだっていいでしょ」

 煙に巻こうとしても、ニコニコ顔を崩そうとしない。眼鏡の奥の眼光はまっすぐに私を捉えている。これは、素直に諦めた方が無難ね。


 わざわざ、片付けたファイルを再度取り出す。

「お、唯ちゃん。結果はどうだったんだい」

 間が悪いことに、友美が覗き込んで来る。ただでさえ億劫なのに、私の指先に鉛が絡みついたようになる。なんで、答案用紙を見せるだけなのに、警察に覚せい剤を提出しようとしているみたいになっているのかしら。


 そんな自虐をかましそうになりつつ、ままよと机の上に答案を置いた。そこで沸き起こったのは二重の意味での驚愕だった。

「すっげ、67点だってよ」

 いつの間にか蛇足(田中)が加わっていた。尤も、友美も似たような反応だった。彼女たちだけだったら、気が紛れただろう。


 でも、こいつがいたことが、私を陰鬱にしていた。

「あなた、これ」

「そういうあんたは、何点なのよ」

 虚勢を張らないとやっていけなかった。もちろん、直後に打ちひしがれると分かっていても。

 無言のまま、亜子は答案を差し出す。その右上に刻まれた点数。


「85点」

 誰しも、それ以上の言葉を発することができなかった。最近読んだ小説に出てくる、転生してチート能力を持った主人公が急に現れたら、こんな心情になるだろう。


「難しいとは思ったけど、あそこまで平均点が下がる難易度ではないと思っていたわ。珍しいわね、あなたがこうまで苦戦するなんて」

「委員長、イヤミかよ」

「そーだ、そーだ」

「あなたたちは、もっと勉強しなさい」

 友美と田中がやんややんやするも、意に介さず窘められる。そんなやり取りを、私は傍観することしかできなかった。


 結局、その他の教科も大した点差は無い。むしろ、私の方が低いくらいだった。亜子とはいつも僅差で競い合っていた。なのに、こうまで明確に点差をつけられて敗北するのは初めてだった。

 別に、定期テストで勝ったところでどうということはない。勝負と言うのも、主に亜子が勝手に言いだしていることだ。


 でも、完膚なきまでにやられるというのは、さすがに堪える。こういう時は、現実逃避をするに限る。私は、授業が終わるや、脇目も振らず図書室へと籠った。

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