勉強は大丈夫かい?
その後、幾度か和菜とバトルしたのだが、先ほどまでの快勝が嘘のように、見事なまでの連戦連敗だった。
「デッキのカードが二、三枚変わるだけでも、こんなに違う結果になるの。せめて、敦美には勝てると思ったのに」
「不服。侮られては困る」
むくれる敦美はさておき、和菜の呆然ぶりには同調する。サイ〇リヤの間違い探しレベルの誤差のはずなのに、ここまで結果に差が出るなんて。
「それまで環境外だったデッキが、たった一枚のパワーカードを得たことによって環境トップに躍り出るなんて、よくあることよ」
「竜人を得た武装ドラとか」
「補足。あれは、レーヴァテインのやけくそ強化の影響もある」
後から聞いた話、アニメの主人公のデッキを無理やり環境入りさせた別のカードゲームのことのようだ。
デッキを見直すと対戦台から退く和菜。ならばと、私と友美でバトルを開始する。そんな矢先だった。
「ところで、最近デュエバにかかりきりだけど、勉強の方は大丈夫なのかな?」
芽衣が唐突にそんなことを言い出す。
途端、一斉に時が静止した。どういうこと、これ。問いかけた芽衣自身も、
「ザ・ワールドなんて使った覚えないわよ」
と、困惑している。
ようやく、拘束が解けたのは時計の秒針が一周しようかという時だった。
「もう、びっくりするな、芽衣姉ちゃん。いきなり、心臓に悪いこと言いださないでよ」
「心臓に悪いのはこっちよ。いきなり固まるから、心配したのよ」
「必然。あんなことを聞かれたら、固まる」
さも、当然と言わんばかりに敦美は胸を張る。張る局面ではないと思うけど。
「テストかぁ。聞きたくなかったわ」
和菜が耳をふさぐ。
「キムっち、昔から勉強が苦手だったもんね」
「あんたも人の事言えないじゃない」
白い眼を向けられ、友美はへたくそな口笛を鳴らす。と、いうか、鳴らせていない。
「まさか、あなたたち、テスト勉強を全然やっていないとか」
私が指摘すると、再び沈黙が訪れる。まあ、そんな予感はしていたわよ。
「だって、仕方ないじゃん。デュエバの練習しなくちゃだし、部活の応援にも呼ばれてるんだもん」
友美が不平を訴える。それでなくとも、この子は成績が優秀なイメージが無い。
「私だって、色々と忙しいのよ。双葉や三平、善詩乃の面倒を見なくちゃだし」
和菜は、まあ、仕方ないわね。あの状況で成績が良かったら、逆に化け物だと思うわ。
「耳線。勉強については聞きたくない」
この子については仕方ないと言うか、意外ですらあったわ。
「あなた、そこそこ勉強できそうなイメージあったけど」
「あっちゃん、基本的に勉強は好きじゃないんだよね。と、いうか、好きな教科と苦手な教科の差が激しいんじゃなかったっけ」
「提案。すべての授業を国語と歴史にすべき」
要するに、典型的な文系人間と言うことね。
「唯ちゃんはいいよね。いつもテストで満点取ってるんだもん。ねえ、テストでいい点取れる道具とか持ってないの」
「のび太みたいなこと言い出さないでよ。そんなのあるわけないでしょ。普段から、しっかりと予習、復習をする。それに勝る勉強法なんて無いわよ」
「それができたら苦労しないんだよ!」
胸を張って主張することじゃないわよ。
とはいえ、そろそろ定期テストの時期か。デュエバをやりたいのもやまやまだけど、勉強に集中しなくちゃね。
「そろそろ時間だから、お暇しようかしら」
「あ、一人だけ抜け駆けで勉強しようとしてるぞ」
「確保。そうはさせない」
帰宅しようとすると、がっつりと両腕を掴まれた。
「離しなさいよ。いつ帰ろうと、私の勝手でしょ」
「フフフ、お姉さん、もうちょっと遊んでいかない」
「誘惑。楽しいこといっぱいあるよ」
「あんたら、怪しいお店の店員みたいになってない」
ここ、カードゲームのお店よね。ロイヤルストレートフラッシュとか言い合ってないよね。
「和菜、あなたもどうにか言って」
「逃がさないわよ」
「あなたも!? と、いうか、家事は平気なの」
「お手伝いさんがいるからね!」
そうだからって、頼りきりはどうかと思うわよ。勉強したくないゾンビに囲まれ、私はにっちもさっちもいかなくなる。
「はいはい、唯ちゃんが困ってるでしょ」
助け舟を出したのは芽衣だった。三人にそれぞれチョップを入れたことで、ようやく大人しくなる。
「芽衣姉ちゃん、暴力反対」
「直訴。出るとこに出る」
「お姉さまの愛の鞭」
一人、反応がおかしい奴がいたけど、主に不平を訴える。芽衣も負けじと、腰に手を添えてため息をつく。
「学生の本分は勉強よ。あの時、もっと勉強しておけばって、後悔する前に、さっさとやるべきことをやっちゃいなさい」
「芽衣さん、実体験交えてません」
「あらぁ、せっかく助けてあげたのに、妙なことを言うのはこの口かしら」
「いえ、何でもありません」
自ら地雷を踏みぬくのは愚か者がやることだ。未だ不満たらたらの者も含め、本日はこれでお開きとなった。
マニアックな小ネタ紹介
竜人を得た武装ドラ
アニメの主人公も使っていたシャ〇バの武装ドラゴンのこと。
流麗なる竜人というカードが追加されたことで、これまで環境外だったのに、一気に一線級に躍り出た。
加えて、切り札のレーヴァテインドラゴン等の上方修正により、アンリミフォーマットでも環境上位に食い込むと、露骨な好待遇を受けている。




