#1
新連載です
「…ふぅ、今日も疲れたな…」
俺は、鍵沢 拓斗 36歳
どこにでもいる普通のサラリーマンだ
「さて、飲むか」
冷蔵庫に冷やしていたビールを取り、そのまま飲む
「ップハ~~~!!仕事終わりの酒は美味いな!!」
一人余韻に浸る
「けど…、何か物足りないな」
酒の肴でもテレビなどのメディアでもない
何かが…足りない
でも、それを思い出そうとすると
「…う、うぅ~…」
自然と涙が零れてしまう
「…もう一度、会いたい…。みんなに…」
俺には、忘れられない人たちがいる
だが、もう二度と会えない
この時まではそう思っていた
突如、床が白く光り始める
「…あ、これって…もしかして…」
一瞬で、周りが見えないほどまぶしい光に包まれる
光が収まると、そこは徒広い草原だった
「俺…、戻って…きたのか…?」
半信半疑で『ステータス オープン』と脳内で唱えると
ヴォンとステータス画面が現れる
タクト・カギサワ
年齢:36
体力:S
魔力:S
火属性魔法:S
水属性魔法:S
雷属性魔法:S
光属性魔法:S
闇属性魔法:S
スキル:家事 Lv.5
病気耐性 Lv.5
苦痛耐性 Lv.5
楽器演奏 Lv.4
etc.
あの時のままだ
「本当に戻ってきたんだな、俺…」
どうして戻ってきたのかは不明だが、絶対に何か理由があるはずだから
後で調べてみよう
で、俺はどこにいるのかマップを表示
「エストラ王国。俺がいたフィオルド王国から南に離れた国か」
随分と離された場所に来ているんだな
よし、昔の感覚を取り戻すためにも、まず
「転移!王都 ザスト!」
転移魔法
その名の通り、指定した場所まで一瞬で行ける魔法だが、膨大な魔力が必要なのがネック
でも、俺は気にしてない
転移した場所は路地裏
「王都のど真ん中だったら、スーツ姿の俺を見て驚くだろうな」
今のうちに着替えるとしよう
アイテムボックスに昔着ていた服があったはずだ
あと、俺の顔を知っている人もいるかもしれないから、変装でもしておこう
☆
変装後、俺は王都を散策
「全然変わってないな。何もかもが懐かしいや」
街並みも店も俺が知っている時のままだ
噴水のある広場に巨大な石像が建てられているのが見える
近づいてみると、それは俺だった
この像のタイトルは
『英雄 タクト・カギサワの栄光』
もう、10年も前の話だけどな…
「かっこいいよな、タクト・カギサワさん」
「僕もいつか、タクトさんみたいな英雄になりたい!」
そんな像を見ていた子供たちが俺を目標にしている
嬉しい限りだ
俺の腹が鳴り、飯にしようかと思った時、一つ問題が浮上
この世界のお金、持ってないぞ…
あるのは、日本のお金だけだ…
とりあえず飯は後にして、目的地までいくとするか
☆
10年経っても、ルートは覚えているもんだな
俺は、迷うことなく目的地に着いた
そこは、俺がかつて住んでいた家
そして、本当の家族がいる家でもある
でも、俺は少し不安だった
何しろ、10年も会ってない
となれば
「今更、父親面して何しに来たの!?」
とか罵倒されそうな気がしてならなかった
でも、今はとにかく会って話がしたい
玄関前まで来たというのに、緊張してきた…
ちなみに、もう変装は解いてある
ふぅっと落ち着かせ、ドアをノック
「はい、どちらさ…ま…?」
ドアを開けたのは、見知った女性
俺の妻 アリアだ
「久しぶりだな…、アリア…」
彼女は数秒間、石になっていた
だが、俺だと分かると、手を震わせながら俺の頬を触る
「タクトさん…、本当にタクトさんなのね…」
彼女の頬に伝う涙
それは、紛れもなく嬉し涙だ
そして、ギュッと抱きしめて
「タクトさん、お帰りなさい!!」
「ああ、ただいま…」
俺の胸を猫のように頬をスリスリさせながら
「ずっと…会いたかった…。10年も待たせてどうするんですか、もう!!!」
今度は俺の胸にパンパンと平手打ち
正直、痛い…
「ちょっと何、母さん?そんな大声出し…て…、って…」
階段から慌てて降りてきた栗色の髪の美少女
「よぉ、ジェシカ…」
「…と、父さん…?父さん…だよね…?」
「ああ、鍵沢 拓斗だ!」
長女のジェシカも涙を流しながら駆け寄る
すると、アリアは俺から離れて
「…え?」
戸惑う俺をよそに、ジェシカはものすごいスピードで俺に飛びつき
その反動で、俺の体は庭に放り出される
「うがっ!?」
地面に打ち付けられ、情けない声を出す
ジェシカはそんなことを気にせずに、俺の体をギュッと抱きしめてくる
「…う、うわああああああん!!」
すると、涙を流すほどの大泣きをしてしまう
「会いたかった…会いたかったよ…、父さん!!」
と、また大泣きする
「わ、分かったから…とりあえず落ち着こう…、な?」
「誰のせいだと思ってるの、このバカ父さん!!」
何故か逆ギレされた
でも、この子の言葉にも一理ある
10年も会えなかったら、寂しさなどが積もりに積もって
一気に暴発することだってある
それに…
「お姉ちゃん!?何、今の泣き声…は…?」
「嘘…ですよね…?」
「見間違えるはずが…ない…よ…。あの顔…忘れられない…。本当の…父さん…だよ…」
騒ぎを聞きつけたもう3人の娘たちが、その様子を見て…俺だと気付く
「みんな…元気そうだな」
俺が話す間もなく、3人は俺に駆け寄ってくる
「「「父さん!!!」」」
俺の両腕と胸に3人が抱き着いてくる
左腕にしがみ付いている赤髪の美少女が次女のルイ
右腕にしがみ付いている茶髪の美少女が三女のハローラ
胸の上にいる黒髪の美少女が四女のクラリス
全員俺の娘で、四つ子でもある
俺とアリアの出会いは、また追々話すとしよう
☆
一段落ついたかと思いきや
四人の娘は、俺にまだベッタリだ
「あの…、みんな?動けないよ?」
「まだまだ父さん成分を味わっていたいの!」
「じっとしていて下さい!」
「水を差すようなこと言わないで!」
「今は…私たちの言葉に…従って…」
「えぇ…」
俺、しばらくこのままでいるの?
