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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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突拍子のない作戦


 双葉から話を聞き終え、しばし誰も口を開くことができなかった。只ならぬ事情があることは想像できた。でも、ここまで重苦しい話になるなんて、覚悟ができていなかったのだ。


「だからこそ、和菜姉さんは三平の発言が我慢できなかったんだと思います」

「一体、何を言ったの」

 双葉は口をギュッと結ぶ。しばし俯くものだから、私は居心地悪く、机の下で手を弄ぶ。


 そして、顔を上げて、ゆっくりと告げた。

「誕生日には、新しいお姉ちゃんが欲しいって」

「なんだよ、それ!」

 友美がガバリと立ち上がる。一気に衆目を浴びるものだから、敦美がどうどうと宥めていた。


「三平の気持ちも分からないでもないんです。本当のお母さんがいないから、我慢することもいっぱいで。でも、和菜姉さんは、そんな想いをさせないために頑張って来たはずなんです。なのに」

 男子小学生という遊びたい盛り。なのに、家庭の事情でやりたいことを全力でやれない。不満がたまるのは当然である。


 だからといって、実の姉を糾弾するのは間違っている。なんて、正論を通しきれないのが難しいところではあるわね。

「キムっちも、本当は色々と我慢しているはずなんだよね。口を開けば家の事ばっかりで」

 友美が思い出したように付け加える。彼女にしては珍しい、浮かない表情をしていた。


 正直、根本的な解決法はあるにはある。和菜の代わりに母親となるべき存在を用意すればいいのだ。でも、墓地からサーバントを手札に戻すみたいなカードが現実にあるわけがない。亡くなった実の母親を戻すなんて論外だ。

 ならば、再婚する。現実的ではあるが、おいそれと口出しできる話題ではない。


 そこまで聞いておいて、ふと思ったことがあった。

「そういえば、父親はどうしたのよ。ここまで家族問題がこじれているのに、口出ししないなんておかしいわ」

「お父さんは、仕事にかかりきりなんです」

 浮かない顔で双葉は打ち明ける。


「休みの時に呟いているのを聞いたことがあります。バリバリ働いて、不自由ない暮らしをさせてやること。それが、俺がお前らにできることだって」

「そんな。家族をほったらかしにしてるようなものじゃん」

「早計。四人姉弟を養うのは大変。一概に攻められるものではない」

 敦美の言うことも尤もだ。それに、単に家計的事情だけではない気がする。根本的な解決のためには父親も巻き込む必要がありそうね。


「とりあえず、和菜と三平を仲直りさせることが先決かしら」

「同意。でも、どうすればいい」

 それでさっさと解決策が思いつけば苦労はしない。しばし、沈黙が流れる。


「もうすぐ三平の誕生日。足がかりはそれぐらいしか無さそうね」

 こういう時、黙ってばかりでは何も進展しない。無駄かもしれないけど、思いつくことを列挙する。そうすれば、打開案が出るやもしれない。いわゆる、ブレインストーミングというやつね。


「思案。誕生日か」

「誕生日。パーティ」

「それだ!」

 双葉の呟きに友美が食いつく。テンションが高すぎてまたも衆目を集めたが、それどころではなかった。


「みんなでお祝いすれば、喧嘩してたことだって、きっと忘れるよ」

 あまりに短絡的すぎる理論だけど、パーティというのは良い案ね。と、いうよりも解決策としては、それぐらいしか思い浮かばない。


「単にお祝いするだけじゃ効果が薄そうね。サプライズ要素が欲しいところだけど」

「サプライズパーティ。うん、いいじゃん! なんかすごいプレゼントを用意するとか」

「プレゼントね」

「提案。レアカードとか」

「三平が直接的に欲しいのはそれだろうけど、もう一押し欲しいのよね」

 デュエバのカードを送ればお茶を濁せるかもしれない。でも、彼は「新しいお姉ちゃんが欲しい」と不満を顕わにしているのだ。それを叶える方法。


「そもそも、喧嘩しているのに参加してくれるかという問題もあるし」

「対立している時には、新たな敵が現れるものだよ」

「突然、何を言い出すのよ友美」

「アニメとかでよくある展開ですか?」

 意外にも双葉が受け答える。すると、敦美がハッとしたように手を打った。

「納得。その手があったか」

 な、なによ。一体、どんな策を思いついたというのよ。


 いまいちかみ砕けていない私に、友美は満足げに説明を始める。それを聞いた私の感想としては、

「そんなアニメみたいな話、うまくいくの!?」

 で、ある。


 ただ、煮詰めていくと、二人を仲直りさせるには最善の方法のようにも思えてきた。

「双葉ちゃんに大分負荷がかかる作戦だけど、平気?」

「いえ、お構いなく。姉さんと三平のためですもの。頑張ります」

 グッと拳を握る双葉。このまま持ち帰りたい。いや、何を考えているんだ、私は。


 もっと作戦を煮詰めたいところだが、今日はもう時間が無い。誕生日の前日というギリギリのタイミングに最終的なすり合わせをすることを決め、その場は解散となったのだった。

カード紹介

ビーストレンジャーズ

クラス:ビースト ランク1 コスト5

攻撃力100 体力100

突撃

このカードが場に出た時、山札から4枚を裏向きのまま場に出す。それらは、攻撃力100、体力100のクラス:ビーストのトークンサーバント「ビーストレンジャー」として扱う。

このカードが攻撃する時、代わりに体力X以下の相手サーバントを1体選んで破壊してもよい。Xは自分の場のサーバントの数×100である。

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