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間章 SWの夏祭り!・四


 ふうん。



「ミスコン、ねえ……」



 その会場では、ミスコンなるものが行われるらしかった。


 ……本格的にこの祭りはなんでもありなのね。



「アマリン、アイアイ、参加だ!」

「嫌よ」

「やだよ」



 私は冷淡に、そしてアイは恥ずかしそうに皆見の言葉を断った。



「てめぇら自分の容姿をこんな時にこそ活かすべきだろ!」

「知らないわよ、そんなの」



 まったく、ふざけてんじゃないわよ。なんでわざわざ沢山の人間の目に晒されなくちゃいけないのよ。


 私は、そういうのが一番嫌いなのよ。



「くぅ、この分からず屋どもめ……!」



 好きに言いなさい。



「……ん?」



 そこで、皆見がふと何かに気づいたらしく……いやらしい笑みを浮かべた。



「ちょーい、お嬢さん。秘密のお話があるんですがねえ」

「なによ、気持ち悪いわね」



 皆見が顔を寄せて来て、私にだけ聞こえる声量で喋る。



「こないだ、いろいろあってシーマンにブラックスペースへの渡航許可証貰ったじゃんか?」



 言われ、横目で嶋搗のことを窺う。あいつはこちらを訝しむように見ていたが、すぐに興味なさそうに視線を外していた。



「……それが?」

「恩返ししなくていーのかい?」



 確かに、それは私も考えた。


 けど、相手は嶋搗よ?


 恩返しなんてしようものなら「そんな面倒なことはいい」ってぶっきらぼうに変な優しさを見せるやつなのよ?



「おっと、お嬢さんが言いたいことはぁ、分かりますとも。そこであちらをご覧ください」



 皆見が示したのは、ミスコンの舞台の一角。


 どうやらミスコンの賞品が並べられているらしい。


 と――その一位の賞品に視線を奪われた。


 あ、あれって……!



「ブラックスペースへの、渡航許可証……!?」

「おーいぇーす」



 にたり、と皆見が笑った。



「あれを手に入れて、シーマン誘えば恩返しになるんでねーの? アマリンだってこのまま貸しがあったんじゃ後味わりーだろ? そこで、ほら。ユー参加しちゃいなよ!」

「くっ……」



 そ、それは確かに……魅力的な話かもしれない。


 ブラックスペースへの渡航許可証なんて、普通手に入るものじゃない。嶋搗への恩返しにあれほど相応しいものもないだろう。


 だけど……っ。



「いいじゃねえか……ほんのちょっと笑顔ふりまきゃオッケーなんだからさ」

「そうは言っても……!」

「なら、こうしようぜ」



 皆見が、ぴっ、と人差し指をアイに向けた。


 突然指さされてアイは困惑顔だ。



「アイアイを俺が説得して出場させる。そしたら、アマリンも出るってことでどうだ?」

「……それは」



 まあ、アイもあれだけ嫌がってたんだし……皆見がなにを言ったところで出場なんて、しないわよね?


