おそろのケース
誕生日での騒動から数日後。私たちは高野商店に集結していた。目的は言うまでもない。四人目のメンバーとなった和菜の歓迎会だ。
「感慨。目標達成まで残り一人」
「いやあ、ポニョホーホケキョ説あったけど、どうにかここまで来れたね」
「紆余曲折と言いたいわけ?」
あの金魚はどう考えてもウグイスではないわよ。
「ごめんなさい、遅れてしまって」
待ちくたびれて、友美と敦美がバトルを始めようとした頃、建付けの悪いドアがゆっくりと開かれた。
スポーツ少女然としたポニーテールを揺らす、スレンダーな少女。オフの日の彼女は幾度か目にしていたが、シャツにジーンズとかスポティッシュなウェアを好んでいたはずだ。
だが、レザーのミニスカートにデニムのカーディガンと、快活的とはいえ、随分と大人びた格好で現れた。前にも同じようなことあったけど、地方のカードショップよりも、都会のファッションショップに居る方が違和感ないわね。
「おー、キムっち。どしたん、そんなおしゃれして」
「べ、別に。その、お姉さまに会わせてくれるというから」
「そんな気張らなくていいのに。あたしなんか、学校のジャージでここに来たことあるよ」
「指摘。それはさすがにモノグサすぎ」
言い返せなかったのは、友美に急かされて、制服のままここを訪れたことがあるからだ。目当てのシングルカードが売り出されているとか、そんな理由だったはず。
「おー、いらっしゃい。君が和菜ちゃんか」
「は、はひ」
あ、噛んだ。
「別に、初対面じゃないんだから、緊張しなくていいよ」
苦笑しつつ、おいでおいでをする芽衣。動きがぎこちなさすぎて、昭和のロボットのおもちゃみたいになってるわよ。
「何か飲む? そうさな、カルピスソーダとか」
「え、ええ! いただきます」
「すごいね、芽衣姉ちゃん。キムっちの好きな飲み物言い当てるなんて」
「清涼飲料水ソムリエとは私の事さ」
得意げになる芽衣。と、いうか。
「友美はどうして、和菜の好きな飲み物知ってるの」
「そりゃ、幼馴染ですから。あたしより先に炭酸飲料飲めるようになったって、得意げにカルピスソーダ飲むもんだから、悔しくてコーラ飲めるようにしたんだぞ」
「驚嘆。そんな昔話が」
「そんなので感心しなくていいから!」
へえ、あなたたちにそんな過去が。いかん、いかん、曇った眼になりかけたわ。
カルピスソーダを半分ほど飲み干したのを見計らって、友美が声をかける。
「それで、ちゃんとデッキは持ってきたよね」
「もちろんよ」
そう言って、取り出したのはワンダラーのストラクチャーデッキ。ワンダートラベラー・アリスのイラストが描かれた既製品だ。
「うーん、和菜ちゃんさ。せっかく、デュエバを始めたんなら、デッキケースも用意した方がいいわよ」
「そういうものですか」
「そうそう。唯ちゃんも買ったよね、お揃の黒いやつ」
「ああ、これ」
言って、私は自前のケースを取り出す。友美と同じ、黒のプラスチック製の代物だ。
「提示。わたしも持っている」
負けじと、敦美も机の上にケースを置く。これまた黒だ。彼女は、いくつかケースを持っているが、チームだからと揃えてきたらしい。
さて、そうなると、居心地が悪くなるのが和菜である。恨めしそうに、私たちのデッキケースを睨んでいるのは、彼女の顔を確認せずとも明らかだ。
すると、そんな彼女の前にケースが差し出された。すぐ傍で、破顔した芽衣が付き添っている。
「本格的にデュエバを始める君に餞別よ。チームなら、ケースも揃えておかないとね」
「お姉様」
「ほい、700円。一応、おまけしといたわよ」
この流れで、商魂を発揮するのが芽衣らしいわね。おまけというか、100円ぐらいしか違わない気がする。ともあれ、そこらの事情は和菜には関係ないようで、二つ返事で芽衣に小銭を渡していた。
「ようし、ケースも用意できたことだし、さっそくバトルだよ、キムっち」
「制止。友美は既に和菜とバトルしたことがある。ここは、わたしに譲るべき」
「ええ! あの時のリベンジするためにデッキ組み直してきたのに」
「あの時って、まさか、あの不審者のこと言ってるんじゃないでしょうね」
「ギク! い、いや、誰の事かな? トゥモーミなんて、知らないぞ」
へったくそな口笛吹いてるけど、ごまかせてないわよ。
結局、戦ったことが無いという理由で、和菜は敦美とバトルすることになった。
「仕方ないな。よし、唯ちゃん、バトルだ」
「あら? 私とやるのは仕方ないのかしら」
「そ、そんなこと無いぞ!」
嘘嘘。ちょっと、イジワルしただけだって。むくれつつも、友美はデッキを置く。私も負けじと手札にカードを加える。
より一層賑やかさを増した、私たちのチーム。それが完成系に結実する日は近い。
ご愛読ありがとうございます。
次回から新章に突入。残りのメンバー探しの前にまさかの障害が立ちふさがります。




