三平VSアテナ 姉ちゃんはいつだって助けてくれる
「いやあ、予想以上だよ。まさか、ここまでそのデッキを使いこなすなんて。もしかしなくとも、才能あるんじゃない」
「誉め言葉は素直に受け取っておくわ、友美」
トゥモーミはびくりと体を震わせる。わざとらしいっての。
「友美? 誰の事かな? 我が名はトゥモーミ」
「友美でしょ」
「いや、違うって。アークバトラーの。あ、こら、何をする」
喚く彼女にお構いなしに、私は仮面をはぎとる。その下から見知った顔が出てきた。
「おいこら、仮面の戦士の仮面を無理やりはぎとるなんて、ご法度だぞ」
「知らないわよ、そんなお約束。ねえ、友美、そんな不審者みたいな恰好して、双葉を攫ったなんて、冗談きついわよ」
「フフフ。アークバトラーにそんな口を利いて、アイテテテ! こら、キムっち、みさえじゃないんだから、それはやめろ!」
あくまでもふざけ通すつもりらしいから、グリグリ攻撃を仕掛けておいた。
思う存分お仕置きを喰らわせると、友美は息絶え絶えになっていた。恨みがましく睨んできたけど、先にふざけたことを仕掛けたあなたが悪い。
「で、そろそろ聞かせてもらいましょうか。双葉はどこにいるの?」
「ふん、教えると思った、あ、やめて、本当に」
なおもふざけるつもりだったので、追撃しておいた。本当に懲りないわね。
「分かった、分かった、教えるから。双葉ちゃんがいるのはね」
そうして白状したのは意外な場所だった。ともあれ、本当にそこにいるのなら、居てもたってもいられない。私は自転車にまたがると、脇目も振らずペダルを踏み込むのだった。
♢
バニラ城を繰り出し、順調に条件を満たそうとしている。けれども、相手も反撃の準備は万端のようだった。
「召喚。海洋神トリティオン。わたしの手札は10枚。よって、攻撃力と体力は共に1000。加えて、突撃とデコイを持つ。チョモランマ・ゴリラを攻撃」
俺の場で最大スタッツを持つゴリラがやられてしまった。おまけに、アルティメシア並みの能力値を持つサーバントを相手にしないといけないなんて。
「宣告。トリティオンを止める術がないのなら、次のターンで決める」
アテムは堂々と人差し指を伸ばした。トリティオン単体で攻撃されても、かろうじて体力は200残る。それでも、そんなことを言うということは、速攻能力を持つサーバントを隠し持っているのだろう。
くそう、こんな時、どうしたら。頭を抱えるが、今の手札では打開策を見いだせない。
「嘲笑。大したことは無いな。ここで諦めるのなら、それまでということ。お前も、お前の姉も」
俺はピクリと耳を動かした。
「姉ちゃんが、大したことないだって」
「合意。そうだろう。簡単に諦めきれるなら、そこまでの存在だということ。口やかましいだけの姉は、むしろ要らないんじゃないのか」
「姉ちゃんをバカにするな!」
俺は自然と大声を出していた。アテムは自然と後ずさっていた。
「姉ちゃんはすごいんだぞ! 勉強とか部活とかで疲れている時だって、きちんと家のことをやってくれる。おまけに、困ったときには、文句言いながらも最後は手伝ってくれる。だから、お前なんかが悪く言える資格はないんだ」
まくしたてると同時に、俺は山札からカードを引く。そうだ、和菜姉ちゃんはいつだって助けてくれた。今、この状況をどうにかしてくれる、このカードみたいに。
「邪な書道家 悪道鉄扇を召喚!」
「意外。アンデットのサーバント」
巨大な筆を持った、悪人面したおじさんのサーバントだ。ずっと前に姉ちゃんとカードを買いに行って引き当てたものの、ずっと使いどころに悩んでいたカードでもある。
「苦笑。今更、攻撃力300のサーバントを出したところで、トリティオンを倒せない」
「甘いぞ! 鉄扇の能力! 能力を持たないサーバントにキラー能力を与える」
「驚愕! バニラ城でバニラのサーバントは突撃とデコイを持つようになっている」
「その通り。3PPでムキムキクラゲを召喚! トリティオンを攻撃だ」
クラス:オーシャンのバニラのサーバント。普通なら一方的にやられるだけだけど、トリティオンを道連れにすることができる。
これで、相手の切り札を倒した。と、安心するのはまだ早かった。
「召喚。キルジェット・シャーク。手札が8枚以上だから速攻能力を持つ」
おそらく、トリティオンと一緒に使おうとしていたサーバントだ。もし、トリティオンを倒せていなかったら、こいつとの連続攻撃で負けていた。なにせ、攻撃を受けて、残り体力は800だからだ。
そのうえ、アテムの追撃の手が緩むことは無い。
「発動。魔法カードショック。体力300以下、邪悪なる書道家 悪道鉄扇を破壊」
これで、俺の場のサーバントは攻撃力200のインプだけ。相手の残り体力は1400だ。
そんな状況を把握してか、アテムは自分の手札の1枚を指ではじく。
「予告。わたしの手札にはリヴァイアサンが眠っている。更に、エマージェンシーのその場しのぎの知恵も健在。この意味が分かるか?」
「次のターンで決めるってことだろ」
アトランティック・リヴァイアサンは手札の数だけ直接ダメージを与えられるカードのはず。今の相手の手札は8枚だけど、その場しのぎの知恵を使えば10枚、1000ダメージを叩き出せる。俺に直接ダメージを放ってきたら、それで終わりだ。
くそう、せっかく反撃のチャンスだったのに。どうにか、どうにか切り抜ける手は無いのか。俺は場のカードを見渡す。
そこで、ふと、姉ちゃんが言っていたことを思い出した。
それは、俺が教科書を無くして大慌てしていた時のことだ。昨日も宿題を忘れていったから、またやっていかなかったら、雷を落とされるどころじゃ済まない。でも、宿題をやるには教科書が必要だ。
あたふたしていると、姉ちゃんはため息をつきながら、放りっぱなしになっていた鞄の中身を整理し始めたのだ。
「やりっぱなしだと、見つかるものも見つからないわよ。きちんと、整理しておかなきゃ」
その時はうっさいなって思ったけど、結局、整理していくうちに自然と教科書を見つけることができた。「ほら、あったじゃん」と頭をなでてくれたことが、妙に心地よかった。
なんて、思い出に浸っている場合じゃないけど、しっかり観察すれば、どうにか道が見つかるはず。俺の墓地にあるバニラのカードは九枚。バニラ城の真の力を使うには、後一枚足りない。せめて、墓地にあるこれをもう一度使えれば。
そこで、俺は手札を見直す。本当なら、8PP使って、お気に入りのこいつをすぐに大暴れさせたい。でも、それだと相手プレイヤーにダメージを与えることができない。けれども、あのカードを引き込むことができれば。
カード紹介
雲中白廓!バニラ城
ビルドカード(特定カードでないと破壊できない。場にある限り効果を発揮し続ける)
コスト2
自分の場に能力を持たないバニラサーバントが出るたび、以下の能力を付与する。
墓地にあるバニラサーバントが3枚以上なら突撃、5枚以上ならデコイ、10枚以上なら速攻