乗ってあげるわ
最近忙しく、更新が遅くなってすいません。
「三平は預かったってどういうことよ。冗談半分でやってるなら承知しないわよ」
私は指を鳴らす。けれども、トゥモーミは怯む気配はない。それどころか、堂々と仁王立ちしている。
「言葉通りの意味だ。三平は我が組織にとって有益な人材だからな。丁重にもてなしているよ」
「あんたね。やっていいこと悪いことがあるわよ」
じりじりと詰め寄る。強制的にお面をはぎとって茶番を終わらせようか。
「ほう、彼のことが心配か。喧嘩していたはずなのに」
トゥモーミの言葉に、私は足を止める。なんで、そのことを。
「私の組織にかかれば、そのぐらい調べるのは朝飯前なのだよ。ガミガミ言うお姉ちゃんじゃなくて、優しいお姉ちゃんが欲しい。そう言われたんじゃないのか」
「ッ。なんで、そのことを」
怯んだのをいいことに、トゥモーミは畳みかける。
「そんなことを言う弟なら、別にどうなろうと構わないよね。むしろ、いない方がせいせいするんじゃない? 口うるさいことを言う弟に悩まされなくて済むんだよ。君にとって、良いことだと思うがね」
「ふざけるな!」
私は声を張り上げていた。トゥモーミがビクリと体を震わせる。構わず、大仰に地面を踏み鳴らした。
「確かに、三平は我がままばかり。こっちがいっつも苦労しているのも知らずに、あれが欲しいだの、あれが嫌だの。正直、黙れと思ったことは何度もあったわよ。
でも、消えてほしいと思ったことは一度もない。と、いうか、これ以上家族が消えるなんてたくさんよ! 生意気だけど、三平は私にとって大切な弟なの!
その三平を奪おうというなら、誰であろうと容赦しないわよ」
大声で宣戦布告する。閑静な住宅街に、さぞ響き渡っただろう。構うものか。もはや、弁明なんて聞いてやるものか。多分、相手の眼には、すぐにも飛び掛からんとする猛獣のように映っていたに違いない。
すると、トゥモーミは手のひらを広げた。「待て」と言いたいのか。それもあるだろう。でも、違和感があった。その手にはある「物」が握られていたからだ。
紙のカードの束。そして、その意匠には見覚えがある。私が鞄の中に忍ばせているものとそっくりではないか。
「揉め事はデュエバで解決するのがアークバトラー、いや、デュエバリストの流儀。そう教わらなかったか」
「知らないし」
一気に怒気が抜けた。が、トゥモーミは構わず続ける。
「三平の居場所を知りたくば、私とデュエバで勝負しろ」
あまりに素っ頓狂な提案に、私は半口を開けていた。お面を被った不審人物に絡まれている時点で非日常なのだが、そのうえカードゲームの勝負を挑まれるなんて。無意識のうちに頬をつねるが痛かった。
「どうした、デュエバで勝負しろ!」
「いや、聞こえているわよ。なんで、カードゲームで勝負しなくちゃならないのよ。ふざけたこと言ってないで、さっさと教えなさい」
「ほう、私に負けるのが怖いのかね」
フフフと、どこかで聞いたことのある笑い声をあける。それが、余計にさざ波を荒立てた。
「誰が負けるのが怖いですって」
「そうだろう。私に勝つ自信が無いから、戦わずに済む方法を探っているのだろう。だが、無駄だぞ。デュエバをするしか、三平の居場所を知る方法は無いのだ」
「本当に実力行使してもいいのよ」
「逃げようとしてもダメだ。知っているぞ。お前はデュエバのデッキを持っていると」
本気で一発入れようか。そう思っていたが、予想外の指摘に私は鞄を二度見する。
「どうして知っているのよ」
「アークバトラーはすべてお見通しなのだ」
答えになってないし。取り得る選択肢は三つだ。無理やり実力行使で三平の居場所を吐かせる。警察に通報する。そして、素直に奴の言葉に従う。
常識的に考えれば、前者二つの択一だろう。最後の一つは正直、無い。だが、相手が常識の埒外のことをやらかしているのだ。それも、あの子が、である。
ならば、この場合の正解はおのずと絞られた。
「分かったわ。相手してあげる」
「本当!?」
いや、素が出てるわよ。咳払いして、物々しく「では、始めよう」とか言っても無駄だからね。