 それに、例え出るとしてもアイと一緒なら……。



「分かったわ」

「よし」



 皆見がアイの方に駆けて行った。



「い、嫌だよ! なんで私がミスコンなんか……恥ずかしいし!」

「これはあの二人の為だ! ブラックスペースという危険な世界に二人だけ。そんなシチュになればあの二人にもなんか進展があるかもしんねえんだぞ……!?」

「そ、それは……でも……」

「お前の友情はその程度だってのか!」

「……!」



「……まあ、参加するのは……いいわよ?」



 アイが参加すると言い出した時は、耳を疑ったものだ。



「人の目に晒されるのは嫌だけど、まあ我慢するわ」



 参加申し込みは問題なく終了し、私達が今いるのは参加者の為に設けられた部屋。私達より先に参加を決めた人達が何人か既にいた。



「でも……だけどね、」



 部屋の隅には、カーテンで仕切られた試着室が五つ用意されている。


 そう、試着室だ。


 試着室があるということは、つまり試着するものがあると言うこと。


 そして、その試着するものは……部屋の半分ほどを埋め尽くすほどの、大量の衣類。


 しかもあろうことかそれは――、



「コスプレのミスコンだなんて聞いてないわよ!?」

「いーじゃねーか、コスプレくらい今更」



 あっさり言う皆見の顔面を私の拳が捉えた。


 ちっ。


 上手く後ろに跳んで威力を殺したわね。


 皆見は大したダメージもなさそうに、どこか偉そうに腕を組んで、鼻をならした。


 なんだこいつ、うざいぞ。



「任せておけよ、二人とも。オレにまかせてくれれ!」

「任せられるか!」

「まったくだよ!」



 私とアイが同時につっこむ。


 皆見はとうぜん参加者ではない。なら、何故こいつがここにいるのかといえば……私達のコーディネイターとして、らしい。非常に不本意なことだが。


 ちなみに嶋搗は一人でその辺を見て回っているらしい。イベントが始まったら来るとのことだ。



「そんなことを言っていいのかなあ、アマリン?」

「な、なによ……?」

「アマリンやアイアイに、優勝を狙うコスチュームが選べるのかい? 観客受けのいいものがどんなものか、分かるのかい? オレの助言なしに優勝できるのかなぁ?」

「ぐぅ……っ!」



 そう言われると、言い返せない。


 コスプレなんて、したことないし……。



「オレにまかせてくれ。大丈夫、オレはコスプレには一家言もつ男だ!」



 ……くっ。


 今日ばかりは、仕方がない。


 ……ちくしょう。



「へー。コスプレのミスコンか。面白そうだね」



 その会場の前を通りがかって、佳耶がそう呟いた。


 その瞬間、私は彼女の手を掴んで動いていた。



「参加ね……!」

「うわっ、ち、違うよ!? 見る分には! 見る分には面白そうってこと! 参加したくなんてない! なんでそんな超乗り気!?」

「私がコスプレした佳耶を見たいのよ」

「だからそういうオヤジ趣味はやめよう!?」



 とりええず、佳耶が抵抗するので引っ張るのは止める。



「でも実際、佳耶ならば優勝だって出来るわよ?」

「リリーが参加すればいいじゃん」

「私はいいわ」



 佳耶がコスプレするのを見るのがいいのであって、別に自分がコスプレしてもどうとも思わない。



「あら、リリシアも十分優勝圏内だと思うけれどね? ねえ、隼斗」

「そーだな」



 雀芽と隼斗もそんなことを言ってきた。



「……そうね。なら、佳耶。私も参加するから、佳耶も参加しましょう?」

「いやいやそれどういう理屈? 参加するなら一人でしてよ!」

「つれないことはいわないで」

「や、ちょ、引っ張らないでよ!」



 それでも佳耶はまだ抵抗した。


 ……まったく、どうすればいいのだろう。


 ここで諦めると言うのは有り得ない。


 佳耶のコスプレを見られる機会なんて次にはいつ来るかも分からないのだ。


 ここは絶対に参加させなくては。



「なら雀芽も参加させましょう」

「私の意思は?」



 雀芽が尋ねて来たけれど、今は答える暇なんてない。



「どう?」

「だから、なら二人で行って来てよ!」

「そうしたら残された隼斗と二人きりでいることになるのよ?」

「それは苦痛だ!」

「なんですと!?」



 言い切る佳耶に隼斗が目を剥く。



「苦痛とまで言うか!」

「当然でしょう!?」

「……そこまで言うことないじゃねえかよぅ」



 なにか傷ついたらしく、隼斗は地面に崩れ落ちた。



「私が参加するのはもう決定な流れなのね……」



 そう言う雀芽は、まあそれほど嫌がっている様子でもないので問題ない。こういうことにあまり抵抗のない性分なのだろう。



「でも私は参加しない!」

「そんな我が儘を言わないで……」

「どっちが!?」



 佳耶が叫んで、後ずさる。



「それに、ほら。見て、あの賞品」

「え……?」

「ブラックスペースへの渡航許可証」

「な……なんですと!?」



 ぐるん、と佳耶が視線をそちらに向ける。



「本当だ……」



 それを確認して、佳耶が唾を飲み込んだ。


 かと思うと、



「リリー、雀芽、行こう!」



 いきなりやる気を出し始めた。


 佳耶のことだから……、



「よっしゃ待ってろまだ見ぬ強敵!」



 まあ予想通りの反応だ。



「相変わらず熱血ね」

「ええ……」



 ちなみに。


 私の父に頼めばブラックスペースへの渡航許可証の発行手続きくらいしてくれるのだけれど、それは言わない方がいいわね。



「あれ……天利だ」

「麻述……? それに、リリシアや、能村も……」

「久しぶりね。貴方達も参加するの?」

「うん」

「でも悪いわね。優勝は私がもらうから」

「あら、麻述。それは私の台詞よ……ここまで来たんだから、もう負けられないのよ、私は」

「そっちの渡航許可証狙いか……!」

「あー、はいはい睨みあってねーで、アマリン次はこれ試着してきてくれ。アイアイはこっちな」

「佳耶もこれ、着て見て?」

「な、なによこれ……ちょ、ええ!?」

「は、恥ずかしすぎるよ!」

「リリーこれはないって!」

「「大丈夫」」

「「「大丈夫じゃない!」」」

「私はどれにしようかしらね」



分かっている。みなまで言うな……つまり、そういうことだろう?

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