間章 SWの夏祭り!・六
『次は、彼女だぁあああああああああああああ!』
アイの出番が終わり、次に出て来たのは……能村姉だった。
「なんだ雀芽……かっ!?」
姉の登場に興ざめしたようすの能村だったが、その格好をよく見て、目を見張った。
「なん……だと……?」
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
『おぉっと、能村雀芽、登場してさっそくの歓声だ! まあそりゃそうかもしれないな!』
能村姉が、舞台の前に立つ。
その姿は――。
『巫女服だぁああああああああああああああああああああああああああ!』
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
そう。巫女の格好だった。
『神に仕える日本の代名詞!』
いつから巫女は日本の代名詞になったのだろう。
『神楽や祈祷を捧げるその姿は、まさに美! 白と赤のコントラストが堪らないっ!』
――堪らないいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!
実はここに集まってるのって、ほとんど変態だろ?
『さらに……さらに、だ! さっきはウサミミだったが、これを見ろ! 見やがれ! いや見てください!』
「……雀芽め……っ!」
能村が絞り出すような声を出す。
その視線の先にある、能村姉の姿は、巫女服で……そして、あれは……、
『キツネ耳に尻尾だぁああああああああああああああああああああああ!』
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
そう、
少し尖った印象の耳に、巫女服の腰の後ろから生えているのは、ふわりと柔らかそうな厚みのある尻尾。
キツネ……キツネ、か。
なるほどな……。
能村姉は正直気に入らない性格をしているが……今回ばかりは俺の負けか。
……何を言っているんだろう俺は。
『果たしてこの中にどれだけキツネの良さを分かっているやつがいただろうか! マイナーかもしれない。ウサミミと比べれば、確かにマイナーだろう。だがしかし! マイナーだからと下に見ることは許されない! 今こうしてこれを目の当たりにしたテメェらなら分かるだろう!? 今てめぇらはキツネの良さをはっきりと認識したはずだ!』
――キツネ最高ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「どうしよう嶋搗! 雀芽が! 双子の姉が可愛いと思えきた……!」
動揺しきった能村が俺の肩を掴んで激しく揺さぶる。
「……能村」
「な、なんだよぅ」
「……今だけは、いいんじゃないか? これは、そういうイベントだろう。身内かどうかなんて、関係ないさ」
「――っ!」
はっ、と。
能村が、目を見開いた。
「……そう、だよな……これは、そういう趣旨のイベントだもんな……身内だからって遠慮するのは、むしろ失礼……!?」
一歩、二歩と後ずさり、そして能村は、真っ直ぐに顔を上げた。
そして……、
「キツネ最高っ!」
……俺がなんだかんだと言ってしまったわけだけれど、実の姉に向かってそんなことを叫ぶ能村が遠く感じた。
『ではアピールしてもらおうか!』
『ええ……』
こほん、とマイク越しに能村姉が咽喉の調子を整える。
『とりあえず、私に票をいれてくれると嬉しいわね。無理にとは言わないけれど。以上』
『へ……?』
短いアピールに、さしもの皆見も一瞬呆然としが、すぐに取り直した。
『こ、これは多くは語る必要はないという自信の表れか! 巫女強し! そんな可愛い耳とか尻尾とかつけておいてクールか、クールなんか!? そのギャップに惚れるぜ!』
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
皆見のこういう、人を盛り上げるセンスだけは感心する。
能村姉は、そのまま舞台の後ろの方へと歩いて行った。足を進める度にキツネの尻尾がふわふわと左右に動く。
「……やべぇ俺、これから雀芽の顔を真っ直ぐ見られる自信がない」
「お前も頑張れよ……」
能村も大変そうだった。
『さあ、止まらずに次に行くぜぇ!』
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
次いで、舞台袖から出てくるのは……リリーだ。
その姿は、これまでのものとは違った異彩を放っていた。
観客の間にどよめきが生まれる。
『リリシア=メデイア=アルケインの登場だ!』
歓声はない。
それよりも、驚愕が観客の顔には浮かんでいた。
……俺も、少し驚いた。
『テメェらも驚いたようだな! オレもこれは多少驚いた!』
リリシアの服装は……燕尾服、だった。
執事だ。
つまり……、
『ここにきて男装の麗人だぁああああああああああああああああああ!』
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ここで驚愕に遅れて、歓声が上がった。
『なんてこったい男装だなんて誰も予想していなかったに違いない!』
コスプレのミスコンで執事のコスプレ……確かに、これは予想できそうにない。
『こんな執事が欲しい! そう思ったやつは正直に謝罪しな!』
――すみませんでしたぁあああああああああああああ!
なぜ謝罪?
……にしても、似合ってるな、リリー。
『男だって燕尾服をここまで着こなせるやつがどれだけいるか……銀色の長髪をひとくくりにしてるのもポイントか!』
リリーは普段は頭の後ろで一纏め――つまり、俗に言うポニーテールという髪型にしているのが、今回は髪を首の後ろの辺りでくくっていた。
少しすらりとした印象が増したようにも思える。
『なんなんだこの長年執事やってますみたいな品の高い雰囲気は!』
……まあ家柄が家柄だしな。
子供の頃に礼儀作法とかは叩き込まれているんだろう。それが、品の良さとして現れているってところか。
それがまた、執事っぽさを演出しているとでも言えばいいのだろうか。
……あと、あの無表情だな。
こんな不特定多数の人間に愛想をふりまくようなやつじゃない。そのことが、逆にそのコスプレの完成度を上げている。
『早速アピールタイムだ! どうぞ!』
リリーがマイクに唇を近づけた。
そして、開口一番、
『次に出てくるのは子はとても可愛らしいわ』
――は?
……いやいや、あいつは何を言っているんだ。
舞台袖から「何言ってんのこの馬鹿!」という声が聞こえた気がしたが、とりあえず今はリリーだ。
あいつは一体どういうつもりなのだろう。
辺りが静寂に包まれた。
『以上』
……え、終わり?
アピールなのか、今のって……。
『っ、こ、これは……』
皆見にも流石に戸惑いが滲む。
『これは、まさか……執事!? 執事として自分はスポットライトを浴びないという意思表示!? そして他人への気遣いを忘れないという精神!?』
それは無茶があるだろう。
と思ったのはどうやら俺だけだったらしい。
――そんな執事に惚れるぅううううううううううううう!
こいつらもう駄目だろ。
『そんな執事さんが可愛いと言う次の参加者に期待しつつ、執事さん後ろに下がってくれい!』
リリーはそのまま、静かに舞台の後ろに下がる。
……なんだったんだろ、あいつ。
どうしてこのイベントに参加したんだ?
『それでは期待が膨らむ次の子、来て貰おうか!』
――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
歓声のなか、しばらくして、その小さな姿がゆっくりと舞台に出て来た。
その瞬間――時間が停まった。
ちなみにコスプレの内容は以前活動報告で出た意見を参考にしています。