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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
117/122

全員集合

「達観。残り二枚の手札でどうするかね」

「こうするんだ! 魔法カード、エマージェンシーリバース発動」

「驚嘆! そのカードは」

「知ってるみたいだな。墓地からエマージェンシーカードを復活させることができるんだぞ。俺は、死霊の戯れを復活させる。そして、そのまま、それを発動」

 山札から墓地にカードが3枚送られる。その内の一枚はバニラのサーバント。そして。


「来た! 俺は魔法カード使命決闘を手札に加える。そいつを発動!」

 アテムは露骨に舌打ちをした。使命決闘は場に出た時の能力を無視して、手札から好きなサーバントを出せるカード。


「俺が選ぶのは、アトランティック・リヴァイアサン」

「妥当。こちらの作戦を封じてきたか。それに」

 俺の手札を見て察したようだぜ。しぶしぶながら、ある一枚を指差す。

「選択。暴竜ドラグンを指定する」

 俺の場に、攻撃力1200のドラゴンが顕現する。すさまじいスタッツだけど、能力を持たないカードだ。そう、普通なら、ここで終わり。


 けれども、俺の場にはあのカードがある。

「バニラ城の効果発動。墓地にバニラのサーバントが10体あるから、ドラグンは速攻を持つ」

「裁定。速攻能力を付与するはバニラ城によって発生する能力。使命決闘の効果は及ばない」

 難しいことは分かんないけど、これで、ドラグンは速攻攻撃可能だぜ。

「いっけー! ドラグンとインプで相手プレイヤーを攻撃!」

 一瞬、アテムは手札のカードに手を伸ばしかけた。でも、諦観したように腕を垂れ下げる。ドラグンたちの合計攻撃力は1400。一気に相手の体力は0となる。


「見事。まさか、あんなコンボを編み出すとは思わなかった」

「へへん、どんなもんだい。使命決闘も姉ちゃんと一緒にカード買いに行った時に当てたやつなんだぜ」

「確認。君は、本当は姉ちゃんのことが好きなんだろ」

 アテムがにやにやした口調で言ってくる。そんなもんだから、俺は言い淀んでしまう。


「べ、別に、好きじゃねえし」

「肯定。恥じらうことはない。わたしから見ても、よくできた姉だと思う。それに、弟が姉が好きなのはよくあること。胸を張っていい」

「か、からかうんじゃねえ!」

 俺は拳を振り上げるけど、ひょいと避けられる。この仮面の姉ちゃん、意外と身軽だぞ。


「提案。その肝心の姉ちゃんの居場所は聞かなくていいのか?」

「おお、そうだぞ。どこにいるんだ」

 俺が迫ると、アテムは一枚の紙を渡して来る。どうやら、この町の地図みたいだ。バッテンのところにいるのか。ここなら、行ったことがあるから分かるぞ。


「退散。わたしのやるべきことは終わった。アテムはクールに去る」

「ええー、もう帰っちゃうの、敦美姉ちゃん」

 かっこよく立ち去ろうとしていたアテムだけど、カッコ悪くずっこける。


「訂正。わたしは敦美ではない」

「最初からバレバレだって。そのしゃべり方、敦美姉ちゃんじゃん」

「否定。断じて、敦美ではない」

 どう考えても敦美姉ちゃんだけどな。こういうのは、気づいても言わないのがお約束だっけ。面倒くさいな。


 ともかく、姉ちゃんたちの居場所が分かったんだ。善詩乃も双葉姉ちゃんと一緒にそこにいるに違いない。俺が浮足立っている間に、アテムはそそくさと帰っていった。チリンチリンとベルの音がしたから、多分近くに自転車を停めていたのだろう。俺も遅れじと自転車をこぐ。



 トゥモーミ、もとい友美に指定されたのは市内の大きな公園だった。市民スポーツ大会が開催されるほどのグラウンドや、バーベキュー場なんかも併設されている。幽閉するなら、廃工場とかを選ぶんじゃないかと思っていたので、完全に面食らった。

「こんなところに双葉はいるのかしら」

 独り言ちながらも敷地内を歩き回る。公園と一口で言っても、具体的な場所までは指定されていないのだ。途方に暮れていると、大木の枝に手紙のようなものが挟まっているのを見つけた。


 広げてみると、妙に達筆で「探し人はバーベキュー場にあり」と書かれていた。あまりにピンポイントすぎて、怪しさを禁じ得ない。

 しかも、同じような手紙が遊具とか、ベンチの上とか所々に放置されていたのだ。ここまで露骨に誘導されて無視するほど、私は性悪ではない。


「友美のいたずらにしては手が込み過ぎているわね」

 それだけが妙ではあるが、とにかくバーベキュー場に向かうしかない。早足で目的地へと向かう。そこで出会ったのは、

「姉ちゃん」

「三平!?」

 家で留守番していたはずの弟だったのだ。


 どうして、三平がこんなところに。まさか、彼も誘拐されていたというの?

「姉ちゃんも双葉姉ちゃんを探しに来たのか?」

「そうよ。って、三平も!? 本当にどういうことよ」

 混乱していると、更に人影が現れる。


 そのうちの一人はすぐに特定できた。諸悪の根源に違いない、アホ毛のチビ。

「友美、あんたね」

 文句の一つでもぶつけてやろうとしたが、次々に現れる来訪者に口を噤む羽目になった。


 顔なじみのない三つ編みの少女。その隣にいたのは、

「小鳥遊さん!?」

 絶句した最大の要因が彼女だ。まさか、こんなふざけた茶番に一枚嚙んでいたというのか。そして、更に隣にいたのは。

「双葉!!」


 とりあえず、目当ての人物の無事が確認できただけでも、一安心だ。居心地悪そうに、もじもじと手を組んでいる。

「バカな真似に巻き込んですまなかったわね。木村さん、あなたには、どうしても会ってもらいたい人がいるの。だから、一芝居打たせてもらったわ」

「ごめんなさい、姉さん。私もこの作戦に協力していたの」

「こんな誘拐事件紛いのことをして。一体、誰に会わせようというのよ」

 語気を荒らげながら、私は迫る。すると、小屋の影から一人の人物が姿を現す。その人物を前に、私は完全に絶句するのであった。

カード紹介

山崩し

魔法カード コスト1

相手または自分の山札の上から2枚を墓地に送る。

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