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~vol.2~

「咲良ァ、オメー起こせよ」

不機嫌そうな顔で左近は言った。

1時ジャスト。

あの後、左近は校庭10週を走り抜き、ゲンコツ親父ことコバヤシ先生に説教を食らった。愛しのジャムパンさんを回収したまでは良かったが、途中何かにつまづいたのか、派手に転んでジャムパンさんを失う悲劇に見舞われていたのである。

「見つかんねえし、俺のジャムパンさん・・・・」

度重なる悲劇。

思わず目の前の学友に当たり散らしたのもいたしかたないことであった。

「咲良が起こせばこんなことにはならなかったのになァ、あ~あ」

「無理だ」

ふてくされる左近の目の前で弁当をつつきながら、武藤咲良は答えた。

「お前はちょっと呼んだくらいじゃ絶対起きないだろ」

「おーきーるって!咲良の声なら心ん中まで届くって!!」

「いや、無理。コバヤシにしか起こせないね」

咲良は呆れて断言した。

「おまけにあの寝言だ。どうやったらあんなに器用に・・・いや不器用にか、寝れるんだよ」

「うるせーなあ、疲れてんだよ。いろいろと」

「退治か?」

弁当箱から顔を上げて咲良が問う。それならば仕方がないな、という顔をしていた。

「・・・・・いや、あの、そお・・・じゃねえけど」

うやむやな感じで左近はごまかす。

「じゃあ同情の余地なしだ」

咲良は再びもくもくと食事を開始した。

「なんだよ、冷てえなあ」

左近はため息を吐きながら、咲良の弁当に手を伸ばし、卵焼きをつまみ食いした。

「おい」

咲良の言葉を無視して左近は呟く。

「最近よお・・・ジャムパンさん手に入んねえんだよなあ」

ため息を吐き、遠い目をする。

「ここんとこ1週間くらい・・・。あんまり俺が喰えねえからって同情してくれたパン屋のおじさんが朝特別にくれたんだよなあ・・・」

なんでねえんだろ、毎日。左近はうなだれた。

「人気商品だからだろ」

再びおかずに手を伸ばしてきた彼の手をはたきながら咲良は答えた。

「・・・・おかしい」

左近の動きがぴたりと止まった。

「10個いっぺんてなんだよ」

「へ?」

「10個、一度に買うやつなんていねーよ・・・」


嫌がらせだよ俺への。


左近はそう言うと、何かを考えるように黙した。


「嫌がらせ?」

自問自答した左近の両目が見開かれた。

「アイツかアアアアアアアアア!!!」

がたんとイスを倒して立ち上がると、左近は教室を飛び出して行った。

「落ち着きのない奴だな・・・」

後に残された咲良はやれやれと息をついて、左近の倒したイスを元に戻し、再び弁当を食べた。



               †



3年F組。

ガラリと大きな音をたてて、ドアが開いた。

「右近!!!」

左近は四つ角をたてて教室へ踏み込んだ。

「やあ左近、どうしたの?」

柔らかな微笑みを浮かべて、橘右近は首を傾げた。

左近と右近は同じ千条院家の退治屋で幼なじみである。

「やっぱりテメエの仕業かアアアアアア!!」

そして、犬猿の仲である。

「何のことだい?」

右近の手にはジャムパンが一口分ほど残っていた。

「俺のジャムパンさんをいっつも横取りしてたのは!!」

「え?ジャムパン?ああ、これのこと?」

左近好きだったの?今初めて知ったかのように驚いて、右近は言った。

「僕、最近糖分足りてなかったみたいで貧血起こしちゃったから、ちょっと多めに買ってただけだよ」

がさりと大きな紙袋を左近に見せた。左近はしかし、そんな右近の挑発に乗っている精神状態ではなかった。

「よこせ」

低い声で一言告げた。

「残念だけど、これで最後なんだ」

右近は小さくなったパンのかけらをかざす。

「もお、それでもいい!よこせ!!」

左近が手を出すのと同時に、最後のかけらは右近の口へ放り込まれた。

「あッ!!テメエ!!!吐き出せえええええ!!!!」


左近の悲痛な叫び声と、5時間目始業のチャイムが重なり合って廊下に鳴り響く。


その後、左近ががっくりと肩を落として自分の教室に帰って行ったのは、言うまでもない・・・。


end.






‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡



5時間目の授業が始まる。

静かな教室で、右近はすっと目を細めた。


(左近、君がジャムパンさんに固執していることは、購買のおばさんから聴取済みさ。そして・・・・・)


少しだけ気分を害したような表情を浮かべる。


(今日、僕の目を盗んで販売元のおじさんからジャムパンさんを分けてもらったことも知っている!!)


アレは危なかったな。


まさに想定外だった。


もうちょっとで左近が食べるとこだったもんな。


しかし!!


(自分の愚かさを呪うがいい、左近!!)


右近はさらに、ニタリと笑った。


(食事中に眠りこけるなんて、愚の骨頂!!!)


高笑いをしたいのをぐっとこらえるため、右近は息を深く吸い、吐いた。

黒板を見据える眼に力がこもる。


(その上、浮かれて足下にまで注意が向かなかったのが君の敗因)


うれしそうに廊下を小走りに来る左近を見つけられたのはラッキーだった。

すかさず足を引っかけ、特異能力を発動し、ジャムパンさんをかっさらうことができたのだから。


(ジャムパンさん回収率10と3分の2!!)


想定外のジャムパン3分の1は多少悔しいが、許容範囲内としておこう。


「コンプリート」


勝ち誇った、けれど風のように幽かな彼の声は、誰にも聞きとがめられることなく、暖房の効いたぬるい空気の中へ・・・・・、消えた。


end.end.



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

words.

阿左鞍左近あさくらさこん

武藤咲良むとうさくら

橘右近たちばなうこん

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