最大の協力者
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正直、眉唾ものの作戦だったわ。いや、発案者は私ではあるけど。でも、アレは断じて私ではない。友美の悪ノリだ。
概要としてはどうということない。悪者に扮した友美と敦美がそれぞれ和菜、三平と接触。双葉が誘拐されたという名目で、二人を同じ場所まで誘導するのだ。
物理的に同じ場所に居合わせ、しかも同じような話題を提供すれば、自然と話し合うほかない。両者を仲直りさせるにはうってつけの作戦ではあった。
誤算があったとしたら、友美が妙に乗り気で、「それなら、アークバトラーに変装しようと」と提案してきたことだ。まあ、友美がそのまま「双葉を誘拐した」と言っても冗談にしか聞こえない。だから、それっぽい変装をすることは確定事項ではあった。
だからって、特撮ヒーローのお面に、水泳のバスタオルという幼稚園児並のコスプレをしてくるなんて、思いもしなかったわよ。ボリューム満点激安ジャングルなお店で、いくらでもそれっぽい衣装は買えるじゃない。
「やるなら、徹底的にやらないと。既製品に頼るのは三流だよ」
「合意。コスプレは自分で作ってこそ、意義がある」
だよねーと意気投合してるけど、そうして出来上がったのがアレだったのだ。敦美はともかく、友美はキラーインプがば〇きんまんになるレベルだったわね。
バカ二人はさておき、私は私でやることがある。予め、双葉に協力を申し出たのもそのためだ。
作戦決行の数日前。双葉を通して、私はある人物と電話でコンタクトをとっていた。本来なら、直接対面したかったのだが、時間的余裕が無かったのである。
伝える内容は単純明快、今回の作戦の全容を包み隠さずすべてだ。和菜の友達という名目があるとはいえ、こんな作戦に同調してくれるかは賭けであった。それに、相手は仕事で忙殺されているという。普通なら、よく分からない小娘の戯言など相手にしないだろう。
でも、和菜と三平が喧嘩をしてしまったことや、和解のためのサプライズをしたいと提案した際、事の他真剣に話を聞いてくれたのだ。正直、この手の人種に不信感を抱いていたので、ここまで順調に事が運んだことが意外ではあった。
そして、とんとん拍子に、作戦決行当日に合流してくれることに同意してもらえたのだ。
さて、話は和菜と三平が偶然鉢合わせした、公園の一幕へと移る。二人とも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。それでも、和菜は次第に平生を取り戻したようで、キリリと眉を上げて詰め寄ってくる。
「これは一体、どういうことなのか、きちんと説明してもらうからね」
「ごめんって、キムっち。どうしても、弟君と仲直りしてほしくてさ。それに、会わせたい人もいるし」
そうして、小屋の影に隠れていた人物が姿を現す。それを認めた途端、和菜はあっと声を上げるのだった。
「お父さん!?」
眼鏡をかけた、長身の妙齢の男性。ラフな格好をしているからか、スポーツクラブのコーチのような雰囲気を醸し出している。
そう、双葉に頼んで呼び出してもらった、今回の作戦の特別ゲスト。和菜たちの実の父親である、木村司氏だ。
その風格も相まって、歩いているだけで迫力がある。敦美なんかは、友美を盾にして隠れている。
「どうして、ここに」
「和菜の友人に頼まれたんだ。三平と険悪になっているから、仲裁してほしいと」
「それは、その」
和菜の歯切れが悪い。雷の一つでも落とされるのだろうか。彼女の狼狽ぶりからして、その予想はあながち間違っていないように思える。
だが、次の瞬間。司は予想だにしない行動に出た。
「すまなかった!」
大声で謝罪すると、直角に腰を曲げたのだ。営業の教科書に出て来そうな最敬礼を、見事なまでに再現してみせたのである。
「あ、えっと、その」
