#3
朝
「…父さん、朝…だよ」
クラリスか?
甘い声で起こしてくる
「起きないと…父さんの…唇に…本気のキス…しちゃう…よ?」
はい!!?
目を覚ました時、俺とクラリスの顔はあと5センチでキスしちゃうくらい近かった
「あ…起きた…。もう少し…寝てても…いいのに…」
「いやいや!今の言葉は誰でも目が覚めるわ!」
「冗談…なのに…」
「俺の顔に近づこうとしてたよな!?冗談に聞こえないぞ?」
「うぅ~~…」
プゥ~と頬を膨らますクラリス
ちくしょう!
可愛すぎる!!
ベッドから離れても、この子は俺の背中にしがみ付いたままだ
「いつまでそうしてるんだ?」
「父さんが…首を…縦に…振ってくれる…まで」
「はい、それはもうおしまい」
俺は強引に、一本背負いする
その技を食らったクラリスは、呆然としている
「…父さん…、今の技…何…?全然…分からなかった…」
この世界には柔道というスポーツはない
と言っても、俺は高校の体育の授業でしかしたことないんだけどな
「皆が待ってるから、行くぞ」
「…はい」
☆
「ねえねえ、クラリス。どうだった?」
リビングの隅で4姉妹が何かを話している
どうせ、さっきの事だろう
「全然…ダメ」
「そっか…、残念」
「これはいけるんじゃないかと思ってたんだけど…」
「父さん、思った以上に強敵ですね」
「あらあら、母さんには内緒でこそこそ話ですか?」
隙を見たアリアが割り込む
「うわっ!?びっくりしたよ…」
「それで、タクトさんの事について話してたんですよね?」
「…う、うん…。クラリスが仕掛けても父さんダメだったって…」
「ああ、それは多分あの人、気付かないふりをしてるだけじゃないかと…」
「じゃあ、とっくに気づいてるの?」
「それは本人に訊かないといけないのですが、ここで訊いてしまえば、あなたたちの恋路が終わってしまいますからね。黙っておきますよ」
「ありがとう、母さん!!」
ジェシカはアリアに抱き着いた
な、仲がよろしいようで…
☆
「父さん、今日私たちの仕事場に行かない?」
朝食中、ジェシカが俺に訊いてきた
「仕事場…か。どんな仕事をしてるんだ?」
そういえば、この子たちは18歳、つまり成人だ
「ふふふ、それは着いてからのお楽しみ」
典型的なパターンだな
古風だが、その案に乗ってやろう
「では、私はいつも通りのお留守番ですね」
「あれ?アリアは何か仕事をしてるのか?」
「この家が仕事場ですよ」
その言い方からして、内職か何かだろうな
☆
「じゃ、行ってきます」
「はい、気を付けていってらっしゃい」
アリアに見送られた後、俺は娘たちと仕事場へ向かう
「しかし、昨日もここを通ったがほとんど変わらないんだな」
「何か不満でもあるんですか?」
「そういうわけじゃない。ただ、懐かしいと思っただけさ」
「もうすぐ着くよ」
そして、着いた場所は…
んんん…?
完全に見覚えがある建物と看板
ここ…俺が所属していた冒険者ギルドじゃねえか!!!
え?
この4人、冒険者なの!?
10年ぶりに入るギルド
何だか緊張してきた…
☆
中に入ると、懐かしい騒ぎが耳に入る
体中にできた傷
それぞれが持っている装備
などなど…
「ホント…、帰って来たんだな…」
と、とある男衆が声をかける
「おお、カギサワ4姉妹じゃないですか!」
「今日もお美しい!!」
んん?
