新戦力
そうこうしている間に到着したヨロヅヤ。私たちは三人そろって、フードコートでだべっていた。
目的をはき違えているのではないかって? 仕方ない。はりきりすぎて、タイムセールよりも前に到着してしまったのだ。
もし、双葉がタイムセール目的で訪れるとするなら、現段階で無暗に探し回っても徒労に終わる。ならば、セールが始まるまで待機するのが得策との判断だ。
さすがに、何も頼まないままコートの一区画を占拠するのはいただけない。だから、三人してクレープを頼んだ。さっきまで飲んでいた紅茶が恋しくなる。
「それにしても、タイムセールはなかなか始まらないね」
「記憶。確か、夕食の時間の直前ぐらいのはず」
「そんな時間まで、あなたたち門限大丈夫なわけ?」
「夕飯に間に合うように帰れば問題ないよ」
「同意」
あなたたちの家、緩いのね。今日は、両親共に仕事で遅くなるから平気だけど、そうじゃなかったら大目玉喰らって大変なことになるところだったわ。
「ねえねえ、ただ待ってても暇だからさ。バトルしようよ」
そう言って、友美はデッキを取り出す。あなた、最初からそれが目的だったんじゃないの? 呆れつつ、私もデッキを取り出す。敦美もやる気だったようだが、じゃんけんにより沈黙するに至った。
「不服。新生フォーチュラーデッキを試したい」
「あっちゃんとは時間つぶしじゃなくて、今度本気でバトルしたげるよ」
「そう言われると、私とは暇つぶしでバトルしてるみたいじゃん」
「まあ、拗ねないでよ」
鼻歌交じりにデッキをシャッフルする。そんな姿を前にすると、文句が言えなくなるのはずるいわ。
友美とのバトルはもはや様式美となっている。岐路となるのは中盤だ。
「エアリアル・コマンダーを召喚。能力により山札から盾持ち傭兵を場に出す」
「おお、新カードだね」
「把握。ちょっと前にショーケースで売られていたのを見た」
気になっていたら、溜めていたお小遣いで買ったのよ。友美が得意とするような、複数展開ができるカード。それだけじゃない。
「このカードで場に出たサーバントは突撃を持つ。傭兵でコボルトを攻撃」
「なかなかやるね。じゃあ、こっちも新カードを出そうかな」
「驚愕。友美も新カードを手に入れていたのか」
「バイトの報酬だよ」
バイトの日給を鑑みると、かなりの高額カードかもしれない。その予想はあながち間違いではなかった。
「ビーストレンジャーズ・レッドを召喚」
戦隊ヒーローのようなネズミのサーバント。5コストで攻撃力と体力が共に100。大見得切ったわりには大したことない。いや、スタッツだけに惑わされてはダメだ。実際、友美がにやりと口角を上げているではないか。
「ビーストレンジャーズ・レッドの効果。山札から4枚を裏向きのまま場に出し、トークンカードビーストレンジャーとして扱う」
「突撃持ちのサーバントが都合5体も」
切り札のジューオの効果からすると、一気に5体もサーバントを繰り出されるのはきつい。しかも、それだけではなかった。
「レッドで盾持ち傭兵を攻撃。そして、効果発動。攻撃する時、場のサーバントの数×100の体力以下のサーバントを破壊する。よって、バトルが発生することなく傭兵を破壊だよ」
単体でも体力500以下のサーバントを一方的に破壊できる。さすがに、レアカードの名は伊達じゃないわね。
ビーストレンジャーズ2体でエアリアル・コマンダーを相討ちされ、ターンが返される。この状況でジューオを繰り出されたら致命傷。エマージェンシーカードを併用してアヤメを早期召喚するか。
そんなことを考えていた時だった。
「注目! あれを見ろ」
突如、敦美が声をあげる。お行儀悪く椅子から身を乗り出している。
小学生じゃなんだから、はしたない真似をしないでもらえるかしら。勝負を中断させられた腹いせもあり、文句をぶつけようとする。だが、彼女が指差す先に居た人物を目撃し、私は息を呑む。
スポーティな印象な姉に似ているが、幾分と落ち着いた雰囲気の少女。買い物かごを片手に、迷うことなく食品売り場へと闊歩している。
つい最近出会ったから、よく記憶に残っている。敦美が騒いだのも当然だろう。
「おお、本当にいたよ、双葉ちゃん」
友美が歓声をあげる。彼女も顔なじみでも不思議では無い。なんて、感心している場合ではないわね。
「すぐに追うわよ」
「ええ、いいところだったのに」
「デュエバやっている場合じゃないでしょ」
急いで後始末を済ませ、私たちは食品売り場へと急行する。
カード紹介
エアリアル・コマンダー
クラス:ウォーリア ランク1 コスト5
攻撃力300 体力200
このカードが場に出た時、山札からコスト2以下のクラス:ウォーリアのサーバントを1体場に出す。それは突撃を持つ。