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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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不審者が現れた


 今日は朝から憂鬱だった。さもありなん。三平の誕生日だというのに、当人と険悪なままだからだ。しかも、今日は日曜日。一日中、こんなモヤモヤを抱えたまま過ごさなければならないのか。


 朝食の時もろくに会話が無かった。誕生日当日ならば、彼も、もっとはしゃいでも良さそうなのに。あまりにも気まずすぎて、双葉が不憫に思える。こんな時は気分転換をするに限るわね。

「私、買い物に出ていくから、留守番お願いできるかしら」

「分かった。いってらっしゃい」

 双葉が送り出してくれる。妙にテンションが高かったのは気のせいかしら。首を傾げつつも、エコバッグ片手に玄関を出るのだった。


 行きつけのスーパーまでの道中、私は自転車を漕ぎながら夕飯のメニューを思案していた。三平の誕生日なので、少しぐらい贅沢してもいいだろう。とはいえ、安いショートケーキを買うのが関の山だと思うが。


 ふと、バッグの中に忍ばせてある小箱に思いを寄せた。友美と一緒にバイトして入手し、そのままになっている代物だ。

 本来なら、三平への誕生日プレゼントで渡そうと思っていたものである。でも、これを渡したところで、あいつと仲直りできるとは到底思えなかった。


「新しいお姉ちゃん、か」

 あの時に言われた言葉が、未だに胸の中で渦巻く。むかつくと同時にズキリと痛む。三平の気持ちが分からないでもないからだ。

 あいつの立場だったら、私も似たようなことを考えたかもしれない。学校が終わって疲れている時に、家の事をやらなければならないなんて嫌だなと思ったことなんて幾度あったことか。


 でも、私が弱音を吐くわけにはいかない。私が駄目になったら、誰が双葉や三平に善詩乃を支えるというのだ。ペチリと頬を叩くと、私は自転車のペダルを力強く漕ぐ。


 もうすぐスーパーへとたどり着く。本来なら大通り沿いに行くのがセオリー。多分、地図アプリの経路検索でもその道が示されるだろう。

 ところがどっこい。幾度となく通っていくうちに、抜け道を見つけたのだ。住宅街を突っ切る、一見遠回りに思える細道。でも、大通りの信号を回避できるから、結果的に早く到着できるのだ。


 難点は、土地勘が無いと逆に迷ってしまうことだろう。そこは、この地に生まれて十数年のキャリアよ。もはや無意識レベルで私は自転車を走らせていく。この先の小さな公園を抜けたら大通りに合流する。まさに、そのタイミングだった。


 私は急ブレーキを余儀なくされる。突然、公園から人影が飛び出してきたのだ。

「ちょっと、危ないじゃない!」

 声を張り上げると、そいつはじっと私を見つめてきた。


 なんとも不気味な輩だった。背丈は私よりも低い。プールの授業でもないのに、バスタオルで体を隠している。そして、顔もまた、今放送されている戦隊ヒーローのお面で隠している。


 考えるまでもなく不審者である。夕暮れ時なら出没してもおかしくないが、白昼堂々という言葉が適用されるような時間帯だ。

「な、なんなのよ、あんた」

「フフフ。我はアークバトラー」

「アークバトラー?」

 オウム返ししてしまったが、しばらくして、三平が見ていたアニメに出てきた悪者だと気づいた。なんで、そんなのが町中にいるのよ。


 ふと、不審者の髪型に視線を寄せた。どうにも、既視感がある髪型をしているのだ。特に、あのアホ毛は確信犯だ。犬の尻尾みたいにピコピコ動きそうな具合といい、間違いない。

 なので、カマをかけてみることにした。

「行け行け戦隊GOレンジャーのGOレッドじゃなくて?」

「イケイケドンドン! GOレッド! って、何やらせるのさ!」

 ああ、あいつだ。いや、こんなバカなことをやるのはあいつしかいない。ちなみに、GOレンジャーなんてのを知っていたのは三平が見ていたからだ。決して、私が好き好んで見ているわけではないから悪しからず。


 正体が分かってしまえば、素直に付き合うのが馬鹿らしくなった。正直、さっさと買い物して帰りたい。が、暇つぶしに少しぐらい悪乗りしてもいいだろう。友人のよしみとして。

「で、本当の名前は何なの」

「よくぞ聞いた! 我が名はアークバトラーが一人、トゥモーミ!」

 うん、やっぱりあの子じゃない。辟易しているのにも関わらず、トゥモーミはかっこいいポーズを取る。それ、今放送されているライダーのやつじゃないかしら。


「トゥモーミとやらが、私に用でもあるわけ」

 冷めた調子で問いかける。もう、さっさと逃げ出したかったし、そうするのが正解だろう。あるいは、警察に突き出すべきか。そうしないのは、「フフフ」と明らかに聞き覚えのある声が笑うからだ。


 トゥモーミはビシリと私に指を向ける。バスタオルの下はきちんと服を着ているのね。安村じゃないけど安心したわ。

「キムっ、木村和菜!」

 一瞬、キムっちと言いかけたわよね。

「お前の弟は預かった!」

「もしもーし、警察ですか」

「あー、待って、待って。警察は止めて!」

 いや、堂々と犯罪を宣告したわよね。誘拐は捕まるわよ、マジで。

ちなみに、なぜGOレッドかというと、ゴーレッドは実在するからです。

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