そんな異名が付けられているのか…
「で、後ろにいる男は誰ですか?」
「まさか、新人さん?」
「いやいや、この人はうちの父さん―――タクト・カギサワだよ」
ジェシカがそう言うと、男どもは笑い出した
「こんな男、あのタクト・カギサワな訳ねえだろ!!」
「そうだそうだ、偽物を連れてくるなんてらしくないぜ!」
その言葉に、俺はカチンと来た
「偽物とは失礼だな、君たち。本物のタクト・カギサワだ」
「てめえには聞いてねえんだよ!」
一人の男が俺を殴って来た
「「「「父さん!?」」」」」
それに釣られるかのように、他の男たちもこぞって俺を殴る
対して俺は、何もしない
だが、これでいい
今、俺がここで手を出してしまえば、娘たちどころか一家の評価が下がってしまう危険があるからだ
「おらおら、どうしたオッサン!!」
「早く何かしねえと、死んじまうぞ?」
周りの冒険者も
「いいぞいいぞ、もっとやれ!!」
「そんな弱っちい男、嫌い」
などと、男たちを応援していた
その時
「おい、うるさいぞ!!何の騒ぎだ!?」
2階からギルドマスターらしき男が下りてきた
その男は、俺が殴られているのを見るなり
「今すぐやめろ!!」
と、ギルド内に怒声が響く
男たちは、殴るのをやめて道を開けた
「お前…、本当に…タクト…だよな…?」
「イテテ…その顔…、見覚えあるぞ。オスファーだよな?」
「やっぱり、タクト・カギサワじゃねえか!!10年ぶりだな、おい!!」
その会話を聞いていた男たちは
「…え?本物だったの…?」
「俺たち…ヤバくね?」
と、体を小刻みに震わせていた
「ところで、何でひどい目に遭ったんだ?」
「実はかくかくしかじかで…」
それを聞いたオスファーは、鬼の形相になり
「てめえら、英雄に酷いことをしてくれたな…」
「ひぃっ!?す、すみません!!」
「謝るのは俺じゃねえだろ」
男たちは俺に向かって
「「「「すみませんでした!!」」」」
と頭を深く下げた
「まだ話は終わってないぞ。てめえら、AランクからBランクに降格だ!」
「そ、そんな!!だって、喧嘩しただけですよ!?」
「一方的な喧嘩、だろ?パーティー内の小さな喧嘩は日常茶飯事だが、今回のような他人にこれ以上ない苦痛を与えた件は、当然許される行為ではない。言ってる意味は分かるな?」
「…はい」
「本当なら、登録抹消したいところだが、タクトのメンツもある。今回は、それで勘弁してやる。次はないからな」
☆
「イテテテ…」
「もう、父さんってばすぐ無茶するんだから」
俺は、ギルドマスター室で手当てを受けていた
「仕方ないだろ、お前たちのメンツを守るのが優先だったからな」
「そんなの気にしなくていいのに」
「全くです」
「父さんが…殴っても…正当防衛…だから…、問題…ない」
それだと乱闘になりそうだというのは言わないでおこう
「迷惑かけちまって、すまねえな」
「気にするな、彼らにとってもいいクスリになったと思う」
「そうだな」
と、俺はずっと気になっていたことを娘たちに訊いた
「お前たち、ここの冒険者だったんだな」
「そうよ!」
「なんてったって、私たちはSランクの冒険者パーティーだから!」
最高ランクに到達していたのか!?
「凄いじゃないか!」
「そうだろ?こいつら、冒険者としての能力が抜群でな。ギルド史上最短でSランクに登り詰めたんだよ」
娘たちも俺と同じランクに到達していたなんて…
やばい…涙が出そうだ…
「はい、手当て終わったよ」
「サンキュー」
すると、オスファーの顔が真剣な表情になり
「お前ら、タクトと話したいことがあるから外してくれ」
「2人だけの話…ですか?」
「ああ、そうだ。一応言っておくが、盗み聞きなんてことしたら、さっきのあいつらみたいに降格させるぞ」
本気でやりそうだと察知した娘たちは、しぶしぶギルドマスター室を後にした
どうも、茂美坂 時治です。
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