#5
娘たちが冒険者になった
俺も久々に冒険者の仕事やってみるか
なんていいスタートができると思ってたけど、完全に忘れていたことがある
「そういや俺、武器持ってなかった…」
10年前に、俺が使ってた剣や弓は英雄の証として国王陛下に献上したんだっけ
「タクトさん、今日はどうされるんですか?」
「ああ。丁度、武器を買おうかなと思ってて」
朝食に俺とアリアの何気ない会話を聞いた娘たちは
「父さんが買う武器か…。どんなの選ぶんだろうね?」
「今後の依頼達成のためにも参考にしないと」
俺についてくる気満々だった
というか、久々に買うから期待しないでほしいな…
☆
「武器を買うのは、やっぱりあの店?」
「お前たちもそこで買ってるのか」
「はい。何といっても、英雄御用達の武器を売ってると口コミで広がって、大繁盛してるみたいです」
「英雄御用達って…、少し盛りすぎじゃないか?」
「またまた謙遜しちゃって。素直に喜んでもいいじゃない」
と会話が弾み、気付けば例の武器屋に着いた
「ここも変わってないな…」
店の出入り口から客が出てきて
「ありがとうございました!」
店の人が客に挨拶
って、あの子…もしかして…
「おや、カギサワ4姉妹じゃないか。新しいのを買いに来たのかな?」
「私たちじゃなくて、父さんのだけどね」
その子は俺の顔を見るなり
「た、タクト兄さん!!?」
「やっぱり、ナーベルか。久しぶりだな」
「戻ってきた噂は本当だったんだ!!これは、父ちゃんに知らせねえと!!」
ナーベルは店の奥に行ってしまった
というか、俺はもうオッサンなんだけど、あの子だけ『兄さん』って呼んでるんだよな
バンと勢いよく開いたドアから出てきた綺麗に髭を整えた男
急いできたのか、息が荒かった
「ほ…、本当に…旦那なんだな…?」
「偽物が出てくるかよ、バカ。変わらないな、ガルドラ」
「ほ、本物だ…。その顔と声、忘れるはずがねえ…。タクトの旦那…、おかえり!!」
「おう、ただいま」
俺とガルドラは固い握手を交わす
☆
ここはヌーバー工房
俺が英雄になる前からずっとここの武器を買って来た、いわゆるご贔屓筋だ
この世界に初めて来た時には、違う武器屋で買っていたんだけど、
質が悪すぎて、後でぼったくり武器屋だと分かり
他の店を探したら、このヌーバー工房の武器が俺にぴったりだった
☆
内装も10年前のままだ
並べられてる武器も素晴らしい出来だと一目見て分かる
しかし、どれにしようか迷って仕方がない…
「で、俺の店に来たという事は?」
「ああ、新しい武器を買いたくてな」
「そういう事なら、お安い御用だ。どんな武器がいいんだ?」
「久々に冒険者をしようと思ってな、初心者向けの武器でもいいかなって」
「おいおい、冗談だろ?英雄様がそんな武器を買っていいのかよ?」
「何だ、ケチを付けたいのか?」
「英雄なんだから、それに相応しい武器を使うのが相場で決まってるんだよ!!」
ガルドラ…
感覚がおかしくなったか?
ここはひとつ言っておこうか
「相場で決まるってのは誰が決めたんだ?」
「え…?」
「俺は10年のブランクがあるんだ。いきなり英雄級の依頼ができると思うか?」
「あんたの事だ。できるに決まってる!!」
「なら逆に聞くが、もしお前が俺と同じ10年のブランクがあったとして、英雄級の武器をいきなり作れと言われたら、一回で完璧にできると思うか?」
ガルドラは少し考え
「無理だ…。そんなのナマクラ以下の武器になっちまう…!」
「そうだろ?以前の感覚を取り戻すのはすごく難しいんだよ。だからこそ、俺は初心者から再スタートするんだ」
「すまねえ、旦那…。あんたの事、期待しすぎてた…」
そして、俺は久々に武器を購入
☆
帰り道
「父さん、ガルドラさんに言ってた言葉、すごく重みを感じたよ」
「そうか?俺は当たり前の事を言っただけなんだけどな」
「私たちからすれば、心にズシッと来ました」
「当たり前の…事でも…努力は…無駄にしない…。それが…、父さんの…いいところ…だよ」
娘たちが感じるところは何かと重い…
でも実際、元の世界に戻った時、仕事探しとかの苦労は今でも鮮明に覚えてる
ここでの苦労より、はるかに辛かった…
だから、あんなことが普通に言えたんだろうな…
どうも、茂美坂 時治です。
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