和菜は目に見えて狼狽えている。姉がそんな調子だから、三平もまた、ろくに反応できずにいた。
「顔を上げてよ、父さん。喧嘩してたのは事実だけど、私たちが原因なわけだし」
「そうだぞ。父ちゃんは悪くないんだぞ」
「いや、俺の責任だ。確かに、ここ数日よそよそしいとは思ってはいたが、まさか、そんなことになっているなんて。友達が気づいていたのに、家長である俺が気づかんとは不覚」
「それは、父さんはいつも仕事で忙しいわけだし」
和菜が弁明を試みるが、私はどうしても引っ掛かることがあった。
「ちょっと待って。いくら仕事で忙しいとはいえ、兄弟喧嘩に気づかないなんて」
「君がそう思うのも無理はないかもしれない。なにせ、あの日からずっと、仕事が第一の生活をしてきたからな」
懐古するように、司は天を仰ぐ。あの日という単語に、和菜も顔を強張らせる。如何なる日かは追求するだけ野暮だろう。和菜の家族の様相が一変した、あの出来事の日に違いない。
「美央、俺の家内が旅立ったあの日から、俺はひたすらに仕事に打ち込んできた。和菜たちがひもじい思いをせずに暮らせるようにすること。それが、家族にとって俺ができることだと信じていたからな。
だが、それは間違いだったのかもしれない。本当は、美央がいない家庭を直視できなかったんだ。仕事をしている間は、寂寥感を紛らわせられる。俺はそれに甘えていたのかもしれない」
滔々と語る父親の姿を、和菜はただじっと見つめていた。司は顎を引くと、真正面から子供たちに向き直る。
「本来なら、今回のことは俺が解決するべきだった。お前たちのみならず、友人たちの手を煩わせてしまうとは」
「父さんは悪くないわ! 仕事を頑張ってくれているのは、私たちのためなんでしょ。お陰でお金の心配をすることなく暮らせている。だから、家のことは私に。いや、それじゃダメだったわね」
最後の言葉を言いかけて、和菜は頭を振る。そして、深呼吸すると、はっきりと言い直した。
「家のことは私たちに任せてよ。私、あの時から母さんの代わりにならなくちゃって、一人で突っ走りすぎてたかもしれない。でも、友美たちに助けられて分かったわ。本当に大変な時は頼ってもいいって」
「そうだぞ!」
そこで口を挟んだのは三平だった。前かがみになり、腕を大きく広げている。
「俺にとって姉ちゃんは姉ちゃんだけだぞ。俺も家の手伝いするから、姉ちゃんはもっと俺らを頼ってくれていいんだぞ」
「私も同意。和菜姉さんは、いつも一人で抱え込み過ぎ。私たちだって、自分の事は自分でやれる。だから、家のことは心配しすぎないでいい」
「双葉、三平」
感極まったようにつぶやく和菜。すると、司は彼女の肩に手を置いた。
「すまなかったな、和菜。お前が母さんの代わりを務めようとしていることは知っていた。それがお前の意思であるなら、尊重してやろうと思っていた。でも、それがお前にとって予想以上に負担になっていたのかもしれないな。
これからは、俺も家の手伝いをするし、何なら、お手伝いさんを雇ってもいい。お前たち四人がいるとはいえ、そのぐらいの蓄えはある。伊達に、がむしゃらに働いてきたわけじゃないからな」
「父さん」
腕まくりする司に、和菜は苦笑する。そんな姿に、私は憧憬を抱くのであった。
カード紹介
北風と太陽
魔法カード コスト6
山札から1枚目を裏向きのまま場に出す。それは場を離れるまで、クラス:ワンダラーのサーバントカード、北風の使者ウィザーネあるいは太陽の使者サンのいずれかとして扱う
北風の使者ウィザーネ
コスト6 攻撃力400 体力300
このカードが場に出た時、体力200以下の相手サーバントすべてを破壊し、相手プレイヤーに200ダメージを与える。
太陽の使者サン
コスト6 攻撃力300 体力400
このカードが場に出た時、相手サーバント1体を破壊し、プレイヤーの体力を200回復する。