全員集合
「達観。残り二枚の手札でどうするかね」
「こうするんだ! 魔法カード、エマージェンシーリバース発動」
「驚嘆! そのカードは」
「知ってるみたいだな。墓地からエマージェンシーカードを復活させることができるんだぞ。俺は、死霊の戯れを復活させる。そして、そのまま、それを発動」
山札から墓地にカードが3枚送られる。その内の一枚はバニラのサーバント。そして。
「来た! 俺は魔法カード使命決闘を手札に加える。そいつを発動!」
アテムは露骨に舌打ちをした。使命決闘は場に出た時の能力を無視して、手札から好きなサーバントを出せるカード。
「俺が選ぶのは、アトランティック・リヴァイアサン」
「妥当。こちらの作戦を封じてきたか。それに」
俺の手札を見て察したようだぜ。しぶしぶながら、ある一枚を指差す。
「選択。暴竜ドラグンを指定する」
俺の場に、攻撃力1200のドラゴンが顕現する。すさまじいスタッツだけど、能力を持たないカードだ。そう、普通なら、ここで終わり。
けれども、俺の場にはあのカードがある。
「バニラ城の効果発動。墓地にバニラのサーバントが10体あるから、ドラグンは速攻を持つ」
「裁定。速攻能力を付与するはバニラ城によって発生する能力。使命決闘の効果は及ばない」
難しいことは分かんないけど、これで、ドラグンは速攻攻撃可能だぜ。
「いっけー! ドラグンとインプで相手プレイヤーを攻撃!」
一瞬、アテムは手札のカードに手を伸ばしかけた。でも、諦観したように腕を垂れ下げる。ドラグンたちの合計攻撃力は1400。一気に相手の体力は0となる。
「見事。まさか、あんなコンボを編み出すとは思わなかった」
「へへん、どんなもんだい。使命決闘も姉ちゃんと一緒にカード買いに行った時に当てたやつなんだぜ」
「確認。君は、本当は姉ちゃんのことが好きなんだろ」
アテムがにやにやした口調で言ってくる。そんなもんだから、俺は言い淀んでしまう。
「べ、別に、好きじゃねえし」
「肯定。恥じらうことはない。わたしから見ても、よくできた姉だと思う。それに、弟が姉が好きなのはよくあること。胸を張っていい」
「か、からかうんじゃねえ!」
俺は拳を振り上げるけど、ひょいと避けられる。この仮面の姉ちゃん、意外と身軽だぞ。
「提案。その肝心の姉ちゃんの居場所は聞かなくていいのか?」
「おお、そうだぞ。どこにいるんだ」
俺が迫ると、アテムは一枚の紙を渡して来る。どうやら、この町の地図みたいだ。バッテンのところにいるのか。ここなら、行ったことがあるから分かるぞ。
「退散。わたしのやるべきことは終わった。アテムはクールに去る」
「ええー、もう帰っちゃうの、敦美姉ちゃん」
かっこよく立ち去ろうとしていたアテムだけど、カッコ悪くずっこける。
「訂正。わたしは敦美ではない」
「最初からバレバレだって。そのしゃべり方、敦美姉ちゃんじゃん」
「否定。断じて、敦美ではない」
どう考えても敦美姉ちゃんだけどな。こういうのは、気づいても言わないのがお約束だっけ。面倒くさいな。
ともかく、姉ちゃんたちの居場所が分かったんだ。善詩乃も双葉姉ちゃんと一緒にそこにいるに違いない。俺が浮足立っている間に、アテムはそそくさと帰っていった。チリンチリンとベルの音がしたから、多分近くに自転車を停めていたのだろう。俺も遅れじと自転車をこぐ。
♢
トゥモーミ、もとい友美に指定されたのは市内の大きな公園だった。市民スポーツ大会が開催されるほどのグラウンドや、バーベキュー場なんかも併設されている。幽閉するなら、廃工場とかを選ぶんじゃないかと思っていたので、完全に面食らった。
「こんなところに双葉はいるのかしら」
独り言ちながらも敷地内を歩き回る。公園と一口で言っても、具体的な場所までは指定されていないのだ。途方に暮れていると、大木の枝に手紙のようなものが挟まっているのを見つけた。
広げてみると、妙に達筆で「探し人はバーベキュー場にあり」と書かれていた。あまりにピンポイントすぎて、怪しさを禁じ得ない。
しかも、同じような手紙が遊具とか、ベンチの上とか所々に放置されていたのだ。ここまで露骨に誘導されて無視するほど、私は性悪ではない。
「友美のいたずらにしては手が込み過ぎているわね」
それだけが妙ではあるが、とにかくバーベキュー場に向かうしかない。早足で目的地へと向かう。そこで出会ったのは、
「姉ちゃん」
「三平!?」
家で留守番していたはずの弟だったのだ。
どうして、三平がこんなところに。まさか、彼も誘拐されていたというの?
「姉ちゃんも双葉姉ちゃんを探しに来たのか?」
「そうよ。って、三平も!? 本当にどういうことよ」
混乱していると、更に人影が現れる。
そのうちの一人はすぐに特定できた。諸悪の根源に違いない、アホ毛のチビ。
「友美、あんたね」
文句の一つでもぶつけてやろうとしたが、次々に現れる来訪者に口を噤む羽目になった。
顔なじみのない三つ編みの少女。その隣にいたのは、
「小鳥遊さん!?」
絶句した最大の要因が彼女だ。まさか、こんなふざけた茶番に一枚嚙んでいたというのか。そして、更に隣にいたのは。
「双葉!!」
とりあえず、目当ての人物の無事が確認できただけでも、一安心だ。居心地悪そうに、もじもじと手を組んでいる。
「バカな真似に巻き込んですまなかったわね。木村さん、あなたには、どうしても会ってもらいたい人がいるの。だから、一芝居打たせてもらったわ」
「ごめんなさい、姉さん。私もこの作戦に協力していたの」
「こんな誘拐事件紛いのことをして。一体、誰に会わせようというのよ」
語気を荒らげながら、私は迫る。すると、小屋の影から一人の人物が姿を現す。その人物を前に、私は完全に絶句するのであった。
カード紹介
山崩し
魔法カード コスト1
相手または自分の山札の上から2枚を墓地に送る。