ある意味、拷問じゃねえか…
☆
10年ぶりに入る俺の部屋
「変わってないな…、ここも」
「ちゃんと掃除はしてるからね。父さんの大事な物を埃まみれにしたくないし」
「ありがとうな」
俺はジェシカの頭を撫でる
「んにゅ~~…」
顔を赤らめながら、猫のような反応をする
可愛いな、こいつ…
後ろでは
「んん~~~~、お姉ちゃんばかりズルいです!!」
「私たちだって、一緒に掃除したもん!」
「だから、父さん…。みんなの…頭を…撫でて…」
「…え?」
「お願い…」
みんな…、キュン死するような上目遣いやめて…!
結局、10分ほど4人の頭を撫でる羽目になってしまった
しばらくして落ち着いたころ
俺は押入れを開ける
「おお、これまた懐かしい物ばかりだ」
そこには、勲章や賞状がずらりと並んでいた
「どれもすごいものばかりです!」
「そのほとんどが、国の危機を救ったんだよね?」
「しかも、たった一人で」
「超…天才…」
「や、やめろよ、お前ら…。別に俺は、天才じゃない。元冒険者だよ」
娘たちにこう言われると、照れるな…
すると、ルイが壁に懸けてある服を見つける
「これって、父さんが昔来てた服?」
「そうだよ、冒険者をしていた頃の服だ。英雄になった記念にって、飾ったんだっけ」
「なんだかんだ言って、誇りに思ってるんだね」
「い、いいじゃないか!!それくらい持ってたって!」
「キレなくてもいいじゃない」
娘の前で、恥ずかしい一面を見せてしまった俺だった
☆
夕食
「おお、アリアの手料理なんて久しぶりだ。美味そう」
「どうぞ、召し上がって」
「いただきます」
「「「「いただきます!!」」」」
10年ぶりに食べるアリアの手作り
懐かしい味に感極まったのか、俺は涙を流してしまう
「父さん、大丈夫!?」
「ごめん…、あまりの懐かしさに…。ちょっと、顔洗ってくる…」
いかんいかん…
さっきのは、大人げなかったか?
スッキリして、椅子に座った時
「タクトさん。はい、あ~ん…」
アリアが、俺にあ~んをさせようとして来る
アラフォーなのに、少し恥ずかしい
しかも
じ~~~~~~~~~~
っと娘たちが嫉妬の目で見てくる
やるのか?
やらないのか?
いや、くよくよしては漢の名が廃るというもの
ここは、食べる!
「はむっ…」
「「「「あああああああああ!!???」」」」
でかい声出すな!
耳がキーンとなってしまった
「母さん、ずるい!!」
「ふっふっふ…。母であり妻である私の特権ですよ?」
あの、火に油を注ぐような言い方をしている気がするんですが…
「なら、私も父さんにあ~んしてあげる!」
「ルイも!!」
「負けません!!」
「抜け駆け…禁止…」
やっぱりこうなった~~~!!
というか、ちょっと待って!
皆のあ~んをする量、多すぎやしないか?
「な・ら、奥の手ですね♡」
…な、何をする気だアリア?
「タクトさん…」
次の瞬間、俺は頭の中が真っ白になった
何故なら、アリアは口に食べ物を含みながら、俺にキスをしてきたのだ
これには、4人も唖然としていた
特に、クラリスはオーバーフローを起こしていたが…
「こ、これが…大人のあ~ん…なのね…」
「で、できるわけがない」
「母さんには敵いませんね…」
「あわわわわわわわわわ………」
さすがに諦めがついただろうと思っていたのだが…
気のせいか、対抗心の炎が見えたような…
“絶対に負けない!!”
そんなフレーズも聞こえてくるようだった
どうも、茂美坂 時治です。
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