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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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和菜VSトゥモーミ 心の叫び

 幸いにして、私が通って来たのは知る人ぞ知る裏道。その通りにある公園だけあり、休日だというのに人っ子一人いない。学校や幼稚園が終わった後にちびっこが遊んでいるぐらいではないか。

 ともあれ、明らかな不審者とカードゲームをするという、通報間違いなしの案件を第三者に目撃される心配は限りなく低そうだ。


 意気揚々とデッキをベンチの上に置くトゥモーミ。本来、座るべき場所でバトルしているのは、机の類が見当たらなかったからだ。そのぐらい、確保しておきなさいよと思う。こういう無計画さは、間違いなくあの子だわ。


 まあ、そんなことを愚痴っても仕方ない。鞄に入れっぱなしになっていたデッキを取り出す。これを使うのは、あのバイトの時以来。通算二回目のバトルだ。私がずぶの素人なのを分かってやってるんじゃないでしょうね。こういう時にお面が表情を隠しているのがイラつくわ。


「せめてもの情けだ。先手は譲ってやろう」

「そう言われても、出せるカードが無いのだけれど」

「う、うむ、そうか。なら、コボルトを召喚」

 トゥモーミが出してきたのは二足歩行の犬の化け物。攻撃力と体力は共に100。ならば、このカードが良さそうね。


「一寸の勇姿スクナヒコを召喚」

「おお! プラスパワーが強い奴だけど、ここで切ってくるか」

 なんかマズイの? 攻撃力と体力が共に200だから、コボルトより強いはずだけど。


「ようし、わた、我のターン。チアラビットを召喚。コボルトの攻撃力と体力を100上昇させる。そして、スクナヒコと相討ち」

 一方的に倒せると思ったのに、強化して反撃してくるなんて。カードゲームは素人だけど、なんとなく察せられる。相手は本気だ。


 おっかなびっくりカードを出していく私に対し、トゥモーミはよどみない手つきでカードを繰り出していく。

「ビーストレンジャーズ召喚。クルミブレイクドールを破壊。更に、アタック・ブルで怠惰なるキリギリスを攻撃。能力で相手に200ダメージ」

 あれよと言う間に私の場のサーバントは全滅。そして、相手の場のサーバントは6体。一斉攻撃を許せば、私の体力は一気に致命傷レベルに陥ってしまう。


「く、卑怯よ。そんなに大量のカードを出して来るなんて」

 つい、私は負け惜しみを言ってしまう。すると、トゥモーミは「ククク」と笑い声をあげた。

「卑怯? これもまた立派な戦術。仲間の力を合わせて戦う。それがビーストの戦い方なのだ」

 確かに、別にインチキはしていない。だけど、なんだか納得できない自分がいる。


「みんなで力を合わせる。その凄さを認めてもいいのではないかな」

「突然、何よ」

「一人で色々と抱え込み過ぎなんだよ、キムっちは」

 聞き覚えのあるあだ名を呼ばれたことはどうでもよくなった。その指摘に私は息を呑む羽目になったからだ。


「抱え込み過ぎって。あなたに何が分かるのよ」

「分かっているよ。キムっちが姉妹のために頑張っていることも。みんなのお母さんになろうとしていることも」

 一体、どこまで知って。仮面の奥底から射貫かれるような視線に、私はたたらを踏む。


「だからだよね。頑張って家の手伝いをしているのは」

「そうよ。私があの子たちを支えてあげなくちゃいけない。そうじゃなきゃ、あの子たちは」

 お母さんが死んじゃったあの日から、私たち家族は失意の底に沈んだ。双葉や三平は目に見えて元気がなく、時折思い出したように泣き出したりする。そして、お父さんは狂ったように仕事に精を出すようになった。


 みんなの気持ちは分かっているつもりだ。お母さんを失って悲しいのはもちろん。お父さんだって、同じ気持ちなのに、どうにか稼ぎ口を確保しようとしてくれている。

 ならば、家事を担って、みんなを支えるべきは誰なのか。そんなの、考えるまでもないじゃない。


「好きなことを我慢してるのも、家族のため。そうでしょ」

「別に悪いことじゃないでしょ。そうでもしなきゃ、家族がバラバラになっちゃう」

「だから、やりたいことをやれない」

「うるさいわね!」

 私は声を荒げた。肩で息をしながらまくしたてる。


「そうよ! 私だって、自由に遊びたいわよ! 友美、あんたに私の気持ちが分かるっての? クラスのみんなが遊び惚けているのに、私はきつい家事をこなして、弟や妹の面倒を見なくちゃいけない。正直、投げ出したいと思ったことなんて、数えきれないくらいあったわよ!

 でも、私以外の誰があの家を支えるというの! 私しか、私しかいないじゃない!」


 酸欠になるぐらいの絶叫だった。前かがみになって、胸を押さえる、

「それが、キムっちの本音なんだね」

 そう言うと、トゥモーミはすっと一枚のカードを場に出す。これまでに出てきたカードとは明らかに意匠が違う。俗にいうレアカードか。


「だからこそ、教えてあげたいよ。みんなで力を合わせることは素敵だって。仲間の絆を一身に受け、吼えよ、昂れ、獣の王者! 誉れの王者ジューオ、召喚!」

 咆哮をあげる百獣の王者。それは彼女の心の叫びに他ならなかった。

カード紹介

一寸の勇姿スクナヒコ

クラス:ワンダラー ランク1 コスト2

攻撃力200 体力200

プラスパワー5:攻撃力と体力を+300して突撃を得る。

プラスパワー7:必殺と、自分のターン中、戦闘によって破壊されないを得る。

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