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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第3章 木村和菜
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想定外

 和菜の家の手伝いをしてから数日後。三平の誕生日を間近に迎え、作戦も大詰めといったところだ。

「期待。うまく事が運ぶといい」

「本当にね」

「あなたたち、ごく普通に和んでるけど、本来なら営業妨害だからね」

 放課後の高野商店。デュエルスペースの一角を借りてティータイムとしゃれこんでいた。と、いうのも、敦美の父親が会社の付き合いとかで紅茶セットをもらってきたというのだ。


「僥倖。大人の味が好きな友達がいると言ったら、譲ってもらえた」

「ピンポイントで私の事言ってる気がするわね」

「およ、私ではないのかい」

 芽衣が首を伸ばす。メロンソーダを好んで飲んでいる時点で、対象には入らないと思いますよ。


 それにしても、この紅茶、なかなかの美味ね。けっこうお高いんじゃないかしら。

「微妙。午後のやつのほうが美味しいかもしれない」

「敦美、あなたって、案外貧乏舌なの?」

「格付けチェックしたら、まっさきに映す価値無しになりそうね」

「心外。高い紅茶なんて、普段飲む機会は無い」

 憤然やる形無しと抗議する。その言い分は尤もね。デュエバをやっていないと、イラストが違うだけのカードが数万越えなんて信じられないといった具合だ。


 しばし、舌鼓を打っていると、入り口のドアが開かれる音がする。それ自体は別におかしなことではない。平日の夕方に堂々と入り浸っている私たちみたいな珍客がいるぐらいだ。普通の来客なら、むしろ歓迎すべきである。


 しかし、姿を現した人物が意外ではあった。

「友美!?」

 思わず、声をあげてしまったじゃない。


 別に、友美が来訪してくること自体は不思議では無い。なぜなら、彼女はこの店の常連だからだ。

 だが、登場の仕方が不可解なのだ。彼女はいつも、ドアを破壊しかねない勢いで開け放つはず。なのに、面接試験で入室するみたいな静かさだ。


 おまけに、夢遊病を患っているかのようにフラフラしている。こんな友美を見るのは初めて。いや、前にもあったわね。勝に敗北を喫した時だったかしら。まさか、あいつがまた何かやらかしたのでは。


「どうしたのよ、友美」

「ああ、うん、ちょっとね。予想外のことが起きたというか」

「鎮静。とりあえず、落ち着こう」

 敦美がコップに紅茶を注ぎ、友美に手渡す。躊躇なく一気飲みするのは友美だ。


 そして、生ビールを煽ったかのように「プハー」と一息つくと、そのまま椅子に背中を預けた。

「本当に大丈夫?」

 芽衣までも心配して声をかける。目隠しするように腕を押し当てていた友美だったが、やがて、思いつめたように指を組んだ。


「まさか、あんな展開になるとは思わなかったよ」

「さっきから思わせぶりなことばかり言ってないで、何があったのか話しなさいよ」

 逆効果になるかもしれないのは承知だが、このままではらちが明かない。幸いにして、彼女は切り替えが早い方だ。私に目配せをすると口を開いた。



 あれは今朝のこと。

「おっはー!」

 遅刻寸前のタイミングで、「ドギャラバ」という音を立てて教室のドアを開ける。

「友美、ドアを壊すなよ」

 と、いつものごとく、クラスメイトの男子の苦笑する声が聞こえる。私だって、そのくらいの分別はあるってば。


 さてさて、唯ちゃんは相変わらず本とにらめっこしている。こういう時の唯ちゃんは話しかけても塩対応しかしないからな。そうして視線を這わせると、ポツネンと座っているキムっちを捉えた。


 彼女が独りでいるのは珍しい。大抵、同じクラスの女子と談笑しているはず。あたしはいたずら心を起こし、そっと彼女の背後に忍び寄る。

 そして、トントンと肩を叩いた。

「誰?」

 ぷにゅ。あたしの指先に彼女のほっぺたが突き刺さる。作戦成功だ。


「こんなバカなことやるのは友美でしょ」

「あったり前田のクラッカーだよ」

 ブイサインを繰り出すが、塩対応される。読書中の唯ちゃんじゃないんだから、そんな態度取らないでよ。


 憮然とするけど、どうにも様子が変というのは考えなくても分かる。あたしはキムっちと対面するように回り込む。

「悩みがあるなら聞くよ」

「別に」

「沢尻エリカの真似しても無駄だかんね」

「誰よ、その人」

「芽衣姉ちゃんから聞いたんだけどな」

 あの人、たまに実年齢からかけ離れたネタを教えてくれるんだけど、それに引っ掛かったか。いや、それはどうでもいいんだよ。


「あたしの目はごまかせないよ。悩みがあるに違いない。さあ、すっきりと白状するんだ」

 ズイと、あたしはキムっちに顔を近づける。彼女の吐息が唇にかかる。

 すると、ズイと体を反らされた。「近い」と、一言だけ窘められる。


「そこまで言うなら話してあげる。っていうか、友美だと黙っていても嗅ぎつけて来そうだし」

「おお、分かってるじゃん。さっすが、キムっち」

「でも、もうすぐ授業が始まるから、給食の時でいい?」

 その言葉通り、担任の先生が「席に着け」と号令をかけてきた。むう、仕方ない。気になるけど、取り調べは後回しにしようじゃないか。


 それで、時は流れて給食の時間を迎えた。有無を言わさず、あたしはキムっちの対面に陣取る。ちょくちょく彼女とは一緒に食べているから、違和感を与えないのが救いだ。

「さーて、話してもらうよ、キムっち」

 あたしはフォークを彼女へと差し向ける。「お行儀悪い」とたしなめられる。仕方ないじゃん。今日のメニューはスパゲティだから。


 キムっちはスープを一口すする。漂うコンソメの香りでほっこりする。うむ、計ったな。

「そうね。端的に言うなら、三平と喧嘩したのよ」

「へぁ!?」

 淡白に白状してきたけど、とんでもないこと言ってるよね。うっかり、ウル〇ラマンっぽい鳴き声を出しちゃったじゃん。


「どうして喧嘩するのさ。誕生日プレゼントも用意したし、喧嘩する要素無くない」

「だって、あの子ったら、恩知らずなこと言うんだから」

 憤然とスープを飲み干す。音を立てて飲むのはお行儀悪いんだぞって指摘するのは無粋かな。スパゲティを毛糸玉みたいにして食べるのはお行儀悪いって反撃されそうだし。


「ねえ、本当に何をしたの。誕生日をお祝いして、キムっちも楽できてウェイウェイのはずだったのに」

「ウィンウィンね。まあ、話はささいなことから始まるんだけどさ」

 キムっちは、あたしに負けない勢いで毛糸玉を作り、大口を開けて放り込む。口の周りがケチャップで汚れたのもお構いなしだった。

カード紹介

マウンテンドラゴン

クラス:レジェンダリー ランク1 コスト8

攻撃力600 体力1000

デコイ

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