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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第4章 仙道亜子
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殿堂入りカード

「私のターン。ワンダートラベラー・アリスで直接攻撃!」

 ロリータ調のドレスを着た少女のサーバント。可愛らしい外見には似つかわしくない痛烈な一撃を受け、私の体力は0へと尽きた。


「すごい、キムっち。これで5連勝じゃん」

「驚愕。ビギナーズラック、恐るべし」

「そ、そうかしら」

 称賛を受け、和菜は照れ臭そうに頭の後ろを掻いた。まったくもって、彼女の快進撃には平伏するばかりだ。私より後にデュエバを始めたはずなのに連戦連勝。本当にずぶの素人なのか疑いたくなるレベルである。


 弟の誕生日プレゼントに端を発した一連の事件。和菜の話では、最近家事を専門にこなすお手伝いさんを雇ったとのことで、前みたいに放課後に獅子奮迅する必要がなくなったとのことだ。

 そうでなくとも、双葉や三平が幾分家事に協力的であり、前よりもはるかに時間的余裕ができたとのこと。バスケ部にも顔を出しているようだが、こうして私たちと一緒にデュエバに興じるようにもなった。


 今日もこうして、友美たちとバトルしているのだが、どうにも和菜の勝率が異常なのである。

「うーん、どうして勝てないのかしら。インチキはしてないわよね」

「失礼ね。ルールを覚えたばかりだから、インチキなんてしようがないじゃない」

 難癖をつけられたと、和菜は憤慨する。基本も習得してないのに、応用なんてできるわけないということか。


「唯ちゃん、連戦で疲れてるんじゃない? なら、今度はあたしが相手しようか」

 お気楽な調子で友美が代わりにテーブルに着く。彼女が使うのは、私とはタイプの違う速攻デッキ。デッキ相性というものもあり、傾向が変われば、そう簡単に連勝はできないはずだ。おそらく、友美もそれを承知の上で勝負を挑んでいるのだろう。この子、たまに容赦しなくなるからな。


