つかの間のライン
帰宅した私は、さっそく机へと向かう。あれだけ講釈を垂れたのだ。自分自身が勉強に集中できないなんて、間抜けを犯すわけにはいかない。幸いといってどうか分からないけど、両親はまだ帰宅していない。数時間ぐらいは静かに励めるだろう。
静まり返った自室に、シャーペンを走らせる音だけがひときわ大きく響く。ほんの数時間前はうるさいぐらいだったというのが嘘のようね。って、いけないわ。集中しないと言った傍から。私は頬を叩き、数学の問題集と向き直る。
しばらく問題文と格闘していると、ラインの着信音が鳴る。一体誰よ。画面に表示されていた名前は友美。
画面を開くと、絶望的な顔をしたモアイのスタンプが送られてきていた。こんなの、どこで見つけてくるのよ。前も、大喜びする鳥獣戯画のカエルのスタンプとか送って来たし。
ともあれ、これは困っているということよね。お節介とは思いつつも、ログを辿る。そうしたことを後悔した。
「この前、アニメのデュエバで敵が使ってたカード、炎獣兵なんだっけ」
「しょうもないこと質問してるんじゃないわよ!」
勉強の質問かと期待した私がバカだった。いや、友美がそんなライン送ってくるわけないではないか。
すると、しばらくして、新たな通知がもたらされる。
「回答。炎獣兵グランギルウス」
「真面目に答えてんじゃないわよ!」
おまけに、カードの画像まで送られてくる。画質の荒さからして、自前のカードだろう。
「そう、それ。手札からサーバント捨てて、その攻撃力以下の体力を持つサーバントを破壊するやつ」
「へえ、そんなのがいるのね」
「あなたも便乗してるんじゃないわよ!」
キムっちまでメッセージを送って来た。そういうアカウント名で登録されているのだから、間違いは言っていない。
この子たち、諦めて帰ったと思ったら、性懲りもなく連絡を取り合っていたのね。ため息をついたところ、新たな投稿が通達された。
「こんな奴が使ってたよね」
そうして送られてきたのは、髪の毛がギザギザで、目と口が三角形の半裸の男だった。パンクロッカーかしら。すると、数分後に新たな画像が送られてくる。
「否定。こんな奴」
友美のへたくそな男の絵を清書し、そのまま漫画誌に載せても違和感が無い代物だった。
「ああ、そうそう。こいつ」
「蛇・メタ夫でしょ。三平が見てたアニメに出てたわ」
ひどい名前ね。明らかに敵。と、いうか、敦美の絵のクオリティが高すぎるわね。
「へえ、敦美ちゃん、絵が上手いのね」
和菜も同意のようで、称賛のメッセージを送る。
「誇示。それほどでも、ある」
天狗になってんじゃないわよ。
「キムっちも何か描いたら」
「ええー。こんなのしか描けないよ(´・ω・`)」
ショボーンという顔文字と共に、無駄に可愛い猫っぽいキャラクターの絵が送られてきた。
「愛玩。可愛い」
「うぐ、キムっち、そんな絵を描けたのか」
「双葉の方が上手いわ。負けじと練習して、これだもん」
あの妹ちゃん、絵が上手かったのか。意外な一面が知れてほっこり。してる場合じゃないっての!
「あんたら、真面目に勉強しなさい!」
「おお、唯ちゃん、生きとったんか」
同時に天使のスタンプを送るのは不謹慎だから止めなさい。
「指摘。既読スルーはよくない」
「そうよ。ちゃんとチェックされてるんだから」
どうして、私が責められる流れになってるのよ。明らかに、サボっているあなたたちの方が悪いわよね。
なんか、やられっぱなしだと癪ね。ちょっと、反撃してやろうかしら。
「そこまで余裕なら、この問題とか解けるわよね」
そんなメッセージと共に、解いている問題集のページを写す。
植物が光合成をするのに必要なのは水と二酸化炭素と()である。この()を埋める問題だ。理科の基礎的な問題。きちんと授業を聞いていれば悩むまでもない難易度のはず。
「提議。誰か分かるか」
「何か食べ物が入るんじゃない。唐揚げとか」
「それ、キムっちが食べたいものでしょ。こんなの簡単。プロテインだよ、プロテイン」
「全然違うわよ!」
大喜利やってるんじゃないんだから。植物が唐揚げやプロテインで育つわけないじゃない。
「回答。マナ。強いサーバントを出すにはマナが必要」
「おお、そうじゃん。あっちゃん、冴えてる」
「なるほど、マナ、と」
「いや、違うから」
ファンタジー小説なら正解になりそうだけど。ちなみに、正解は光。ここ、冗談抜きでテストに出るわよ。
そんな調子で、肝心の勉強は邪魔されるばかりだった。でも、不思議と煩わしさを感じることは無かった。むしろ、いい気分転換になるというか。
ただ、画面越しのあの子たちは、常に気分転換しているような気がするのよね。ラインの通知音をBGMにして勉強しているようなものだし。
カード紹介
炎獣兵グランギウルス
クラス:レジェンダリー ランク1 コスト4
攻撃力400 体力200
このカードが場に出た時、手札からサーバントを1枚捨ててもよい。そうした場合、そのサーバントの攻撃力以下の体力を持つ相手サーバントを1体選び破壊する。




