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カードゲーマー百合  作者: 橋比呂コー
第1章 小鳥遊唯
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エ〇ゾディア

 攻撃を宣誓し終え、私は背もたれにもたれかかった。空調は効いているはずなのに、額には汗がにじんでいた。数時間ぶっ通しで勉強した時でも、数キロマラソンを走った後でも、これほどの疲労感は味わったことはない。


 ふと、私の頬に冷たい金属片が押し付けられた。眼前には緑色の鮮やかなパッケージが映る。芽衣が朗らかに「飲むかい」と勧めてきていた。

 火照った体にメロンソーダが染みわたる。芽衣もまた豪快に飲み干していく。法律上お酒が飲めるのか微妙な年齢ではあるが、いかにも飲みなれていそうだった。

「いやあ、熱戦の後のメロンソーダはいいね」

「異議。芽衣さんは戦っていない」

「細かいことはいいんだよ。あっちゃんは炭酸苦手だったよね。バヤリースでいい?」

「所望」

 芽衣からオレンジジュースを受けとると、敦美はコクコクと口をつける。どことなく、水分補給している小型げっ歯類みたいだ。


「それにしても、いいもの見せてもらったわ。キングディーラーはともかく、使命死刑まで飛び出すなんてね」

「そのキングというカードは強いわけ?」

「驚愕。まさか、ジェネラル・トランプルーラー・キングを知らない!?」

 そんな、日本国の首都を知らないのかという調子で言われても、知らないものは知らない。


 釈然としないでいると、芽衣が解説を入れてきた。

「トランプクルセイダー・スペード、ダイヤ、ハート、クラブが場に揃っている時に召喚すると、その時点で特殊勝利できるカードよ。あっちゃんのデッキは、ドローソースを駆使して、その特殊勝利を目指そうってやつね」

「別名、デュエバのエ〇ゾディア」

「余計に分からないわ」

「無知。インセ〇ター羽蛾にカードを捨てられた名シーンを知らないのか」

「手札抹殺による対策を皮肉ってたわよね、アレ」

 漫画のワンシーンのことだろうと推測はできたが、全くついていけない。難関校の英語の入試問題の方がまだ理解できるわ。


 私がメロンソーダの炭酸にむせていると、芽衣がじっと横目で見つめてきた。炭酸飲料なんて、普段あまり飲まないから仕方ないでしょ。だが、芽衣が気になっていたのは別のことだった。

「ひょっとしてだけど。唯ちゃんって、デュエバあまりやったことない?」

「やったことないというか、バトルしたのもこれで二度目よ」

「驚愕。それで、あれだけ戦えるのか」

 バヤリースをこぼしようになっている敦美はさておき、私は芽衣に尋ねる。

「どうして、初心者だって分かったの?」

「使うカードが、どうにもストラクチャーデッキっぽいというか、多少改造されてるけど、構築済みのウォーリアのデッキ、ほぼそのままよね」

「指摘。デュエバのプレイヤーでキングを知らないのはにわか」

 にわかというのはよく分からなかったが、バカにされているというのは分かる。


「合点。ならば、先ほどのプレミも納得がいく」

「私がミスしたとでも言うの?」

「あっちゃんがスペードを出したターンの話ね。エマージェンシーのクイックボマーを持っているなら、キングをプレイしようとしていたターンにそれを発動させていれば、キングの召喚条件を阻止できたってわけ」

「同意。ただ、わたしはエマージェンシーの発動を無効化するエマージェンシーを伏せていた。だから、使命決闘を使われなければ勝っていた」

 負け惜しみのようにも聞こえるが、振り返ってみれば、あのカードは温存しておくべきだったわね。なんて、感心してどうするのよ。


 このままコケにされっぱなしというのは納得がいかない。しかし、私がゲーム初心者であることも事実だ。なので、

「そうよ、初心者よ。悪い」

 思い切り開き直った。

「あーごめん、バカにしたわけじゃないんだ。むしろ、ネタデッキ相手とはいえ、善戦してると褒めてるのよ」

「異論。ディーラーキングはネタじゃない」

「そう言いつつ、この前、ハンデスアンデットにボコられてたじゃん。っと、話が逸れたわね。ヴァルキリアスが欲しいのは、始めたばかりだから強いカードが欲しいとか、そういう理由かしら」

 あのカードを欲する理由ね。話す義理もないけど、話したところで損するということもないだろう。なので、素直に応じることにした。


「どうしても、勝ちたい相手がいるの。そのために、強いカードは必須なわけ」

「確認。ヴァルキリアスは、あくまでプレイ用に欲しいのか」

 変なことを聞くわね。私が首肯すると、敦美は分厚いファイルをリュックから出す。中にはぎっしりと、明らかにレアと思われるカードが陳列されていた。実際にレアであろうことは、近くの小学生男子が「すげー」と歓声をあげていたことから窺える。


 パラパラとページをめくっていき、一枚のカードをファイルから取り出した。それは、私が欲している「戦場の女神ヴァルキリアス」のカードだった。

「提案。このカードを譲るから、ヴァルキリアスの購入権を譲ってほしい」

「意味が分からないわよ。なんで、ヴァルキリアスを持っているのに、ヴァルキリアスが欲しいわけ?」

「解説。このヴァルキリアスはただのヴァルキリアスではない。エクストラブースター『ヒーローズセレクション』に収録されているイラスト違いのカード」

 そう言われて見比べてみると、服装の色や持っている武器が違う。


「通常版のヴァルキリアスならダブらせているから問題ない。わたしが欲しいのは、あくまで特別版」

「なんか納得いかないけど、別にいいわよ。でも、あなた正気? この取引だと、あなたはタダでカードを渡して、わざわざお金を払って、このカードを買うことになるのよ。損しかしていないじゃない」

「無問題。カードコレクターとして、欲しいカードを得るのに損得は関係ない」

 どや顔でサムズアップをする。まあ、当人が問題ないのなら、心配してあげる義理は無い。


「付加価値。それに、カードで遊べる女友達は、ヴァルキリアスより貴重」

「ちょっと待って。なんで、あなたと友達になっているのよ」

「昨日の敵は今日の友って、古い言葉があるけど~。って、知らない?」

 芽衣がいきなり歌い出した。確か、ピカ〇ュウとかが出てくるアニメの曲だ。


 強引に推し進められた気がしないでもないが、ともあれ、一銭も払うことなく目的のカードが入手できたのはめっけものだ。敦美もホクホク顔で芽衣にカードの代金を支払っていた。

「時に唯ちゃん。戦いたい相手はどんなカードを使うか分かるかい」

 帰宅しようと鞄を持ったところ、芽衣に呼び止められた。藪から棒すぎるわよ。

カード紹介

ジェネラル・トランプルーラー・キング

クラス:ディーラー ランク1 コスト99

攻撃力2000 体力2000

バトルゾーンにトランプクルセイダー・スペード、ダイヤ、ハート、クラブがあるとき、このカードの召喚コストは0になる。

召喚によって場に出た時、トランプクルセイダー・スペード、ダイヤ、ハート、クラブをそれぞれ1枚ずつゲームから除外してもよい。そうした場合、あなたはこのゲームに勝利する。

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