 加えて、友美はデュエバに関しては熟練者。そう簡単に白旗を上げない。そう思われたのだが、

「えっと、直接攻撃」

 十数分後。和菜の繰り出したサーバントにより、友美の体力はきれいに削り取られた。


「おかしいよ! キムっち、インチキしてるんじゃないの!」

「だから、使ってないって言ってるでしょ!」

 憤慨する友美。ちょっと前までかましていた余裕はどこへ行ったのよ。ちなみに、敦美も勝負を仕掛けるも、あっけなく散っていった。


 友美や敦美といった猛者までもが太刀打ちできないのは流石に変だ。渋面を作っていたところ、

「おお、やってるね」

 芽衣がひょっこりと顔を出してきた。


「お姉様!」

 和菜、露骨に嬉しそうな声を出すのはどうなのよ。彼女の姿を認めるや、友美が真っ先に身を乗り出してきた。

「芽衣姉ちゃん、キムっちが異常に強いんだよ。なんかいい道具ない」

「ドラ〇もんじゃないんだから、そんな都合いい道具は持ってない」

 友美のノリにくいボケに的確にツッコミを入れられるなんて、もはや伝統芸能の域である。


「そうね。和菜ちゃん、デッキを見せてもらってもいいかしら」

「はい、よろこんで」

 敦美が「こっちのけんと」と謎の呟きをするよそに、和菜はノータイムでデッキを差し出す。手慣れた調子で、すべてのカードを一瞥していく。


 そして、もう一度最初からカードを眺めていき、あるカードを引き抜いた。

「もしかすると、原因はこれじゃないかしら」

 そう言って差し出したカードに衆目が集まる。


 コスト5の魔法カード「不思議の国の悪夢」。ジャバウォックとバンダースナッチという2種類のサーバントから1体を出せる、ワンダラーご用達の一枚じゃなかったかしら。

「そうそう、ジャバだよ、ジャバ。もう少しってところで、アリスにこいつを飛ばされて負けるんだよね」

「同意。場のカードを破壊するから、デコイを出しても通じない」

 私も、バトル中にこのカードを使われ、タイタロスをいとも簡単に突破されて敗北した。確かに強力なカードではあるが、これがどうかしたのだろうか。


「このカード、殿堂入りしてるって知ってる?」

「ああ、そうだよ、って、まさか」

 思い当たったことがあるのか、友美が大声をあげる。同調するように、敦美も険しい顔をしている。


「殿堂入り? どういうことよ」

「簡単に言えば、制限カードね。あまりに強すぎて、ゲームのバランスを崩すカードはデッキに入れられる枚数が制限されることがあるの」

「解説。デジタルだと、ナーフと言って弱体化されることもある。紙だと、それができないから、枚数制限でバランスをとる」

「えっと、将棋で飛車とか角が一枚しか無い、みたいなものかしら」

「そういう例えをする人は初めて見たわ」

 芽衣が率直に感心している。だって、将棋で王将以外全部飛車とか角なら、楽に勝てそうじゃない。


「補足。仮に飛車まみれの盤面で挑んだとしても、藤井聡太クラスなら楽にさばいてくる」

「真面目に解説されなくても、勝てるかどうかは使い手次第というのは分かってるわ」

 シミュレートしたけど、自由に動くことができすぎて、逆に自爆しそうな気がするわ。


「それはそれとして、不思議の国の悪夢は殿堂入りに指定されてるの。バンダースナッチでアリスをサーチして、ジャバウォックで決めるというムーブが再現性高すぎてね」

「同意。バンダーに何故かコスト6以上のカードをサーチする能力が付いている」

 アリスはクラス:ワンダラーのサーバントに速攻能力を付与する能力を持っている。そして、ジャバウォックの攻撃力は1000。もう、やりたいことは分かるだろう。


 同時に、和菜のデッキの強さの要因が分かった気がした。

「まさか、そのデッキには不思議の国の悪夢が2枚以上入っている」

 私が言い当てると、芽衣は「ザッツライト」と指を鳴らした。


「ああ、通りで、か。なんか、やけにジャバウォックとかを繰り出されるなと思ったもん」

「納得。毎回のようにアリスを出されたのも、そのため」

「デッキに複数枚含まれていたら、それだけプレイできる可能性も上げられる。本来一枚しか使えないカードを何枚も使われたら、強いのは当たり前だわ」

 快進撃の理由が分かり、ようやく腑に落ちた。


 だが、反面気落ちしていたのは和菜だった。

「不覚。まさか、インチキして勝っていたなんて」

 ギリリとジーンズの裾を握りしめている。歯ぎしりの音がこちらまで聞こえて来そうである。


「いや、まあ、仕方ないって。キムっちは始めたばかりだから、殿堂入りのルールとか知らなかったんでしょ」

 友美が慰めるが、彼女の表情は晴れなかった。そういうところは、根っからのスポーツ少女ね。

「殿堂入りはあくまで公式大会でのルールだし。仲間内なら、あえて殿堂入りのルールを無視して、好きなだけ好きなカードを入れる遊びもあるわよ。あくまで、練習試合なんだから、本番で気を付ければ大丈夫よ」

「お姉さまがそう言うなら」

 しぶしぶながらも顔を上げる。そして、デッキの中から余剰となっている「不思議の国の悪夢」のカードを抜き去るのだった。

カード紹介

不思議の国の悪夢

魔法カード コスト5

山札の一番上のカードを裏向きのまま場に出す。それは、場を離れるまで、次のいずれかのサーバントとして扱われる。


ジャバウォック

クラス:ワンダラー

攻撃力1000 体力200

突撃

このサーバントは自分の場にランク2以上のサーバントが居ないと攻撃できない。

このサーバントが攻撃する時、自分と相手の場のカードを1枚ずつ選び、それらを破壊する。


バンダースナッチ

クラス:ワンダラー

攻撃力200 体力1000

デコイ

ターン終了時、プレイヤーに200ダメージを与える。

破壊された時、山札を見る。その中からコスト6以上のサーバントを1枚選び、相手に見せてから手札に加えてもよい。

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