和菜の家庭事情
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「と、いうことがあったのさ」
友美は事情を説明し終えると、お茶菓子代わりに用意されたポテチを頬張る。
「それは、また」
と、しか言えなかった。敦美に至ってはだんまりを決め込んでいる。それを詰る資格はない。正直に言って、おいそれと解決できるような問題ではなかったからだ。
「本当に厄介なことになったわね。家事の手伝いをしたことが、兄弟喧嘩の原因ということでしょ」
横で聞いていた芽衣が口を挟む。認めたくはないが、そういうことだ。まさか、善意がお節介になってしまうなんて。
このままでは、和菜をチームに誘うどころではない。せっかく用意した誕生日プレゼントも、ただの紙の束と化してしまう。
「どうにか、和菜と三平を仲直りさせる方法はないかしら」
「困難。家庭の問題が関わっている。簡単にはどうこうできない」
敦美のことばに沈黙が再来する。突破口はおろか、とっかかりさえ見いだせないのだ。
「ああ、こんな時、デュエバのアニメなら、バトルして簡単に解決するのにな」
「カードゲームで何もかも解決できるなら、警察すら要らないわよ」
頭を抱える友美に、私はため息をつく。前に見たアニメの世界は特殊すぎるわ。食い逃げ犯をデュエバでバトルして逮捕していたし。
しばし、沈黙が続く。時間稼ぎに頬張るお菓子の咀嚼音がひときわ大きく響いていた。
「そもそも、和菜の家の事情って、どうなっているのよ」
「把握。それは知りたかった」
「あれ? 話してなかったっけ。と、いっても、あたしも詳しく知っているわけじゃないけど」
友美はあっけらかんと言い放つ。まったく、この子は。
頭を抱えるけど、実のところ、これは天啓かもしれない。大前提として、どうして和菜は家事に躍起になっているのか。それが分かれば、打開策を見いだせるかもしれない。
「ただ、キムっちは、あまり家の内情について話したがらないんだよ」
「要するに、断片的にしか知らないってわけ。それでも十分よ」
「おお、近い、近い」
はっ。私ったら、つい肉薄してしまった。敦美が白い眼をしているけど、致し方ないわね。
「まず、知ってることとすると、あの子、母親を亡くしているみたいなんだ」
「は!?」
いきなり、とんでもなく重い話が飛び出し、素っ頓狂な声が漏れた。まさか、ただのラーメン屋かと思ったら、次郎系を出されたみたいな衝撃が来るとは思ってもみなかったわ。
でも、冷静に考えてみると、あの家庭状況に陥っている理由としてはしっくり来る。本来、母親が担うべき役割を、和菜がすべて負担しているのだ。極度のネグレストではないとすると、そういうことだろう。
「質問。母親がいないとして、父親はどうした」
「うーん、なんか、仕事がとても忙しいとか言ってたな。家に帰っている時間が滅茶苦茶短いって」
そこでいくと、うちの父親と同じ感じだろうか。たまに帰っては嫌味をぶつけるばかりで、大概は会社の中にいる。それに、片親で兄弟4人を育てていると考えると、忙殺されている方が自然だ。
「なんにせよ、あの子の家庭の事情をもっと探る必要があるわね。そうすれば、おのずと解決策も見いだせるかも」
「でも、キムっち本人に聞いても望みは薄いんだよな」
傍で聞いただけでも、複雑そうな家庭事情だ。まして、兄弟喧嘩で険悪になっている現状。和菜当人からでは情報を聞き出すのは難しいだろう。
「提案。将を射んと欲すればまず馬を射よ」
「どうしたんだい、あっちゃん。急に難しいこと言って」
「本命を攻めたいなら、まずは外堀から攻めろでしょ。パー〇ェクト・ギャ〇クシー出されている時に、まずはシールドフォースを破るみたいな」
「ああ、なるほど」
いや、ことわざの段階で理解しなさいよ。例えの方が分からないわよ。
さておき、敦美の言いたいこととしては、
「和菜当人ではなく、周辺人物に話を聞くということ」
「合意」
敦美はパチリと指を鳴らす。妥当というか、打開策としてはそれしか無さそうね。
「でも、キムっちのことをよく知ってそうな人か。あたし、キムっちと付き合い長いけど、そこまで詳しくないからな」
「そもそも、友美と和菜はどういう関係なわけ」
「幼馴染」
簡潔ではあるが、今回の事例においては切り札とも言える存在が出現してしまった。友美以上に親密な関係のある人物なんて、おいそれと見つからないわよ。
「親類。なにも、友人に拘る必要は無い。むしろ、友人よりも事情をよく知る人物がいる」
「へえ、さえてるじゃん、あっちゃん」
「停止。やめろ」
芽衣にほっぺをコネコネされておもちゃにされている。苦笑するも、一体誰をターゲットにしようというのか。
マニアックな小ネタ紹介
パー〇ェクト・ギャ〇クシー
デュエマのクリーチャー。
指定のシールドが存在している間無敵状態になるので、除去するには、まずシールドを破壊しなければならない。