~vol.3~
「はーじめ」
廊下から三国一を呼ぶ声がした。
「あれ、どうしたの?」
一は助三郎の姿を見つけて走りよった。
「アンタ、お弁当忘れてったでしょ~」
背の高い、ガタイの良い青年は笑顔で包みを一の前に下げる。
「あ!良かった~、今日買わなきゃって思ってたんだ」
「助さん手作り弁当~ん。ハイ」
一はうれしそうに包みを受け取った。
「ありがとう、助三郎」
「粗末にしたらバチ当たるわよ~ん」
じゃあねー。ひらひらと手を振って、助三郎は踵を返した。
「あれ?もう帰っちゃうの?」
「ちょっとヤボ用~。真面目にべんきょーすんのよお~」
一はその後ろ姿をきょとんとして見送った。
「めずらしい」
いつもなら、昼休み中いるのになあ・・・。
†
昼休み。
「ぅへっへっへっ~」
妙な笑い声を上げて、阿左鞍左近は廊下を歩いている。
「俺のジャムパンさん」
人気商品だけあって、一つしかゲットできなかったが、七日ぶりのジャムパンさんだ。その辺は一向にかまわない。
橘右近、数学教師コバヤシ先生。
数々の妨害に遭いながら、やっと手に入れたジャムパンさん。
今日は途中で転んだりしないように、しっかりと手にもって教室まで持って行くつもりだった。
「ふふ~ん♪」
鼻歌まじりの左近が階段を上がるために角を曲がる。
どかっ。
「どぅわっ!!」
「キャッ」
左近の身体は突然反対側から曲がってきた誰かにぶつかって、跳ね飛ばされた。
「ってえ・・・・、す、すんません」
左近は顔を前方へ向けた。
思い切りぶつかったようだったから、相手も転んでいるかもしれない。
キャッって言ってたし。
「こちらこそ、ごめんなさいね」
しかし答える声は、上から聞こえた。
相手は立ったままだった。
それもそのはず・・・。
(誰、このお兄さん?)
制服を着用していないところを見ると、誰か生徒の家族だろうか?
ガタイの良い体つき、背は高い。赤い髪のなかなかの男前である。丈の長いコートがよく似合っている。
(漢、ってカンジ?)
彼は左近に笑顔を向けると手を差し出して、立たせてくれた。
「どうもありがとうございます」
丁寧にお礼を言って立ち去ろうとする左近。
しかし、相手は笑顔のまま手を離さなかった。
「・・・・・え?」
左近はふと再考する。
そういえば・・・。
さっき。
(キャッっつってなかったっけ・・・)
ガタイの良い、漢。
言葉遣いは、なんか女性らしい。
イコール・・・。
「・・・・・え?」
顔を引きつらせて左近は手を握られたまま一歩引いた。
漢は、にっこりと一歩前に出ると言った。
「アタシとデートしない?」
「・・・・・はい?」
左近は顔を引きつらせて問い返す。
アタシと。
そんな左近に、『彼』はもう一度言った。
「で、え、とっ!!」
しない?
「・・・・・」
左近は青年の隙をついて手を引き抜くことに成功した。
「しません」
そして一言はっきりと述べ・・・
「しっ、失礼しますッ!!!」
逃げた。
「ちょっとぉ~、つーれーなーいぃ」
助三郎はくねっとシナを作ると頬を膨らませた。
「逃げられると・・・」
にっと不敵な笑みを浮かべると、助三郎は走り出した。
「追いたくなるじゃな~い」
その身体に合わせるように、彼の運動神経は並外れて良い。左近は息一つ切らせずについてくる助三郎に、震撼した。
「ウソだろオオオオオオ!!!!」
結局。
左近と助三郎の追いかけっこは、昼休みが終わるまで続いた。
地の利がある左近はかろうじて逃げ切り、教室へ戻ったのだが・・・・・。
「お、俺のジャムパンさん・・・」
いつの間になくしたのやら、その手からジャムパンさんは消えていた。
「咲良ぁ~・・・助けろよ」
力なく学友に当たり散らしてしまったのも、いたしかたのないことであった。
「無理だ」
彼らの姿を見かけた武藤咲良は、少しだけ同情してそう言った。
end.
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助三郎は校門へ向かって一人歩いていた。
「逃げられちゃったわね~」
ざんね~ん。
「でもまあ、これもらったからいいわ」
その手にはジャムパンさんの包みがあった。
左近は覚えていなかったが、逃げ出すためとっさに助三郎の手に握らせたのだった。
助三郎はがさがさと紙袋からジャムパンさんを取り出してほおばった。
「あ。おいしっ」
5時間目始業のチャイムが鳴り響いた。
end.end.
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words.
三国一
助三郎
阿左鞍左近
武藤咲良
橘右近
橘右近の謀略へつづきます。




